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戦国野望  作者: 丸に九枚笹
第五章
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第五章 79話 父と備後と祖父

1554年4月15日


長い列が続いている。俺がいるのは三部隊に別れた先頭部隊の後方。先頭は湯塚玄蕃叔父が指揮している。次が父上。後は室賀備後。兵の数は、父上が指示した通り各部隊千ずつ、合わせて三千と数は多くない。戸隠衆もそんなに連れてきていない。俺も、又兵衛、采女は連れているが、その配下は少なくしておいた。六神隊も連れておらず、小姓は新しく家臣にした二人だけだ。



この一ヵ月は領内を固めた。



まず西。安曇郡には仁科盛政。筑摩郡には五千の兵がいる松本城を鎌田内膳叔父が守っている。さらにその南西にいる木曽福島城の木曽家嫡男木曽義昌14歳に、父の妹、椿13歳が嫁に行くことになり、木曽家は大峰家に完全に臣従した。こうして西を固めた。

次に南は、武田家、北条家にも越後に行くことを知らせておいた。この二家との関係は良好だ。

東の上州は黒田掃部叔父、真田弾正、馬場美濃、内藤修理が地固めを着々としている。前橋城はまだ完成には遠いが形は見え始めている。農業土木工事も順調に進んでいるようだ。


俺は、今日も九字兼定と不動國行を腰に差している。最近この刀の話には触れていなかったが、この二振りと童子切安綱、三日月宗近、骨喰藤四郎の五振りを色々と組み合わせて差している。義輝様に頂いた大切な刀だ。


今朝早く出発し、大峰城から真っ直ぐ北に進み、野尻湖工業地帯を抜け、妙高高原まで来た。この辺りからはもう越後になる。しかし、既に大峰の勢力が強く、ほとんど大峰に従っている。一度休憩を取ったが、騎馬が多かったので、昼過ぎには何も問題なく中郷、新井と進み、春日山はもう目の前まで来た。



と、その時、ドーーン、ドーーンと銃声が二発響いた。


信輝「何事だ!采女!父上を!」


采女「ハッ。」


信輝「又兵衛は撃った者を!」


又兵衛「ハッ。」


信輝「与一、巳六、一応構えておけよ。」


与一「ハッ。」


巳六「わかりました!」


何だ?こんな場所で。晴景殿の勢力圏のはずだ。今日我らが行くことは言ってある。警備は厳重にしているはずだ。敵方に漏れていたか?誰だ?長尾景虎か?明智光秀か?今の音はただの火縄銃だったが、誰を狙った?


周りがざわついている。



采女「殿!!大殿が!!」


信輝「何!」


脇目も降らず駆け出す!


父上が狙われた。


誰にだ。


くそっ。




見えた。父上だ。


地面に座った父上の周りを兵たちが固めている。


父上のもとに駆け寄る。


信輝「父上!」


信秀「おう、武衛か。大事ない…騒ぐな。玄蕃には…、このまま春日山に行かせろ。………ここの人数も連れて行くように……。二千…もあれば足りるはずだ。」


信輝「采女!そのように玄蕃叔父に伝えてくれ。父上は撃たれたが無事だとも。長尾殿だけには伝えてもいいが、長尾殿の兵たちには知られないようにしてくれ。そしてすぐに戻ってきてくれ。」


采女「畏まりました。」


信秀「備…後の………兵に守ら…せ…てわしは…大峰に…帰る。お主も来い…。」


そこまで言って父上は気を失った。撃たれたのは左肩の辺りだ。血がかなり流れている。なんとか心臓は外れている。傷口を見ると撃たれた部分が腫れている。弾は貫通したようだ。まだよかった。晴景殿にと持ってきていた焼酎を持って来させ傷口に吹きかける。その後、薬草を傷口に当て、布できつく縛って止血した。




