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一つの恋の……懺悔③

「な、何?申し訳ありません。よく聞こえませんでした」

「ハワードの妻メリッサは当時からアリーシャの手先だったんだ」

「まさか、冗談ですよね」

 リリアナが震える声で聞く。

「あれはリリアナに見せつける為に仕組まれたものなんだと思う」

「そんな……メリッサ様がそんな」

「バカな振る舞いは分かっている、恥ずかしい限りだ。ただこれだけは言わせてくれ、今はリリアナだけを愛している。信じて欲しい」

「今のお気持ちは信じております。そうではなくてメリッサ様が手先?」

「あぁ。調べはついている」 

「あのメリッサ様が?」


 リリアナはとても理解できずに震える手でドレスのポケットから髪飾りを出した。 

 その頃の辛い気持ちを思い出したのか、リリアナは壊れた髪飾りをじっと見つめた。

 そして澄んだ瞳から美しい宝石のような涙がドレスの胸元をコロコロ走っては染み込んでいく。


「わざと目撃する様に仕組まれていたのか、善意を装って」

 サイモンは想像を絶する妹の孤独を想い唯一の味方であった自分がもっと傍にいてやるべきだったと後悔した。

真綿(まわた)でっ、真綿で首を締めるように皆で妹を追いつめた訳だ。学園の奴ばかりでない。城の奴らだってそうだ。面白可笑しく噂して、リリアナの気持ちも理解せずどんな状況か分かっていたのに誰も助けもせず。あんただって自分の欲望を叶える為に利用していとも簡単に捨てた。捨てられるようなことをしてもいないのに」

「ここまでとは思いもよりませんでした。この子は私達夫婦には何も言いません。我儘一つ。そんな風に育ててしまった、しかし殿下の罪はそれよりももっと重い」

「……」

「婚約させたことを()れほど悔やむとは。もっといい人物がいくらでも居たのに」

 侯爵はうなだれた。


 エドモンドは分かったつもりでいたけれど改めて言葉にして状況を振り返ると自分の身勝手さに吐き気がした。

 リリアナはそれから(しばら)くの間、一言も言葉を発しなくなった。

 固く口を閉ざして涙は流れるのに嗚咽(おえつ)一つ()らさなかった。

 親友と信じた人がそうでは無かった、とても静かな絶望と悲しみだった。


 黙って事と次第を傍観(ぼうかん)していた側近が余りの事に却ってもらい泣きをしている。

 目の前にいる女性が寄ってたかって追い詰められていく様が手に取る様に分かる。

 絶望もするだろう、愛した人からも軽んじられたのだから。


 サイモンが(たま)らず口をはさむ。

「いくらでもいい人が?なら婚約破棄後に慌てて決めたあの男はどうなんですかね?()()()

「あ、あれは……」

「年寄りの愛人も子供も沢山居る評判の悪い好色な男。そんな男に厄介払(やっかいばら)いしようとしてよく言いますよ」

「反省したのだ。リリアナが大切だと、私達が間違っていたのだと」

「それが真実だと信じたいですよ。私達の父親なんですから」



 そしてエドモンドは重い口を開く。

「リリアナ泣かないでくれ。もう二度と裏切らない」

「……」

 リリアナは血の気の引いた青い顔をしていて頷きも答えもしなかった。

 仕方なくエドモンドは続けた。

「メリッサ嬢は多分アリーシャ嬢の命令で仕方なく私たちの姿を目撃するように仕組んだのだと思う」

「何であんな女の命令に従って妹を陥れるのだ、意味が分からん!」

 サイモンがイラついて言う。

「やりたくてやった訳では無いだろう。多分ハワード絡みで何かあったはずだ」

「あぁそうか。王太子妃になれなかったらハワード取っちゃうからね~とか」

 サイモンが冗談ぽく茶化すように言った。

「……」

「え!もしかして当たらずとも遠からずですか?」

「多分そうだろう」

「それは……もしそうなら悪魔か!あの女!」

 サイモンが吐き捨てるように言った。


「それに、リリアナが眠ってからも監視していたようなんだ」

「思い出した!あのアリーシャが来たんですよ。お見舞いと(しょう)していましたがニヤニヤしていて。私が頭に来て()めたアレですか」

「これはメイドのアンさんからの情報だ。買収されたらしい、容態(ようだい)の報告と日記等の有無を。そしてそれを引き継いだのがメリッサ嬢だ」

「何も言って無かったですが」

 侯爵が言った。

「私が調べるからと口留めしたのだ。途中で知られる訳にはいかなかったから」

成程(なるほど)

「妹が目覚めるのが気になったか、都合が悪かったのだろうね」

「本当にあのアリーシャ嬢が王太子妃にならなくて良かったです」

 側近が思わず口にした。

 その場に居合わせた者の共通認識だった。



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