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一つの恋の⋯⋯覚醒

 エドモンドは小走りで執務室に戻りながら笑っていた。

 あの程度の女であったとは、よくも騙してくれたなと。


 目尻に涙が滲んだ、上辺だけを取り繕った醜いもの。

 学生時代アレが良く見えていたのだから私も同罪か、舐められたものだ。

 震える拳で鳩尾を叩く、しっかりしろよと。


 護衛の者たちも距離を置いて慌てて追ってくる。

 普段から邪魔にならない距離での警護をさせている。

 彼等は見聞きしたものを決して漏らしてはならない制約を受けている。

 漏らせば一族郎党連座で処刑の憂き目に遭う。

 だから王太子殿下の様子が少々おかしかろうと殿下の身に危険がない限りは影に徹する。

 その彼等でさえも王太子殿下の様子は奇異に映った。


 執務室に戻り鍵のかかった金庫から報告書を取り出す。

 あの女は外面が良く、人を操る術に長けている。

 これまでもそうしてきたのだろう。


 思い返せば学園時彼女が努力している姿を見た覚えがなかった。

 その頃は我が目が曇っていたので、非常に優秀で人目につかぬところで励んでいるのだと信じて疑わなかった。

 実際のところその様に思い込まされていたのだ。


 しかしいかに聞こえの良い言葉で飾ろうとも所詮張りぼて。

 いずれは本性が知れると言うのに婚約すれば安泰だとでも思ったか。


 怠け者で高慢な女が王妃になれば民が其れこそ許すまい。

 結婚前に露呈して良かったのだ、まだ間に合う。


 王とは王妃とは⋯⋯国の根幹を成すもの。

 あの様な心根で務まる筈もない、国の頂点に立つ者は覚悟と品格が必要なのだ。

 民の生活を守っていかなければならないのだから。


 侯爵家のメイド、アンの声が木霊する。

≪だから婚約は覚悟を持って成されるべきなんです。お相手の人生を変える事になるから、いい意味でも悪い意味でも≫


 執務室に戻った時、心は決まった。

 王と王妃が首を長くして報告を待ちかねているだろう。


 その美しい魂の人は覚醒の時を迎えていた。

 薄っすら開けた目にキラキラと光の波が見える、水面?

 それが波などではなく、窓辺のレースのカーテンが風に静かに揺らいで光を反射した。


 ここはどこだろうと見回せばよく見知った自室であった。

 しかしベッドの位置と向きが変えられていた為一見した限りでは分からなかったのだ。


 部屋には誰もいない、でも沢山の花が活けられ噎せ返るような匂いが押し寄せる。

 光と風と花々と⋯⋯。

 とても綺麗、天国と見まごう程に。


 誰かを呼ぼうとして思い留まる、またまぶたが重くなった。


 目覚めてはいけないのだ、幸せを祈る為旅立ったのだから。

 静かにまた目をつぶる、意識がすぅーと沈んで行く何事もなかったように。

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