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一つの恋の⋯⋯空蝉

「お嬢様、王太子殿下がまた、いらっしゃいましたよ」

 メイドのアンはわざと区切ってリリアナに話し掛ける。

 目覚めてから随分起きていられる時間が増えた。

 エドモンドは暇を見つけてはこうして顔を見せに来ていた。

 意識が戻っても後遺症があり寝たり起きたりを繰り返している。

「こんな格好ですみません、こんなに頻繁に来て頂かなくてももう大丈夫ですから」

「顔が見たくて来ているんだ、そんな事言わないでくれ」


 目覚めてから世界が変わっていた、リリアナは戸惑っていた。

 どんなに請い願っても叶わなかった笑顔がそこにある。

 何故だろう、眩しいものを見るかの様に殿下のお顔が赤く染まる。

「すみません、こんな格好で」

 自分の着ているものが露出の激しいものだったか、目を下げて確認するがそこには地味な部屋着があった。

「逢いたくてつい来てしまうんだ、ゆっくり休めないか?」

「いえ、そんな事はないのですが」

「殿下はお嬢様にお逢いしたくて毎日毎日毎日毎日⋯⋯」アンがブツブツ呟く。

「分かったよ、面倒だからあんまり来るなって事だろう。アンにとっては」

「その通りで御座います」

 エドモンドとメイドのアンは軽口を言い合える仲になっていた。

 リリアナを挟んで両方から取り合っている状態とでも表現できる。

 エドモンドにとってはなんとも心地よい心休まる場所となっていた。

「今日は侯爵に提案があって来たんだ、邪険にしないでくれよ」

「執務室でとっくにお待ちです」

「分かったよ、リリアナじゃあ少しだけ行ってくるね」

「はい、あの⋯⋯ごゆっくり」

「えぇー!」

「ご案内致します、さぁ早く」

 エドモンドはリリアナの方を振り返りつつ

「すぐ戻るから」と未練たらたらでトボトボ出て行った。




 侯爵家の応接室でエドモンドはある提案をしていた。

 侯爵はその提案をキッパリ断った。

「無理を言っているのは分かっているんだ、信用も出来ないだろう。でもそこを何とか」

「王太子殿下、光栄なお声がけですがリリアナには無理です」

「何も王太子妃に戻れと言っている訳ではない。側妃として側にいて欲しいんだ」

「正に今王太子妃選考が行われているではありませんか、側妃を先に決めるなどと」

「リリアナ専用の離宮を用意しているんだ。勿論メイドもこちらから連れて来てもいい」

「リリアナは回復しましたら修道院に行かせるつもりです。本人の希望も有りますし」

「修道院?ダメだ。絶対ダメだ!」

「本人の強い希望なのです」




 エドモンドは落胆していたが諦めるつもりは無かった。

 何度でも交渉する、必ず承諾させてみせる。

 リリアナの部屋をノックもせずにそっと覗く。

 リリアナが起き上がり窓の外を静かに見ていた、その横顔が消えてしまいそうに見える程美しかった。

 神から愛された天使の様に儚く美しく淡い光がリリアナを照らしていた。

 声を掛けないと神が直ぐにでも天に連れ去ってしまう様な気がして、慌てて優しく声をかける。

「リリアナ。終わったよ、アンに美味しいお茶でも淹れてもらおう」


 ゆっくりと振り返ったがリリアナは私を見てはいなかった。

「そろそろお迎えが来るようです、お別れの時が近いのかも知れません」


「何を言うのだ、侯爵にお願いして来たんだ。側妃に貰えないかと」

 リリアナはそれには答えなかった。

「悲しまないでください、時間を頂いただけなのですから」

 そう言って花が咲いた様に笑った。




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