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森の奥には〇〇が暮らしている  作者: 高崎まさき
4.答え合わせ
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4-2 第二の理由

4-2 第二の理由


「それで、君がフォルセーラ財閥のアイネの実探しを確信したところまではわかったよ。じゃあ、何で僕がその雇われた一員でおまけに盗みに来たと?」

「二つ目の理由ね。これは一言で表せばオルナ町が近くにあったからよ」

 僕は小さく溜め息をついた。

「理由になってない」

「言い方を変えるわ。今日、エドワードと私の会話聞いていたでしょう? いい迷惑だけどあいつが突然怒鳴り出したのもわかるのよ。『犯罪者一人見つけられない警官だの中央からここまで犯罪者を逃がした無能だの、そんな面で見てきやがって!』って。ところでエドワードは知っている業者の人だった?」

 エレノアが低く吠えるように言い放つ。似てない物真似に苦笑しながらも僕は首を振り否定の意を示した。

「知らない奴だった。たぶん依頼業者の一味だけど組織で情報が周知されてないのかな。……僕が依頼失敗の落とし前をアイネの実でつけるのって向こうからの脅迫なのに」

「出世のための手柄だと暴走した下っ端の可能性もあるわ。本当にあなたが逃げたまま行方がわかっていない冒険者だと思い込んでいたようだし。いずれにせよ杜撰ね」

 僕の罪と事情と任務の告白を意に介さず、エレノアは依頼業者をばっさりと切り捨てる。エレノアからすれば既に見抜いていたことなんだろうが、それでいいのだろうか。拍子抜けしながらも僕は結局足だけしか視界に留めなかったエドワードに考えを巡らせる。

 あの突然の激昂は妙だった。僕の依頼主やその業者は決して柄の良い連中じゃないけど、まるでエレノア以外の人間からも侮蔑の視線を送られてきたような反応だ。

「もしかして」

 つまりは。

「オルナ町に僕と似たような冒険者が? エドワードは先にオルナ町に寄って僕を探した」

「半分正解だわ。正確には悪質な契約を結ばされて逃げて来た冒険者の何人かをオルナ町の公共施設が保護したの。それと同時に明らかに怪しい奴等が人探しだとオルナ町をうろつくようになった。それが五カ月の話で、当然私の耳にも入ってきた。前に言ったでしょう? オルナ町はエイタ領中央に対して反骨精神を持っている連中ばかりで冒険者に対する援助や支援が手厚いと」

「前に路地裏で僕に教えてくれたのは」

「何かあったら頼れる施設があると、それだけは伝えたかったの」

 あの真剣な眼差しにそんな意味が。僕は想像していた以上に“逃げ道”を用意されていたらしい。

「で、そういった活動を行政が続けていれば裏の連中にも情報が伝わる。裏社会で行なわれている悪事に行政が本気で介入、調査し、潰しにかかる危険を察知したんでしょうね。三、四カ月前には裏の連中は逃げ、そしてもう駆け込んでくる逃亡者はいなくなった。悪い奴等の冒険者探しは打ち切られたと聞いてたのよ。……私の落ち度だわ。ごめん」

「それってエドワードのことと、僕をオルナ町に連れて行くんじゃなかったって前に温室で謝ってきたこと?」

 エレノアが弱々しく頷く。

「気にしないでよ。僕もまさか先走った奴が探しに来るなんて思わなかったし。そもそもアイネの実を盗めと言われた時に、こっちから生態の話はしたんだ。あいつら金になるからだけしか知らないで、アイネの実……というか植物のことを何も考えちゃあいなかった」

「どういうこと?」

「アイネの実って種を蒔いてからちゃんと育ったとしても収穫できるまでに最低三カ月、長ければ四、五カ月はかかるだろ? だからエレノアの家を指定された時に言ったんだ。『盗みに行ったとしても収穫できるかはその魔法使い次第だし、種を蒔いたすぐ後だったら最低でも三カ月は時間が必要です』って」

「そいつら、私の家のアイネの実の生育状況も知らずによく脅迫の材料に使ったわね」

 そこよりもエレノアがアイネの実を育てているのが周知されていたのに危機感を覚えた方がいいのではないのか。盗人の分際でだが苦言を呈すれば「魔法薬局を営んでいる以上、周知の事実であり複数の貴族から買い取りの交渉が来たこともある」と返された。

「で、納得はしてもらえたんだ?」

「一発殴られたけど、そこのまだ賢い幹部がボスに本当だと伝えたらあっさり許可が下りた。無いものを持ってこいと脅迫されても果たせやしない。どうせ犯罪に手を染めるなら成功の確率を上げたかった。失敗して殺されるならまだしもあいつらが馬鹿だったから殺されるなんて真っ平御免だ」

