黒瀬①
――社長が倒れる前の話だ。
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昼休み。
コンビニの前で、適当に飲み物を選んでいた。
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甘いのと、炭酸。
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「それ、組み合わせ悪いやつですよ」
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横から声がした。
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振り向くと、女がいた。
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髪は少し乱れていて、シャツもどこかよれている。
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手には、開けかけの菓子パン。
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「……何がですか」
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「それ」
顎でペットボトルを指す。
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「たまに気持ち悪くなるやつです」
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適当なのに、妙に断定的だった。
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「まあ、別にいいですけど」
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興味なさそうに言って、またパンにかじりつく。
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そのまま会話は終わった。
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帰ろうとしたとき。
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「それ、落ちてましたよ」
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呼び止められる。
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社員証だった。
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「……あ、どうも」
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「この辺の会社ですよね」
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「まあ」
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そのとき。
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ぐぅ、と音がした。
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はっきり聞こえた。
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「……今の、私です」
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本人が言う。
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隠す気がない。
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少しだけ迷ってから、袋のパンを差し出した。
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「食べます?」
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「いいんですか」
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言いながら、もう受け取っている。
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遠慮がない。
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「じゃあ、もらいます」
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その場で開けて、普通に食べ始める。
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「黒瀬です」
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口に入れたまま名乗る。
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それ以上は、何も言わない。
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ただ――
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「組み合わせ、やめた方がいいですよ」
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さっきと同じことを、もう一度言った。
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そのときは、ただのだらしないやつだと思っていた。




