一つの恋の……判決
裁判長と弁護士が戻って来た。
二人は会場内の雰囲気が一変している事に気が付いた。
水を打ったように静まり返っていたからである。
王と王妃も護衛達と戻って来た。
此方は隣の部屋でマジックミラー越しに一部始終を聞いていたらしい。
王妃はリリアナの所に来て肩をポンポンと叩き労をねぎらうように優しい笑顔を見せた。
其れから裁判は驚くほどスムーズに進んだ。
アリーシャ被告の殺人か過失致死かに焦点が絞られ、余計な事でアリーシャが突っかかると言う事が無くなった。
証言も皆済ませて後は判決を待つだけとなった時、アリーシャ被告に発言の機会が与えられた。
アリーシャ被告が中々話し出さない為、皆困惑しながら顔を見合わせた。
「……私は今迄自分が幸せになる事だけを貪欲に追い求めてきました。不幸にも婚約者が病弱で亡くなってから今ならもっと上を目指せるのではと。そしてその最高の象徴が王太子妃だったのです。学園で王太子殿下と同じクラスになれた時は運命だと思いました。もちろん婚約者の存在も知っていましたが私が負けるはずがないと自信がありました。王太子殿下の隣に立つ為なら何でもやりました。でも先程のリリアナ様とメリッサ夫人の言葉を聞いたら何だか……間違った道を歩んでしまったのかもと考えさせられました。もしもっと早く気が付いていたらハワードはここに居たのかもと。思い出したんです、いつも傍にいてくれた彼の事を」
「……」
「私は王太子殿下しか眼中になかったのに何時もハワードが傍にいて、笑いかけてくれて。何処に私が居ても見つけてくれて、気分が落ち込んだ時は面白い話を聞かせてくれるんです。あちこち女性を渡り歩いても私が来て欲しい時は私を一番に優先してくれた彼を、彼を……私が……」
その頃の事を思い出しているのか、机の上の手は拳を作り小刻みに震えている。
「まだご遺族の皆さんに謝っていなかったので遅いかもしれませんが……申し訳ありませんでした。でも決して殺そうとした訳では無いです。メリッサ夫人には申し訳ないのですが、彼があの監獄の様な修道院から私を連れ出してくれて素敵な屋敷を用意してくれてまた元のように眩しい程のあの生活が送れると期待が大きかった分彼の余りの変わり様に驚いて腰が抜けて……。そんな時に足首を彼が掴んできたので蹴り飛ばしてしまいました。私、私何てことを」
あんなに強気で芝居がかって自己弁護に終始していたアリーシャの初めてとも言える心の声だった。
「では、アリーシャ被告立ちなさい」
「はい」
アリーシャはどんな量刑でも受け入れる心の準備がようやくできた。
それというのも何故かハワードが傍にいてくれる様な気がしてならないからだった。
きっと彼はいつものように笑って仕方が無いな……と見守ってくれていると信じる事が出来た。
「判決が出ました。主文、被告人を鉱山労働二十年とする。本件は殺人では無く過失致死とする。判決理由は明確な殺意とまでは立証出来ず突発的に起こった過失によるものと判断した。しかしながら公爵家のご子息であることを加味した結果である」
悪くすれば死刑もあり得た裁判であったが途中からは人が変わったように素直になり減刑された形となった。あのままの態度で有ったら間違いなく死刑が求刑されていただろう。
アリーシャの目からは一粒涙が零れた。
彼女が心から流した初めての後悔の涙だった。
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