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一つの恋の⋯⋯恋文

 アリーシャはこれから直ぐに鉱山に送られる。

 そこにリリアナとメリッサ夫人が声を掛ける。

「メリッサ夫人がお話があるそうなので別室を用意して貰いました」

 アリーシャは裁判の場では謝ったが直接の謝罪をしていないのでその件だと思いトボトボ付いて行く。

 通された部屋には王太子殿下、ウェールズ公爵夫妻、側近男性らしき人が居てリリアナ、メリッサ夫人がそれに加わった。

 アリーシャは中央に座り居た堪れずに下を向いていると声が掛かった。

「直接の謝罪の場を設けました、それとその後メリッサ夫人からお話があるそうです」


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「公爵ご夫妻、メリッサ夫人。申し訳ありませんでした。大切な御子息、ご主人を亡くされ申し上げる言葉も浮かびません。私が居なければ今も元気で⋯⋯いらした事を思うと⋯⋯本当に申し訳ありませんでした」

 アリーシャは言葉を詰まらせながらやっと言い切った。

「亡くなった息子は戻りません、しかし息子の気持ちが通じたと感じます。息子も納得しているでしょう」

 公爵はどこか遠くを見ながら言った。

 ウェールズ夫人はハンカチで目元を押さえただけで何も言葉を発しなかった。


 メリッサ夫人は瞼を腫らして彼女をじっと見つめていたが口を開いた。

「アリーシャさん、あなたに聞いて貰いたい話があるのです」

「話?」

「あなたの知らないハワードを⋯⋯主人の気持ちを今しか話せないと思い時間を貰いました」

「⋯⋯?」

「あなたが丁度婚約破棄かと言う頃の話です。領地でのあの人をお話しします」


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「アリーシャさんを好きな事は夫をずっと見てきた私には痛いほど分かっていました」

 メリッサ夫人はまるで懐かしむように言った。


「いつも夫の視線の先にはあなたが居てあなたが笑うと彼も笑顔になり、あなたが困っていると可笑しい位に慌てて……とても分かり易い人でした」

「……」


「政略で決められた婚約でしたけど相手があの人で神様にとても感謝したんです。あの人の茶色の髪が日に透けるのも笑顔にとても合っていて眩しかったのを覚えています。背中をチョット丸めて私の視線に合うように話してくれるところも。女好きで目が離せませんでしたけどあなたが現れる前は私を(ないがし)ろにする事も無く、色んな面白い話をしてくれて私に行った事の無い街をまるで案内しているように言う所も好きでした」

「……」

 リリアナには頬を染めてハワード氏を一途に見つめるメリッサ夫人が見える様な気がした。


「その夫が学園に入ってアリーシャさんあなたに出会ってしまった。もうそれからはご存知の通りあなたにのめりこんで私が目に入らなくなりました。肩書だけの婚約者になったのです」


「でも夫は貴方の望みを優先した、王太子妃になりたいあなたの。気持ちを残したまま諦めて王太子殿下に託したのです。そしてお義父様から領地経営を真剣に学ぶように言われ私と共に戻ったのです。私は喜びました、あなたは王太子妃になり手の届かない人になり距離も遠くなった。私も幸せになるはずでした」

「……」


「そして諦めたはずのあなたからの手紙が届いた。私が知ったのは彼が何もかも放り出して辻馬車に飛び乗って王都を目指した後でした。私は狂ったように追いかけました。絶対にあなたに逢わせてなるものかと。胸がかきむしられるほど悔しかった。結婚式はもうすぐなのに。そして王都の手前でやっと追いついたのです。知らなかったでしょう?」

「えぇ、あの時は藁にも縋る気持ちで」

「渋る夫から手紙を取り上げてあなたにされてきた事全て打ち明けました、悪魔の様な所業として」

「⋯⋯」

「夫はそれを知っても(なお)気持ちが変わらなかったのです」

 胸元を掻きむしるかの様にメリッサ夫人はギリギリと爪を立てた。

「⋯⋯ハワード」

 エドモンドは改めてハワードの揺るぎない気持ちを痛感した。



「修道院からの手紙も大事にベットのマットレスに隠してありました、お世話している私に取り上げられるのを恐れたんでしょう。可笑しいですね、新婚なのに」


「だから私は少しずつ狂っていったのかもしれません。あなたが憎くて憎くて。それに振り回される夫を見るのも。アリーシャさんを修道院から出して私は用済みとなるのが私の未来かと。あなたと一生夫を取り合う未来、生き地獄そのものでした」

「……」


「この狂った気持ちを育てる中で私はあの人にラブレター(恋文)を刻む事にしたんです。あの人の体に、消えない傷を。あの人の原因不明の皮膚病は私からのラブレター(恋文)なんです」


 その場にいる者が固唾を呑んだ。

 メリッサ夫人は()れは静かに笑った。


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