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一つの恋の⋯⋯虚空

 モントーレ修道院は辺境に位置する堅牢で戒律の厳しい修道院として国内外に知られている。

 貴族子女の結婚前の花嫁修行的修道女修行を認めず神に絶対の信仰を求め毎日厳しい生活を過ごしている。


 そして問題のある貴族子女は刑務所替わりとして入所が可能だった。

 その貴族子女が有期刑ならば満期まで務めた後、修道女として残るもよし、家族の元に帰るも良しとされている。

 しかし家族が温かく迎えてくれる等は皆無で有り平民に下げ渡されるか、貴族の愛妾としての道しかなかった。それが無期限となると恩赦でも無ければ生涯修道女として生きるしか無く、高齢となると貴族の愛妾と言う道も殆ど閉ざされていた。


 アリーシャはそんなモントーレ修道院で長い長い生活を送らねば成らなかった。



 アリーシャは遠目にそびえる修道院を見た途端馬車の中で怯えて激しく暴れ出した。

 同行していたメイドが止めるも奇声を上げて馬車から逃げようとしている。

 仕方なく従者が馬車を止め小窓より注意する。

 馬車には逃亡防止の鍵が掛けてあり、中からは開けられない仕組みになっていた。

 メイドが何度も言い聞かせ、時間を掛けてやっと静かになったところでまたゆっくりと動き出した。


 これは国の決定であり父親である伯爵からも言い聞かされた事、その後父親も降爵し子爵となり領地替えもなされた。

 もう誰もアリーシャを助けてくれる者も居らず、あんなに可愛がってくれていた亡くなった元婚約者家族も背を向けた。

 手紙で助けを求めたハワードもとうとう現れず王太子殿下には見捨てられた。

 今ここで例え逃げおおせたとしても我が身を危険に晒すだけだと渋々だが理解した。



 アリーシャは迷路の様な長い廊下を歩き院長と呼ばれる老獪な修道女の待つ応接室へと通された。

 従者とメイドは書類に目を通しサインをして一部を鞄に仕舞うと静かに出て行った。

 アリーシャにはメイドさえ付かない。

 これからは何でも一人でやらなくてはいけなくなった。


「これ迄の生活を思えば絶望もするでしょう。しかし神にお仕えし自分を静かに見つめ返せば自分が何者か理解することも出来るでしょう。これからの人生をどの様に過ごすのか、天国にするのも地獄にするのも心の持ちようです」

 そう院長は言うとしわくちゃの顔でにっこりと笑った。


 それから部屋の隅に控えていた修道女がアリーシャを部屋へと案内した。

 何度も角を曲がったり小さな階段を上り降りを繰り返し沢山の扉の一つに手を掛けた。

 そこは小さなベッドと机があるだけの饐えた匂いのする小さな牢獄だった。


 持ち込んだ荷物はチャリティー品として修道女に取り上げられ着てきたドレスさえも持ち去られた。

 着る物といえば修道着と下着、寝る時に着る目の粗い粗末な寝巻きしか無く贅沢の限りを尽くしたアリーシャには耐えられなかった。


 しかも修道院の中は迷路の如く侵入は勿論の事、逃亡を防ぐのには入り組んでいて最も適していた。

 癇癪を起こして物を投げようにも投げられる小物は無く不貞腐れてベッドに横になろうとしたが、何と藁の上に古ぼけた継ぎのあたったシーツが掛けてあり更に絶望した。


 つい先日まで裕福な伯爵家の娘であり、王太子の婚約者だった高貴な者の扱いがあんまりだと部屋を出て文句を言おうとすると扉の外には既に別の修道女が控えており付いて来る様に短く言うとサッサと歩き出した。


  仕方なく付いて行くと中央に椅子がポツンとある小部屋に案内され座らされる。

 所在無く座っていると中央に穴の空いたケープを被せられた。

 何が始まるのかと唖然としているとハサミで自慢の金茶で豊かな長い髪が耳の上でジョキンと切られた。

「ギャー」悲鳴をあげながら切られた部分を抑え扉へと走ると鍵が掛かっていた。


 慣れているのか修道女は落ち着いた低い声で

「諦めなさい、ここの決まりなのです。特例はありません」

 と静かに言った。

 アリーシャはその場に崩れ落ちそのまま気を失った。



 







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