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一つの恋の……墓穴

 アリーシャはその頃激怒していた。

 行き違いにならない様ハワードに一刻も早く確実に届くように王都の公爵邸と領地に向けて同じ手紙を二通出したのだが、梨の(つぶて)であった。


「一体どういう事よ!わざわざ二通も出したのに。この私が困ってもいい訳?あちらも乗り気で喜び勇んで迎えに来るかと思ってたのに!」

 お金もとうに尽き契約して居た者達から催促されるがあまりにも遅い為、近頃は仕事も代わって貰えないし昼間の風呂を楽しむ事も出来なくなった。

「散々甘い汁を吸っておきながら手の平返ししやがって、あいつ等」


 人気のない井戸端でドスドス悔しさに足を踏み鳴らしながら歩き回り、小石を鬱憤を晴らすかのように思いきり蹴る。


 カツン……と音がしたと思ったら同時に

「ギャッ!」っと声が上がった。

 ハッとして見るとそこには左手の甲を押さえて顔を歪めるシスターの姿があった。

 咄嗟にしまったと思った。

 朝食後直ぐに洗濯するように言いつけられた汚れ物はまだ一枚も洗えていない。

 監視に来たのだと咄嗟(とっさ)に思った。


「すみません。わざとじゃないんです。つまずいた石がたまたま……」

「果たしてそうかしら?イラついて石を私に向けて蹴り上げたように見えたけど」

「ひどいですわ。そんな事思ってもいませんでした」


「じゃあ、仕事をほったらかして何にイラついていたのかしら?」

「イラついてなんか……」


「もうかなりの時間が経ったと思うけど洗っていた後さえ無いのは何故?」

「それは……悪寒がして余り調子が良く無くて。少し休んでいました」


「調子が良くないのにあんなに歩き回れるの?」

「それは……体を温める為に仕方なくです」


「分かったわ。私は医務室に行ってくるから……戻るまでにそうね、5枚は洗い終えていて頂戴」

「えっ、そんな」


「何か言いたげね」

「いえ、あの……わざとじゃないにしても私の為に怪我をされたのですからついてまいりますわ」

「いいえ。あなたは与えられた仕事をこなして頂戴。只でさえ遅れているでしょう」

「でも、悪寒が……」


「私の事はあなたのついでと言う事かしら?」

「悪いように取らないで下さい。心配でついて行くのですから。私はついでに診て貰えれば良いのです、ここは他の者にでもさせましょう。ほらあちらから暇そうな者が来ましたわ」

「はぁ?」シスターは信じられないモノを見た。


「チョット、そこのあなた。こっちにいらっしゃい」アリーシャが手招く。

「あの、私に何か?」

「私は悪寒がするの。高熱が出るかもしれないわ。だからここに有る洗い物を全てあなたが責任もって済ませなさい。いいわね、これは命令よ」

 いいわねこれは……辺りで人差し指を立ててその女性の顔の前で指さして言う。

 つい何時(いつ)もの口癖と癖が出てしまう。


 咄嗟(とっさ)にまずいと思ったが出た言葉は戻せない。

「あなたは何か勘違いしているようね、懲罰(ちょうばつ)会議にかけるべきね。カリーナあなたは私と来て頂戴」

 そう言って私を井戸端に残して二人は去っていった。

 アリーシャは自ら墓穴を掘ったのだと気が付いた。


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