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一つの恋の……氷柱

 モントーレ修道院では久々の懲罰会議の開催が取り沙汰されていた。

 前回に至っては脱走して捕まった修道女見習いがかけられて以来の出来事である。


 怪我をした方とさせた方。普通ならばそこまで大きな問題になる事も無く当事者同士で解決の流れなのだがアリーシャが謝る事は勿論、事情を聴きに来たシスター達にも虚偽(きょぎ)の証言をしたと言う事で問題が大きくなっていた。

 怪我をしたシスターロザンヌはアリーシャの発言を聞き激怒。

 アリーシャの目論見(もくろみ)は見事に外れ懲罰会議開催の運びとなった。


「ちゃんと説明したのに耄碌(もうろく)しているのかしら、長年こんな所にいると」


 アリーシャは平気で噓をつきそしてそれがさも真実かのように思い込む癖があった。

 脳内で自分に都合のいい様に変換してしまうのだ。

 アリーシャの兄が長年苦しんで両親に何度も訴えるが信じてもらえないばかりか逆に虚言癖(きょげんへき)があるかの様な扱いに遂にはそういうものと諦めたアリーシャの悪癖(あくへき)だった。


 今迄はそれを()えて問題にすることなく信じなかったり、面倒だからと見逃していた元伯爵家であるアリーシャの家族の責任でもあった。

 ここにきて今までは余り表面化しなかった悪癖がチラホラと目立ってくるようになった。

 それは明らかに辻褄(つじつま)が合わず、その場の思い付きでやり込めたと分かるお粗末なものだった。それでも今までは被害者が実兄か爵位が下の者、平民または立場が弱い者に限られていた。

 その為彼等は黙認するか見て見ぬ振りをするか(もし)しくは甘んじて受け入れるかしか無かった。

 アリーシャ自身は上手く立ち回って解決したかのように錯覚しているがやられた方は堪らない。

 本人の性格とそれを許す環境、それによってアリーシャは自分中心の傲慢な性格となった。


 シスターロザンヌの怒りは頂点に達していた。嘘つき呼ばわりの上、さぼりの(そし)りを受けたのだ。

 ならば……と話し合う場が設けられたのだ。


 それに。修道院の院長は彼女に聞きたい事が山程あった。





 時を少しだけ(さかのぼ)る。

 うららかな陽気の中、ウェールズ公爵領では当主代理としてメリッサが忙しい仕事の合間にひとりティータイムを楽しんでいた。

 お気に入りのフルーツたっぷりのケーキを頬張りながら最近すっかりクセになっていた独り言を呟いていた。


「ふふふっ、そろそろ受け取った頃かしら?でもまだまだよ。此れはまだ始まったばかり」


 以前手に入れていたハワードのサインを使ってわざわざ王太子殿下婚約の号外をアリーシャ宛に親切にも送ってあげた。


 勿論精神的ダメージを与える為とそれこそもうハワードしかいないと思い込むように。

 メリッサは楽しげに笑った。


「号外を見て絶望したかしら?辺境にある修道院だから中々情報が入ってこないものね。私ってばなんて親切なのかしら?まさかあのリリアナ様が回復したなんて思いもしなかったでしょう?」

 自分の事で手一杯でリリアナ様の事は私に任せていたものね。


「私もハワード(がら)みでバタバタしていたし結婚が早まって準備に気を取られていたからうっかりしていたのよね、今頃報告がなかった事に激怒しているかしら?」

 まさか回復は有り得るとしても婚約者に返り咲くなんてアリーシャにとってはらわたが煮え返る様でしょうね。

「あぁ、手紙を読む時を間近で見たかったわ、()()()じゃなくて残念」

 メリッサはアリーシャから計り知れない苦痛と屈辱を味わわされてきた。

 アリーシャが幸せで無いとハワードを奪われてしまうというカードをちらつかせてそれこそ無給の使用人の様に。


 其れにしても、メリッサは見逃しそうなことを思い出した。

「あの買収したモンタギュー侯爵家のメイドなんて名前だったかしら?ア、ア……アンナ?アン?……そうだアンだわ!あのメイド私に報告しなかったところを見ると……職務怠慢ね」

 きっと金はちゃっかり着服したのだろう。

「世の中こんな奴らばっかり」


 メリッサはそのことを深く考えなかった。

 使用人に有りがちなちょっとした小遣い稼ぎ、この時もっと深く考えていたら。

 まさか報告が証拠と共に王太子殿下に上がっていたとは夢にも思わなかった。

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