そこに今度は備後の兵が駆けて来た。あれは備後の側近のはずだ。


「若様、備後様が!」


信輝「備後がどうした?」


「う、撃たれました!」


信輝「何!備後もか!」


父上の側近たちに父上を運び備後のところに来るように言い、兵たちには玄蕃叔父の指示に従うように伝え、俺は今度は備後の元へ駆ける。



何なんだ一体。


備後も撃たれるなんて。



備後は馬から降り、その場に座っていた。


備後の周りも兵たちが固めている。


信輝「備後!どうした!」


室賀備後「若、申し訳ございません。腕を撃たれました。」


父上程はひどくなさそうだ。よかった。


信輝「今傷を見る!」


室賀備後「はい。」


いや、ひどい。血はそこまで出ていないが。骨をやられている。弾も残ってしまっている。


これは備後が気力で起きているだけだ。失神してもおかしくない。


信輝「焼酎を持ってこい!備後、弾を取り出すぞ!」


そう言って不動國行を抜いた。まさかこんな形で使うとは。


室賀備後「若に任せます。」


備後に布を口に噛ませ、周りの者に焼酎をかけさせながら、上腕を切る


なんとか弾は取り除いたが、血がかなり出た。


室賀備後「若、忝い。若にこんなことをして頂けて、備後は幸せです。」


そこまではっきりと言い切って、備後も気を失った。


すごいな、備後。





その後、俺は備後が指揮してきた兵をまとめ、戻って来た采女に援軍を呼びに行かせ、二人を慎重にだが、急いで運んだ。急を聞いて駆け付けた、山下兵庫、中村主計の二隊と妙高で合流した。騎馬隊だけで余程飛ばしてきたのだろう。二人とも全身汗だくだった。



二隊に守られ大峰に着いたのはもう夜中だった。父上の屋敷に二人を運んだ。医者を呼び、二人を診てもらう。

廊下にいる俺には、医者たちが懸命に処置を施す声が聞こえる。予断を許さない状況のようだ。



弟たちや備前、六神隊の将たち、祖父、師匠も駆けつけた。


広心「どうじゃ?」


俺は黙って首を振る。


広心「そうか。見守るしかないの。」


全員無言で、ただ廊下に座っていた。


何も考えられなかった。


祖父が話しかけてくれたが、あまり耳に入ってこなかった。


屋敷は篝火も焚いていない。






それから一刻は過ぎただろうか。


長くも短くも感じた。


医者が部屋から出て来た。



全員の注目が集まる。


「なんとかお二人とも一命は取り留めました。応急処置がよかったようです。」


「おーー!」


暗闇に歓喜の声が響いた。



「お静かに。命は問題ないでしょうが、ひどい熱が出ています。我らはまだしばらく治療が続きますので、皆様は一度屋敷へ戻られ、また明日の朝お越しになられたらよいでしょう。」


広心「そうか。宜しく頼みます。皆聞いたか?一度解散じゃ。」


一同「ハッ。」


広心「武衛だけは来い。」


信輝「ハッ。」



皆は屋敷を出て帰って行った。俺は祖父に連れられ、父と備後が寝ている部屋から少し離れた部屋に入った。


黙って座った祖父に、座るなり頭を下げて言った。


信輝「申し訳ございません。」


広心「なぜ謝る?聞けば、今回の警備を緩くしたのは右京だったそうではないか。」


信輝「油断していました。」


広心「皆少し油断していたのかもしれぬな。」


信輝「はい。」


広心「二人とも命が助かって何よりじゃ。」


信輝「はい。」


広心「今回のことで学んだこともあろう。」


信輝「はい。」


広心「まあ、そう気に病むな。二人とも無事だったのじゃ。」


信輝「はい。」


広心「お主を呼んだのは叱るためではない。最近この信濃辺りだけではなく、他国も大きく動いているようじゃ。」


信輝「はい。」


広心「一つの事柄や場所にとらわれずに、大きく物事を見ることじゃ。そして己の感情に惑わされず現実を見よ。さすれば、道は必ず開かれるはずじゃ。お主には大きな使命がある。己を信じよ。」


信輝「はい。」


よくはわからなかったが、祖父の言葉が胸に突き刺さった。


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