渡辺大弥を仲間にしただと!?
☆★☆ 放課後 杉見手芸店 ☆★☆
「竹中く~ん」
村上さんの声が俺の今の作業場に届く。
午後3時15分頃。
俺が心底会いたいと願っていた、3人の仲良したちが俺の今の作業場にやってきた。
「お~、会いたかったよ」
手を止め顔を上げ、ついつい本音が漏れた。ちょっと恥ずかしくなってしまったがまあいい。嘘偽りのない俺の本心だ。
「あれ? 随分と素直じゃない? どうしたの?」
西村さんが真っ先に反応した。
「ははっ、まあ、ちょっとね」
淋しかったなんて、そこまでは流石に言わない。
「ところで竹中くん。授業のノート、ここにある?」
「あるけど…なに?」
「今日の授業の板書。してあげる」
「おお!」
「亜子ちゃんの発案なんだよ~」
「どうせ先生に、後から『ノート写させてもらえ』って言われると思ってね」
さすが西村さん……よく気が付くし、優しいんだな。
「わたしは国語と数学を写してあげるわ」
と森口さん。
「わたしも~日本史書く~」
これは村上さん。
「で、私が英語と物理ね」
最後に西村さん。
「字が竹中くんのと違うかもだけど、きっとバレないから。竹中くんは作業に集中してて」
会話の主導権は西村さんだ。ここ、杉見手芸店では西村さんがホームって感じだね。
「ああ。ありがとう」
「で、どう? 月末までに間に合いそう?」
森口さんからは最近壁を感じない。信じられるか~?あの森口さんと俺、友達やってるんだぜ?
「あ~まあうん。大丈夫。結構余裕かも。今週いっぱい学校休むってのはなんか大袈裟な感じかな?」
ここで突然。
「おいおいおい! 遼ちゃんは甘いよ」
諸悪の根源登場。どっから湧いてきた?
「何も大袈裟なんかじゃないんだよ」
と、カオリおばちゃんは言う。偉そうに。
「遼ちゃんさ、お前、期限に間に合えばそれでいいって考えてないか?」
思いがけない発言。それ以外に何かあるのか?
「え? 間に合えば、いいんじゃないの? あ、出来の良さとか?」
ちゃんとやるよ。何言ってんの?
「馬鹿だね。遼ちゃんの事だから、動ける範囲の全ての時間を使って頑張れば大丈夫、だとか思ってるんだろうけどな、睡眠だけじゃなく、休養と気晴らしの事まで考えなければお前、すぐに壊れちまうよ」
「「「!!」」」
「アタシ的には休校も、今週だけでは休みが足りないと思ってるんだけどね」
「そうですよね……ごめんなさい。私もそこまでは考えが至りませんでした」
ハッとした西村さんが、すぐに悲痛な面持ちに変わり反省の弁を述べた。
「そうか、休校しないでもイケルんじゃないかとは思っていたんだけど。そういうことだったのか……」
全く、カオリおばちゃんには敵わないや。マジで勝てる気がしねえ。
「俺の考えが甘かった。ギリギリの睡眠時間で、俺の動ける全ての時間を作業に当てたら、全く余裕はないけどなんとかできるって思ってた。けど、体調面だけじゃなく精神面の事とかまでは考えてなかった…」
「アタシのポカの後始末をさせているんだからあんまり強くは言えないんだけどね、それで遼ちゃんが体を壊したらたまったもんじゃないんだ」
と強く仰る。
「それに、遼ちゃんは無自覚で無理をしてしまう人間だ。いろいろと計算も出来るしやれば出来る人間だが、心がない。気配りができないんだ。自分にも、他人にもな」
「他人にも?」
なんか引っかかるな。
「そうさ。人間ってのは機械じゃないんだよ。心を持っているのさ、お前だけじゃなくて、みんながな」
「ん? どういうこと?」
「そこは自分で考えな」
「ええ~? どうせいつもの適当なハッタリなんじゃないの?」
「そう思うなら、そう思っててもいいさ。今はな」
なんか偉そう。ムカツク。
「まぁ、良く分かんないけど覚えておく」
俺は止めていた手を動かし、作業に戻ろうとしたが
「……と、とりあえず、ノート出してよ。お手伝いはその後でするから」
と、西村さん。
「そうそう。まず学校の面倒ごとを優先しよ~って、お昼休みにお話ししてたの~」
村上さんも。ああ、そうだったな。ありがたい事だ。ここは頼ろう。
「わかった。ちょっと待ってて」
