一つの恋の……哀傷
「リリアナ、君が飛んだあの日何があったのか話して貰えないか?」
「……」
「辛いならゆっくりでいい。あの日あの時何故あそこにいたんだい?」
「……あの日、私は知りませんでした。婚約発表のパーティーが行われる事を」
かすれた声でやっと言葉を絞り出した。
「私宛の手紙で呼び出しがあって、部屋の片づけを王妃様よりゆっくり落ち着いてからでいいと言われていてそのお言葉に甘えてしまってそのままになっていた事を思い出して。余裕がなかったとはいえ、これ以上甘えるのもと思い王城に足を踏み入れたのです」
「……」
「城の中はいつもと違って閑散としていて、案内してくれたメイドが辺境や海外からもお客様が沢山いらして皆駆り出されてんてこ舞いしていると聞いたのです」
「それで?」
「皆パーティーに駆り出され只でさえ忙しいと言うので部屋の片づけが済んだら私から声を掛けるからと言って一人で部屋に入ったのです」
「……」
「遠くからワルツが聞こえてきました。パーティーが始まっているのね、と思いました。あまり荷物も多く無く持ち帰るものも少なかったので声を掛けようと何回もベルで知らせましたが誰も来ません。仕方なく部屋を出てメイドの控えの間に足を運んだのです。そこでメイド二人が話していて知りました。今王太子殿下の婚約披露パーティーが行われていると」
「あぁ……」エドモンドは両手で頭を抱えた。
「メイド達が笑っていました。こんな日に来たマヌケな私を」
「誰だ!どこのメイドだ!」
サイモンが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「それから取り乱してどのようにして部屋に戻ったのかも覚えていません。悪意が私を押しつぶしました。誰かが私に見せつけたのだと感じました。もしかして殿下かもと思いました」
「……」
「思いを残す事も迷惑なのかもと。これから幸せになる二人にとって私は邪魔者で。だから身の程を知る様にわざとこのようにされたのかもと。これから私は望んでもいない結婚を強いられ、拒否する事も許されず絶望して……いえ、もう既に限界だったのです。地上に私の居場所はもう無いのだと実感しました」
「……」
「最初は絶望して遺書を書こうとペンを取りました。でも……可笑しいですね、楽しい懐かしい思い出しか浮かびませんでした。それでも最後に手紙を残して逝ってはいけない気がしたのです。だから私を忘れる様に願って決して人に見られる事の無いように握りしめて……」
「リリアナ辛い事を話してくれてありがとう。もういいよ。本当に済まない。思い出させて」
知らず知らずリリアナは新たな涙が零れていた。
サイモンが甲斐甲斐しくそっとハンカチで涙の痕を消してくれた。
それでも言葉は止まらなかった。
何処か遠くを見ながら取り留めなく言葉が紡がれていく。
「バルコニーに立った時殿下と楽しく城下を見渡したことを思い出しました。また新たなワルツが聞こえました、私は……」
そこまで言ったところでリリアナは突然ゼンマイが切れた人形の様に目を回し気を失った。
突然のことで皆慌てふためいた。
「医者だ医者を呼べ!」
扉を開けて側近が走る。
リリアナを失う事はもう二度と耐えられなかった。
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