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一つの恋の……肉薄

 エドモンドの側近であるロイドは足早にある人物の元に向かっていた。

 控えの間にも居ないので手近なメイドに尋ねるとあの部屋に居るらしい。

 ノックをしドアを開けるとその人物はバルコニーから城下を見下ろしていた。


「ここにいらしたんですか、メイド長。あちこち捜しましたよ」

「ここからの景色は綺麗だと思いませんか?」

「確かにそうですね、日当たりもいいし風も気持ちがいい」

「……私に何かご用ですか?」

「ええ。王太子殿下がお呼びですよ」

「そうなのですね、⋯⋯私までたどり着いたという事ですか」

「私からは何とも」

「もう逃げも隠れも致しません」

 そう言って彼女は寂しげに笑った。


 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎


「ここに呼ばれた理由は分かりますか?」

「はい、リリアナ様の件で御座いますね」

「あぁ、そうだ。色々調べていく内おかしなことがいくつか出てきてね」

「そうでしょうね」

「ご自分から打ち明けて貰えませんか?」

「そうするつもりでしたらあの馬車の中で質問を受けた時にお話ししていたでしょう」

「どうしても都合が悪かったという事ですか」

「……」

「私が疑問に思っていたことは誰がリリアナにあの手紙を出したのか?と言う事からです」

「……」

「どうしても分からなかった。そして何故あの日だったのか」

「……」

「まだあります。リリアナが登城した時にあのエリアは閑散(かんさん)としていたと言っていた。普通ならば警備騎士かメイドが付いて彼女を一人にはしない筈なのです。あの日大広間でパーティが開かれていたにしても」

「……」

「少なくとも部屋の外には誰かが控えるのが普通です、城内を手薄(てうす)にするなんて有り得ない。そしてベルで何度呼んでも誰も来なかったとリリアナが言っていた。彼女が聞いた婚約パーティーの事もタイミング良過ぎて作為的ですしね」

「……」

「もし誰かが悪意でそうしたとしたら……と考えると他にも疑問が出てきたのです」

「……」

「リリアナが帰るところを誰も見ていないのに捜しもしていない。部屋の荷物の持ち出しもない。では部屋の戸締りは誰がしたのか?乗ってきた馬車を返したのは誰なのか?人払いの出来る人物となると限られてきます」

「……」

「侯爵家では家族の皆さんが出掛けていたり領地に帰ったりしていて、リリアナが一人で出かけた事を知らず部屋で寝ていると思っていたらしいです」

「……」

「侯爵家の中に協力者が居ると思い調べて従者は既に捕まえてあります。彼からあなたの名前が出た。いい加減に話して貰えませんか?あなたリリアナが飛び降りた事をバルコニーから見て知って居たんですね」

 メイド長は真っ青になってガタガタと震えている。

「事実を話しなさい、あなた一人で罪を被るつもりですか?」



「確かにリリアナ様が飛び降りたのを後から捜して見つけました。そこまで追い込むつもりはありませんでしたし、もう亡くなったと思ったのです。それで慌てて戸締りしてしまったのです」

「助けもしなかったという事か!リリアナは一晩植え込みに放置されたのだ」

「申し訳ありません、上から覗いてお亡くなりになったと思ってしまったのです。怖くなって後始末をしました。あの日に合わせて来るように呼び出しの手紙をリリアナ様宛てのお荷物に忍ばせたのも私です。わざと人払いしたのも侯爵家の従者も金に困っていたので買収して抱き込みました⋯⋯」


「何故だ。リリアナに恨みでも有ったのか?」

「……恨みなどはありません。むしろ優しくして頂きました。ただ憂いを残してはならんと王妃様のお気に入りです、降格で側妃と言うことも考えられました。徹底的に遠ざけたかっただけです」


「それなら何故?」

「私は前宰相の遠縁にあたる家の出です。前宰相との関わりを知る者はおりません。それを利用されたのです。前宰相はどうしても自身の派閥から王太子妃を出したかったのです。本来なら自分の娘を押すところですが体が弱く不幸にも病で亡くなりました。それでドクトール家のアリーシャ嬢に目を付けたのです」

「それで?」

「王太子殿下もその頃アリーシャ嬢を気に入っておられたのでリリアナ様を排除する様に命令されたのです。前宰相はリリアナ様を脅威だと思っていました。大人しい様でも傀儡(かいらい)となる様な娘ではないと」

「アリーシャなら傀儡に出来ると踏んでか」

「アリーシャ嬢は(おだ)てて金目のものを握らせれば操る事など容易に出来ると言っていました。しかし清廉潔白なリリアナ様はそうもいきません。後ろ盾が派閥の違う侯爵家なのも問題だとも⋯⋯」

「成程」


「それで王太子妃教育で通うリリアナ様の近くにいる私に白羽の矢が立ったのです。あの噂も私があちこちで流しました。追い詰める手伝いをしました。婚約破棄後、リリアナ様が諦めて素直にあの縁談を受ければよかったのです」

「あの縁談?」

「年がふた回り以上でしたか?上の男の後妻です。あれは実は仕組まれた事だったのです。しかしリリアナ様は拒否されて中々頷かなかったのです。受ければあの様な手紙を出すことも」


「何故そこまでする。遠縁と言うだけでは無いな?」

「⋯⋯はい、前宰相とは腹違いの兄妹です。私は愛妾になれない平民の母を持つ妾の子で、生まれてから直ぐ秘密裡に父方の遠縁に引き取られました」

「……」

「派閥の長としての兄の切なる願いを断れなかったのです」


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