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一つの恋の……喪失

残酷な描写が少しだけ前半にあります。

ご注意下さい。

(苦手な方は最初の数行を飛ばしてください!)

「ぎゃー、近寄るな放せこの化け物!」

 そう言ってアリーシャは最後の望みであった(はず)のハワードを利き足で思い切り蹴り上げてしまった。

 鈍い音が響き渡りハワードの首はその衝撃に耐えられなかった。

 ハワードはそれでもアリーシャの足首を握ったままだったのでアリーシャは狂った様に暴れた。


 部屋に居合わせて目撃した者達から次々と悲鳴が上がった。

「医者を医者を早く!」メリッサはハワードを抱きしめて叫んだ。

 直ぐに警備責任者を始め他の者も駆け付け、化け物と取り憑かれた様に連呼して暴れる腰を抜かしたアリーシャを取り押さえた。

 同席した医師は首を振りハワードの死亡を告げた。

 メリッサはハワードを抱いて泣き崩れ、アリーシャは殺人犯となった。

「私は悪くない!」アリーシャは何度も言った。


 メリッサはハワードを抱いたまま放心して問いかけても反応が無くなった。

 アリーシャは独房に入れられて大声で喚き散らしているらしい。


 ハワードの遺体はすぐさま領地に運ばれ両親と悲しみの再会となった。

 メリッサはハワードの側を片時も離れず、人々の涙を誘った。




 王都にいるエドモンドにもその訃報(ふほう)は直ぐにもたらされた。

 そして慌ててウェールズの領地に駆けつけた。

 共に青春時代を過ごした大好きな友であった。

 背が高く都会的な雰囲気で洗練された仕草や沢山の女性を虜にしたウイットに富んだ会話の出来る陽気で明るい人物だった。

 こんなに早く天に召されてしまって残されたご家族を思うと胸が締め付けられた。




 これからアリーシャの裁判が行われる。

 しかし極刑は免れられないだろう、平民が公爵家の跡取り令息を殺害したのだから。


 アリーシャの家族は娘の凶行を聞き、取るものも取り敢えず飛んできてウェールズ公爵夫妻とメリッサに土下座した。

 公爵は悔し涙に暮れながら息子はどう謝られても戻らないと冷たく突き放した。

 その後アリーシャの父親は直ぐに爵位を返上した。


 アリーシャの母親は当初夫と離婚して実家に戻りたかったようだが(すで)に代替わりし拒否された上に縁切りされて仕方なく夫の元に戻った。

 兄は最初の婚約破棄から立ち直り、ようやく新しく婚約出来ていたがこれも破棄されて廃人の様になっていた。

 三人はアリーシャの裁判を傍聴する事なく居場所の無くなったこの国を逃げる様に出たらしい。

 その際に財産をなるべく換金すべく金策に走り回ったが金目のものは足元を見られ二足三文(にそくさんもん)にしかならなかった。

 子爵位に降爵した際に領地替えがあり引っ越しや税収の減少、巻き返しに始めた事業の資金繰りの悪化が致命的であった。

 その中から長男の婚約破棄の慰謝料を払ったらもう幾らも残らなかった。

 お金は直ぐに底を尽くだろう、贅沢に慣れた彼等は節約という言葉も知らないだろう。

 メイド一人も付かない暮らしの不便さと、全て自分達でやらなくてはならない過酷さを。

 これからはどこかの国で流民として根無し草の様な人生を息を殺し甘んじて受け入れるしかないのだから。





 泣き疲れたメリッサは瞼を腫らし窓のそばに立ち外をぼんやり見ていた。

 葬儀はしめやかに公爵の采配(さいはい)でつつがなく済んだ。


 親戚が帰って行く、みんな一様に早すぎる死を(いた)んだ。

 まだ新婚のメリッサを思い慰めの言葉を掛けて。

 実父母や兄妹達は側にいようとしてくれた。一人に出来ないからと言って。

 そのありがたい申し出をメリッサは断った。

 一人になりたいからと言って。




 メリッサの立てた計画は完璧で後はハワードがアリーシャに愛想を尽かせば完了となる筈だった。

 アリーシャもハワードの容姿を見て諦めてあのまま退屈な修道院に大人しく死ぬまで入って居てくれさえすれば良かったのに。完全に読み違えた。

 ハワードに余程期待を寄せていたのか、現在の状況にメリッサが予想した以上に取り乱し錯乱した。

 それによってハワードは呆気(あっけ)なく亡くなった。


 夫はあの女に出会わなければ、関わらなければ今も元気に生きていただろう。

 浮気相手も沢山居ただろうし私は焼きもちを焼いて夫婦喧嘩が絶えなかっただろうか。

 それ位は耐えられた、でもあのアリーシャだけはどうしても許せなかった。

 ハワードのいや夫の気持ちを独占して私を同情の目で見るあの女だけは。



 私は夫から全てを取り上げた、計画通り。

 でも神様は私からも取り上げた。


「ハワード天罰で死んじゃった」

 メリッサらしからぬ声が虚しく響いた。

 愛は(すで)に枯れ果てたと思っていた。

 思い出すのは愛してやまなかったハワードの笑顔だった。

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