 僕が息巻けばフフっとエレノアがふき出す。「それはそうね」と愉快そうに。

「その……実はこっそり最初に町に出た時に業者の連中に公衆電話から連絡したし、その時にアイネの実の生育状況を伝えて『余裕を見て二カ月は監視はするが関与しない』と約束した。そんなことがあったから僕も積極的にオルナ町に出て行った。僕も顔はわからないけれど、冒険者の振りをしてオルナ町に代わる代わる業者の人間が滞在して僕が君と仲良くやっているのを監視していたんだよ」

 僕がオルナ町の住民に顔を覚えられたくはないが、それでも町に出るのを選んだのはこれが理由だ。

「まあそうでしょうね。さすがに連絡なしで放置はあなたが今度こそ逃げ出す可能性があるから」

「だから君は全く悪くないし、むしろ好都合だったんだ。気にしないでほしい」

 歪んだ顔が映る琥珀色の液体を僕はまた口に含む。苦く、そして温かかった。

「なら良かった。それで話を戻すけれど」

 エレノアは得心したように口角を上げ、机に肘をつき両手を目の前で組んだ。

「オルナ町の行政が掴んだのは冒険者に対して無理難題を突きつける……難度の高過ぎる魔物討伐の依頼を中央で裏社会の組織が出していること。そしてその罠にかかってしまい当然達成できない依頼を抱えた冒険者達が、ペナルティーという名の制裁を恐れオルナ町に逃げて来たことよ。オルナ町としてはとりあえず冒険者の保護と契約の破棄、中央警察との連携を行なった。そして管轄の問題で残りの冒険者の捜索と保護、そして裏社会の組織の捜査や処遇は中央に任せることとなった」

 エレノアが眉根を寄せる。つまりやるべきことをやって後は正規の手続きで中央に頼むしかないのだ。中央とフォルセーラ財閥が繋がっていて、揉み消されるとしても。

「エレノアは警察にフォルセーラ財閥との関連性を伝えなかったんだ」

「物的な証拠はないわ。ここだけの話、既に警察の間でもフォルセーラ財閥が“黒”だって噂はあったの。それからさっきあなた自身が言っていたけど、『フォルセーラ財閥が裏で糸を引いている』って証言する冒険者もかなりいた。だから工場建設の調査を違法で行なっている組織と繋がっている、それどころか命令しているのはあのフォルセーラ財閥だって勘付いていた。けど現場での雰囲気からの憶測だけじゃ証拠にはならないし、手出しもできない。中央管轄の場で起きたことだからオルナ町は直接来た者を守ることしか……」

「既に証言……証拠にはならない妄言としか捉えられないだろうけど、あったの?」

 エレノアが首肯する。なるほど、先程の妙な間は自分の推理と僕の証言の擦り合わせの思考のためのものか。

「ところでアイネの実のことは?」

「こっちも既に。刑事さん達はやっぱり早々にアイネの実絡みの調査だと見抜いてはいたのよ。問題はやっぱり物的証拠がなにもないし、捜査の権限もないことだけど」

「ねえ。この話ってやっぱり情報通からの?」

「それもあるけど、オルナ町の住民は皆ある程度までは察してはいるわよ。ここまで詳細に知ってるのは私みたいな物好きだけだと思うけどね。でも代わりに情報をかき集めた今までの私の推測交じりの話、そこまで間違ってはいないんじゃないかしら」

 へぇ、と僕は純粋に感嘆の声を上げる。エレノアの推測だけじゃない。まさかオルナ町の警察がそこまで掴んでいるとは。そして自業自得とはいえ、足しか知らないエドワードに欠片程だけ同情した。彼はきっと“敵”として住民に睨まれたのだろう。あの激昂振りからして、きっと町でも件の悪党だとわかる言動を取ってからここに来たのだ。冷ややかで侮蔑に塗れた視線を送られ続けた後で。

「つまりオルナ町の然るべき組織……警察は“フォルセーラ財閥がアイネの実欲しさに嘘の調査を行なっている。実行犯は裏社会の組織。冒険者をぞんざいに扱う契約を秘密裏に結んで、倒せっこない魔物と戦わせていた。そして依頼失敗からの制裁を恐れた冒険者が自分達の町へ逃げて来た”と勘付いていたってことか。で、エレノアも町の状況や独自の情報網から同じような結論に至った。そんな前提条件があったから」

「ええ」

 組んでいた手を解き、両手をテーブルの上に置いた。

「以上があなたのことをアイネの実狙いの人間だと思った二つ目の理由よ」


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