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一つの恋の⋯⋯法螺

 アリーシャはただ一人井戸端に残された。


 (しばら)く何が起こったのか、呆然(ぼうぜん)としていたが唐突(とうとつ)に我に返った。

「これは不味いわ。今までの事も含めてバレてしまうじゃ無い、どうする、どうすれば切り抜けられる?」

 頭にきていてつい我を忘れた。それもこれもハワードが悪いんだわ。

 懲罰会議ですって、これしきの事で。

 冷静さを失っていた、考えるのよ。ここで心証を悪くすればここを出る計画に支障が出る。


 アリーシャは井戸端の洗濯物の山に目を止めた。

「そうだ!」

 急いで井戸から水を⋯⋯と思ったがやった事もないので見様見真似で何度か失敗して悪態をつきながらも何とか水を汲み上げる事に成功し、汚れ物の山に勢いよくぶっ掛けた。

 そしてまだ足りないともう一度同じ事を繰り返す。

「痛っ、手の平が赤くなったわ。こんな事をやらなくちゃならないなんてこの世の地獄ね」

 今まで労働を知らないアリーシャの柔らかな手の平は重い水を汲んだ事で手の平は赤くひりついた。


 するとそのタイミングでシスター達が去った方から何人かのシスター達がやって来た。

 どうやら先程のシスターが言いつけた事を確認しに来たらしい。

「あなたがアリーシャですね、シスターロザンヌが怪我をしたのは此処(ここ)ですか?」

 シスターの一人が声を掛けてきた。


「ハイ。私がアリーシャ・ドクトールですが何か?」

「ドクトール?此方(こちら)でシスターロザンヌが怪我をさせられた様ですがそれは本当ですか?」

「さぁ、私は知りません。ご覧の通り洗濯中でしたので気が付きませんでした。何かありましたの?」

「此方で怪我をさせられた⋯⋯と言っていましたので確認に来ました」

「あぁ、そういえばそちらの方から声が聞こえましたので転ぶか何かされて怪我をされたのでは有りませんか」

「そうとは聞いていませんが」

「ご覧の通り私は大量の洗濯物と格闘していましたので。勝手に転んで怪我をしておいて私のせいにされたのですね。手の怪我なんて大した事じゃ有りませんでしょう?()れをオーバーに騒いでおられるのですね」

「今何と?」

「私のせいにしてさぼりたかったのでは無いですか?」

「さぼりたかった?」

「大した怪我でも無いのに大袈裟に騒ぎ過ぎです。私は関係ありません」

「あなた自分で言ったのよ。見てもいない筈の怪我を手と」

「そ、それは声がして手が痛いとか何とか聞こえたんです」

「先程は何も言っていませんでしたよね、ただ声がしたとだけ」

「省略したに過ぎません。重要なこととは思いませんでしたので」

「まぁいいでしょう。懲罰会議を開きますから言いたい事があるならその場で釈明するならすれば良いでしょう」

「そんなもの開く意味が分かりません。私を(おとし)める為だと思います」


「それも含めて釈明すれば良いでしょう。何も無実の者を罪に問おうとしている訳では無いのですから」

「私は悪く有りません。そんなものに出席させられたら悪い噂が立ちます。皆さんは知らないでしょうがもう直ぐ此方を出ていく事が決まっています。王都の高貴な身分の方の妻になる予定なのです。そんな私に無礼を働いたと分かったら夫となる予定の人が黙っていません。今回の無礼は許しましょう私は心が広いので」

「それは事実ですか?」

「えぇ。まだ(おおやけ)にはできませんが公爵家です。一族には王族出身の方もいらっしゃる名門の家柄です。では私はこれで失礼しますね」

 アリーシャはそう言うと優雅な仕草でその場を去って行った、さも高級なドレスを着ているかの様に質素なスカートを摘んで。

 その場に居たシスター達は唖然(あぜん)としてつい見送ってしまった。


 そして一言言った。

「彼女確か貴族籍を抜かれて平民よね。公爵家がそんな女を嫁に迎える?」

 みんな一様に「⋯⋯さぁ?」と首を傾げた。




 その頃与えられた仕事をそのままに部屋に戻って来たアリーシャに手紙が届いていた。

「ハワードからだわ!」

 跳び上がらんばかりにアリーシャは喜んだ。












昨夜は地震があった様ですね、皆さん大丈夫でしたか?


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