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一つの恋の……艶笑

 アリーシャはイライラと部屋の中を歩き回っていた。

 いつまで経っても手紙を出したハワードは飛んで来ないしエドモンドに至っては連絡も会いにも来ない。


「来ない、来ない、来ない!」

 右手に持った縫いぐるみをブンブン振り回し茶器セットを薙ぎ払った。

 凄い音が邸内に響き渡る。


 ここの所追い詰められて見る影も無くなっていた。

 眠れなくて目の下には濃いクマが出来ていて肌は荒れ頬はこけていた。


 メイドが近寄ろうと試みるが破片の刺さった縫いぐるみを容赦無く振り回すので怪我をしたりしていた。


「お嬢様、先触れが参りました。殿下がおいで下さるようです」

「!」

 アリーシャは正気をかろうじて取り戻した。

「急いで入浴の準備をして頂戴、急いで!」


 慌てて入浴をすまし、クマを隠す濃い化粧を施し派手なドレスに着替える。

「ね、やはりおいで下さるでしょう。殿下とは強い絆が有るの」

「さようでございますね、やはりお嬢様がいらっしゃら無いとお寂しかったのでしょう」

 メイドの言葉に上機嫌で頷くとロビーに降りて行く。


 今か今かとエドモンドの来るのを待つ。

 なんだか屋敷が陰気臭いわね、あらロビーの花も花瓶も貧相じゃない。

 本当に気が利かないんだから。

 まあいいわ、もう時間がないから。

 やはり私が指示してやらなければダメね。


 王家の紋章入りの馬車が止まる、息が止まる程逢いたい人が降りてきた。

 輝く金髪に青い青い瞳、私の大好きな色。

 私の産むであろう子供達に引き継がれる色。

 あぁやっぱり、私の旦那様になる方は何て素敵なのかしら。


 アリーシャは満面の笑顔で両手を広げてその時を待った。




 その頃ハワードとメリッサは公爵家に戻って来ていた。

 余りにショックな内容の話を聞かされハワードの顔には生気が無い。

 メイドに命じて彼に睡眠薬を飲ませベッドで休ませる事を指示する。


 あぁやっと帰って来られた、自分も気分を落ち着けるハーブティーを頼む。

 一時でも目を離すと逃げられそうでここの所全く眠れて居なかった、体が悲鳴を上げている。


 屋敷の者に監視を頼み私も少しだけ休もう、メリッサはようやく安心してソファーにもたれ掛かる。

 少しだけ目を瞑ろう、そう少しだけ。

 そのままスッと眠りの世界に落ちて行った。


 それから大分暗くなって来てノックの音で目が覚める。

 うたた寝をしてしまったらしい。

「どうぞ、入りなさい」

「お休み中失礼致します、メリッサ様にお手紙が届いております」

 メイドが差し出した手紙に目を顰める。

「……アリーシャ?」

「王都からの商人がまた持って来ました。それでその……」

「何?何か言いたい事があるの?」

「もう既にお耳に入っているかも知れませんが商人が変なことを言うのです」

「変な事?何が言いたいの、ハッキリ言って頂戴」

「噂が、まだ噂の域だそうですが王太子殿下がまた婚約を破棄されるとか」

「何ですって?その商人今すぐ呼び戻しなさい」

「は、はい、只今」

 メイドは急ぎ足で出て行った。


 渡された手紙を開封する。

 今すぐハワードを王都に戻しなさい。どうせ軟禁しているのでしょう、これは命令よ。

 不味い事になったからちょっとだけ力を借りるだけよ……と一方的に書き殴っていた。


「⋯⋯不味い事?」

 時節の挨拶も愛想の欠片も無い。

 もう取り繕う事さえしないのね、苦笑が洩れる。


 そうしている間にメイドが商人を連れて戻って来た。

「お礼はします。先程の事詳しく話して頂戴。王都で今何が起こっているの?」

 商人の口からは信じられない事が語られた。


 手紙と合致する、信憑性は高いと感じた。

「そう、悪魔のピンチって訳なのね」

 メリッサは淑女らしからぬ大声で笑った。



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