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一つの恋の⋯⋯狂喜

 メリッサは生まれて初めて心の底から大笑いをした。

 それはそれは最後に声が掠れてヒーヒーと声がもれるほど。


 淑女らしからぬ行動であったがこれまでの鬱憤が晴れるほど笑った。

 鳩尾に手をやってお腹がよじれるってこの事を言うのね、と妙に納得した。

 それから笑い過ぎて目尻に滲む涙を指先で払う。


 そしてこれまでの事を振り返る。

 今まで悪魔の外見や巧みな甘言に騙されて多くの者が操られてきた。

 その自覚の有る者も無い者もふと気がついた時にはあの悪魔の思い通りの筋書きの共犯者となっている。

 私の様に弱みを握られてと言うものは少ないだろう。

 ハワードやあの王太子殿下さえも絡め取られるのだ。


「どう?苦しい?」誰もいない部屋の天井を見上げながら呟く。

 私やリリアナの苦しみが少しでも実感できる様にしてあげる。

 メリッサは手紙を力一杯握りつぶした。




 ハワードは疲れと緊張で丸一日死んだ様に眠った、夢も見なかった。

 目覚めた時は頭が却って痛みスッキリとした寝覚めにはならなかった。

「どの位眠って居たんだ?」

「丸一日で御座います、おぼっちゃま」

「この年でおぼっちゃまは止めてくれ」

「メリッサ様に御心配をお掛けするのですからおぼっちゃまです」

 年配のメイドが言う。

「眠りすぎると頭痛がするって本当だったんだな」

 メイド相手に一人愚痴る。

「メリッサ様はもう起きていらっしゃいますよ」

「元気なもんだ」

「何を仰っているのです、婚約者の為に頑張って居られるのですよ」

「⋯⋯」

「さぁさぁ顔を洗ってスッキリなさって下さい、飲み物をお持ちしますから」




 軽い朝食を済ませて執務室に顔を出すともう既にメリッサが溜まった書類と格闘していた。

「あら、おはようございます。もう宜しいのですか?」

「あぁ、お陰様で」

「随分とお加減が悪そうでしたので二、三日は寝付かれるとばかり」

「丸一日寝てたんだ、もう大丈夫だよ」

「それなら良かったですわ」

「そう言えば楽しそうに笑ってたんだって?メイドがメリッサの笑い声初めて聞いたって言ってたよ。何か良いことでもあったの?」

「えぇ、お友達からお手紙で子犬が産まれたのですって」

「子犬か、良いね」

「えぇ、結婚したら飼いたいですわ」

「モコモコした奴がいいな」


「あっ、そうそう忘れるところでしたわ。サインが必要な書類が幾つか有りますの。忘れないうちにお願いできまして?」

「あぁ、これ?沢山あるんだな」

「内容は私が確認して有りますので、サインだけお願いしますね」

 重ねられた幾つもの書類に言われた通りサラサラとフルネームでサインをしていく。

「はい、これで最後です。お疲れ様でした。では午後から打ち合わせが入っていると家令が申しておりましたわ」

「分かった」


 メリッサはこっそり笑った。

 白紙の書類にサインをさせる事に成功する。

 これはどう使おうかしら?手紙でもいいし、委任状にしてもいいわね。


 頼りにしている人から裏切られる気持ち、味わわせてあ・げ・る。

 メリッサは自身が自覚していないほど病んでいた。







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