俺は一応全教科のノートを持ってきた。
「じゃあ、先に板書しちゃうね」
ノートを写す3人。その手を止めずに
「竹中くん。今日ね、実は学校で」
言いにくそうに西村さんが言いかける。
「ん? なんかあったの?」
「竹中くんが、凄く噂になってたみたいなの」
あぁ、そんなことか。
「あ~まぁ、俺が噂の対象になることで、前の噂を消す計画だったからな。計算通りってとこ?」
「そうなんだけど~…なんか嫌なんだ」
と言うのは村上さん。
「どうしたの?」
「今日のお昼休みに、渡辺くんがわたしたちの仲間になったの」
森口さんがちょっと言いにくそうに意外な話を切り出す。
綺麗なお顔に影が差してもやっぱり綺麗だ。
「はあッ!? 渡辺って森口さんに話かけちゃダメなんじゃないの?」
「フフ、村上さんに話かけて、わたしに伝えろって言うの。隣にいるからちゃんと聞こえてるのに」
「あぁ、目に浮かぶわ」
「でも、これは悪い話じゃないわ。渡辺くんは竹中くんを本気で心配していたし、学食で聞いてきたって噂をわたしたちに教えてくれたの」
「学食? って、ちょっと話が見えないんだけど…?」
あぁ、弁当を一緒に食べる仲間ってわけじゃないのか。
「竹中くんって、登校拒否したことがあったって……ホント?」
なぜか、ドキッとした。別に秘密ってわけじゃないんだけど……
「……うん」
あ、ちょっと心が重い。
「そう、じゃあ、やっぱりデマって訳でもなさそうね」
森口さんが、渡辺から聞き及んだ噂をかいつまんで話してくれた。
まぁつまり、要するにだ、アホな俺の元同級生が、俺を貶めてもう一度虐め直そうって感じだな。
「気にしなくていいよ。そんなの」
だが、全く問題にならん。
「え? どうして?」
森口さんと村上さんが不思議そうな表情をしている。でも、西村さんだけはなんか分かってるよ~って感じの表情。あ~そういう感じ、西村さんらしくて頼もしいな。
「俺はさ、そんなもんの対策なんて何年も前から考え尽くしてるし、俺たちはもう高校生だ。社会的反撃ってのがかなり有効になる。ガキの頃なんかよりも虐められる側はかなり有利なんだってことを思い知らせてやるいい機会さ」
「やっぱりあるんだ。前みたいなカッコイイ作戦が!」
西村さんのいい笑顔ゲット!
「まあね。小中学生には退学とか無いけどさ、高校で退学とかになったら結構、後の人生イタくね?」
カオリおばちゃんにマジ感謝……なんかしたくねえから自分が成長したってことにしておこう。
3人とも、目がキラキラしてきた。
「まぁ、そこまで追い詰めるのも気が引けるから、手加減はするけどね」
殴られなければだけど。
「それに今の俺なら反撃の方法くらい、いくらでも思いつくよ。相手が誰なのかも渡辺に聞けば分かるだろうし」
作業をしながらも俺は、3人に、森口さんを守りたいと説明した時のように協力を頼む。
もう、過去の事が恥ずかしい。とか感じない。俺、もう報われちゃったからね。
それに、そのくらい俺は、この3人と仲良しになれたっていう確信をしている。
だからもう、日常に戻ろう。
「とりあえず、ノート書き終えたら、村上さんと森口さんは、布屑の掃除お願いね?」
「うん」
「わかったわ」
「で、西村さんは俺のサポート頼む」
「はいっ」
俺の手伝いをするときの西村さんって、気持ちイイくらい凄く返事が良い。
「明日の準備のほかに、巻紙の長さを揃える作業くらいはやってもらおうかな?」
「え? いいの?」
「うん。そこはどうせ紙袋で隠れる部分だし…西村さんと協力して作ったっていう……その、アレが欲しいからさ……」
「え~~~~!?亜子ちゃんだけズルい~~!」
「詩織! できない手伝いは、手伝いじゃないんだよ! 邪魔って言うんだ」
お、久しぶりに男らしい西村さんの発言聞いた。
「(小声)じ…邪魔したい…」
ふてくされる村上さんってなんか可愛いよな。
「きこえてるんですけど?」
で、怒ってる西村さんもなんか素敵。とか思ってたら。
「アッハッハ、アンタたち仲良くていいねぇ!」
カオリおばちゃんまだいたの?
……邪魔!




