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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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演奏と巫女達

 最後の音が鳴り止んだあと、大きな拍手と共にあちこちから感心したようなため息が聞こえた。

 なんとか大きな間違いも無く演奏する事が出来て、竪琴を抱えたレイは心底安堵していた。

 また神官達が進み出て来て、ミスリルの鐘を鳴らしながら定刻の祈りを唱え始める。

 しばしの休憩時間に、レイは大きく深呼吸をして緊張して硬くなった肩を回した。



「まあ、なんて素晴らしい……」

 演奏が終わっても、クラウディアはそう呟いたきり感動に震えてすぐには動けなかった。他の巫女達も同様で、皆口元に手をやって感動している。

 一斉に沸き起こった参拝者達の拍手に我に返った巫女達は、慌てて自分達も一緒になって拍手をしたのだった。

「あの、連れて来てくださってありがとうございました!」

「竜騎士様が歌う偉大なる翼にを全部聞けたなんて、本当に夢のようです」

「本当に素晴らしかったです。ありがとうございました!」

 口々に立ち上がった巫女達が後ろで控えてくれていた執事にお礼を言う。

「あの、本当にありがとうございました。夢のような時間でした。私……まだ感動に手が震えています」

 クラウディアもなんとか立ち上がって、両手を握りしめてお礼を言った。

「喜んでいただけてよろしゅうございました。では、今度はいつもの控えの場へどうぞ」

 笑顔で一礼した執事の案内で、次の舞台のための控えの場へ向かった。

 思っても見なかった正式な場でのレイルズの演奏と歌声を聞けた喜びに、クラウディアは何度も胸元を抑えて自分を落ち着かせるように深呼吸をしていたのだった。




「さあ、次は元気になる曲だな」

 ルークの声に、レイも小さく頷いて背筋を伸ばした。

 次の曲は、歌はお休みで演奏のみなので演奏に集中出来る。

 曲は、英雄行進曲。

 花祭りや観兵式の際に兵士達の入場行進曲として演奏される曲の一つだ。

 トランペットと呼ばれる金属の筒を巻いて作られた張りのある力強いラッパの音に合わせて演奏が始まる。

 ここではレイの演奏する竪琴はヴィゴのコントラバスやロベリオのセロと一緒の伴奏役で、爪弾く音は常に一定で、あまり変化が無い。

 曲自体はリズミカルな明るい曲なのだが、正直弾いていてあまり面白くはない曲でもある。

 その上、逆に一定のリズムで繰り返される音が延々と続く為、うっかりすると自分の弾いている箇所を見失いがちだ。ニコスのシルフ達のありがたみを実感した演奏となった。

「ありがとうね。おかげで間違わずに演奏出来たよ」

 手を叩いているニコスのシルフ達に小さな声でお礼を言って、深呼吸をして改めて背筋を伸ばした。

 竪琴を弾いているとつい前屈みにの姿勢になりがちなので、その為意識して演奏が終わるたびにこうやって背筋を伸ばしている。



「ええと次は、花の君へのパヴァーヌだね。これはゆっくりした曲だよね」

 新しく置かれた譜面を見ながらそう呟いたレイは、竪琴を抱え直したところで驚きに目を瞬いた。

 先ほどと同じ精霊王の彫像の前の広い場所に、またクラウディア達が出て来たのだ。

 今度の彼女達の手には、真っ白なリボンで束ねられた白い花だけで作られた花束がある。しかも、その花束はよく見ると、長い一本のリボンで束ねられていて全て繋がっているのだ。

「本来は、男女が二人一組で踊るんだけどね。結婚式の前日祭で踊る場合はちょっと違っていて、巫女達の持つ花束が相手の人を表すんだ。俺も見るのは初めてだよ」

 ルークの説明に、レイは言葉もなく頷く。

 六人の踊り手達は、手にした花束を外側にして輪になるようにして位置についた。

 宮廷楽士の指揮者がゆっくりと杖を振る。

 それに合わせてマイリー達がゆっくりとした曲の演奏を始めた。

 レイも、自分に与えられた部分を一生懸命奏でた。

 目の前では、演奏に合わせて巫女達がゆっくりとした足取りで踊り始めていた。

 手にした花束を捧げるように上げたまま、摺り足で進んでは下がる足運びを繰り返しながらゆっくりと輪が回っていく。

 初めて見る、今までとは違うその踊りに、レイは見とれないようにしながら必死になって演奏していた。



 少し足取りが早くなった後は、前後だけでなく、輪が大きくなったり小さくなったりするように巫女達が左右に動きながら輪は回り続ける。

 途中でくるりと回れ右をした巫女達が、今度は先ほどまでとは反対方向に進みながら輪になってまた踊り始める。

 今度は花束が輪の内側になっている。

 時折、手にした花束を上げたり下げたりしながら、真剣な表情の巫女達は常に一定のリズムで踊り続けていた。

 この曲の演奏の主役は、マイリーやロベリオ、ヴィゴ達からなる、ヴィオラをはじめとする弦楽器達だ。常に一番中心となる音を演奏しているので休みがない。

 対してそれ以外の楽器は時に休む間があるので、その時にはレイはもう遠慮せずに目の前で踊るクラウディアを見つめていた。

 そして気が付いた。最初に出て来た時よりも、花束と花束の間のリボンが短いのだ。

「ええ、どうなっているの?」

 思わず小さくそう呟いて目を凝らす。

「あ、花束を動かしてリボンを巻いている」

 納得するようにまた小さく呟く。

 クラウディア達は、右手に持ったその花束を時折一定方向に回すように動かして花束にリボンを巻き取っているのだ。

 それはつまり、リボンが短くなって輪が小さくなる事を意味している。

 曲が終わる頃には、巻き取られたリボンはすっかり短くなって六個の花束は中心で一つの花束となった。

 最後の演奏が終わると、巫女達は揃って手にした花束を大きく上に掲げてから、一番背の高い巫女が花束をまとめて両手に抱えるようにして持った。

 拍手に贈られて一礼した巫女達が退場する。

 レイは、拍手に送られて下がっていく彼女の背中を黙って見つめていた。



「いやあ、綺麗だったな」

 小さな声でそう言ったルークの言葉に、レイは半ば呆然とただ頷くことしか出来なかった。

 そんなレイの肩の上では、ブルーのシルフが無事に大役を終えて退場していく愛しい巫女を、黙って優しい眼差しで見つめていたのだった。

 巫女達が退場して姿が見えなくなると、ブルーのシルフはそっとレイの頬にキスを贈った。

「よかったな。彼女の舞う姿を間近で見る事が出来て」

 ブルーのシルフを見て笑ったレイは、嬉しそうに笑って小さく頷いてまた背筋を伸ばしたのだった。

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