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黒瀬②


 「入って大丈夫ですか」


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 給湯スペースの前で、黒瀬が言った。


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 「……なんでいるんですか」


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 「清掃、入ってるので」


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 あくび混じりに言う。


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 手には雑に持った道具。


 袋の口もちゃんと閉じられていない。


 ここの清掃員だったようだ


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 さっき食べていたパンの袋も、そのまま丸めて突っ込んである。


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 「さっきの社員証で分かりました」


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 そう言いながら、中を覗き込む。


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 「これですよね」


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 コーヒーメーカーを軽く叩く。


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 「こういうの、溜まるんですよ」


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 言い方は適当なのに、妙に慣れている。


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 「水、替えてないですよね」


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 タンクを覗く。


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 「……濁ってる」


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 ぼそっと言う。


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 「中も、ちゃんと洗ってない」


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 指で縁をなぞる。


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 「触ると分かるやつです」


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 雑な説明。


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 でも、間違ってはいない。


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 「で、ここに」


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 指先を軽く振る。


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 「ちょっとずつ何か入る」


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 「……入る?」


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 「手とか」


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 「あと、粉とか」


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 「スプレーも、まあ飛びますし」


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 やたら具体的だった。


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 「それ、残るんですよ」


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 「完全には流れないので」


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 軽く言う。


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 「薄まるけど、ゼロにはならない」


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 タンクの中を指で円を描く。


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 「で、また使う」


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 「また何か入る」


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 「また使う」


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 同じことを繰り返す。


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 「それが何回か続くと」


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 黒瀬は少しだけ笑った。


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 「まあ、飲みたくない感じにはなります」


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 軽い。


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 でも。


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 「飲む側によっては、普通に崩れます」


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 言い切る。


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 その言い方だけが、妙に重かった。


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 「……なんで分かるんですか」


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 思わず聞く。


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 黒瀬は少しだけ考えて、


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 「なんとなくです」


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 そう言った。


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 まるで、どうでもいいことみたいに。

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