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一つの恋の……冷罵

 アリーシャは手紙を胸に抱いて狭い部屋の中を鼻歌を歌いながら踊る様にクルクル回った。

「やっぱりね、ハワードは私にぞっこんですもの。私の望みを無下にできる訳無いじゃない~」

 思う存分喜んだ後、(わら)のベットに腰かけて手紙をいそいそと開けてみる。

「⋯⋯無い、お金が入って無いわ。ふざけているのハワード!」

 その代わり手紙らしいものが一枚、そして新聞が一枚丁寧に折り畳まれて入っていた。


 怒りでこめかみに青筋を立て、手紙を読んで更に顔色を変え震える手で新聞を開く。

 その目に飛び込んできた号外の大文字。

「お、王太子殿下婚約を発表、お相手は名誉回復したリリアナ・モンタギュー侯爵令嬢ですってぇ!」

 そして血の気の引いた顔色でもう一度手紙を読む。

「リリアナはもう一生目を覚さない筈ではなかったの?メリッサは何をしているのよ」

 ハッキリ言ってリリアナの事は全く眼中に無かった。

 修道院に入る前、エドモンド殿下はリリアナについて何か言っていた?

 少なくともあの時点でそんな話は無かった筈、あの頃は自分の処遇のことで頭がいっぱいで深く考えもしなかった。父か兄?誰かからリリアナの名誉回復と聞いた覚えはあったがうろ覚えで興味もなかった。

 となると100日祈祷で奇跡的に目を覚ましたって事⁈


 ハワードはというと今現在病を患っていて手紙が執事の代筆であることを詫びる内容と気になっているだろう王太子殿下が健康を回復したリリアナ嬢と再び婚約した旨を簡潔に知らせた内容。

 別に君は僕が幸せにするのだから構わないよね。二人を祝福してやろうと書かれていた。

 ハワードの()()()も確かに入っている。


「これが未練を断ち切る為だとしても私に対する配慮(金銭)が無いし独占欲の塊じゃない」

 誰もいない小部屋でアリーシャの声が響いた。

「お金も入って無いし、いつ迎えに来るのかも書かれていない。何なのコレ?」

 不快感に顔を歪めて号外をもう一度改めて読んでみる。

「はん!何が100日祈禱よ。愛する人の回復を願ってですって!私を愛してリリアナを邪魔者扱いしていとも簡単に捨てたくせに」

 号外には世紀の恋物語として美辞麗句(びじれいく)が溢れていた。

「ふん。上辺だけ褒め上げて。あの時死んでしまえば良かったのに」

 悔しくて悔しくて何かにあたりたくとも今のアリーシャには何もない。


 世間から隔絶された環境で何一つ知らない者にわざわざこれを送ってくる辺り、ハワードは私の気持ちを試しているのだろうか?


 すぐさま破り捨てたかったがその気持ちを抑え机の引き出しに乱暴に入れる。

 今頼れるのはハワードしかいない。

 しかしハワードは知っているのだ、私の気持ちがまだエドモンド殿下にあると言う事を。


「そうね、私の気持ちが信じられなくて試しているのね。学生時代からあれだけの愛を見せつけられていたのですもの。広い心で許してあげましょう」

 何とか心に折り合いをつけてアリーシャは冷静になろうと努力した。


「その代わり、あなたの愛妾になったら何でも望みを聞いて貰うわよ」

 贅沢三昧の生活。宝石にたくさんの最新流行のドレス、贅沢を凝らした住まい、そして一流コックによる料理。例えそれが妻のメリッサを強制排除する事であっても従って貰う。


「愛妾はすぐに廃業。妻の立場を手に入れるわ。そしてすぐに社交界に返り咲くのよ。美男美女カップルとして。エドモンドは素晴らしい私を手に入れられなくて地団駄を踏むんだわ」

 アリーシャの妄想は膨らむ。

 お似合いの公爵夫妻としてエドモンド殿下の前に立つ、その横には冴えない陰気でおどおどしたリリアナ。


「その時に自分の間違いに気づいても遅くてよ」

 アリーシャはどこまでもポジティブであった。

 その手紙が()()よってもたらされたか知らずに。



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