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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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偉大なる翼に

「ああ、緊張したわ」

「本当よね。まさか自分が、皇王様やマティルダ様やオリヴェル殿下の御前で舞いを披露する日が来るなんてね」

 控え室に下がった舞い手達は、興奮に頬を紅潮させながら手を取り合って大はしゃぎしていた。

「レイルズ様もいらっしゃったわね」

「貴女の事をずっと見てらしたわよ」

「今回は、前半は竜騎士様は演奏に参加なさらなかったから、思い切り貴女の舞を見る事が出来てレイルズ様も満足なさったんじゃなくて?」

 クラウディアと同じ、二位の巫女のエルザとペトラ、エミューの三人が目を輝かせてクラウディアを振り返る。

「ま、まさかそんな事ありませんわ」

「あらあら、だって以前の精霊王の神殿で舞を奉納した時には、レイルズ様は最初は貴女を見ていたのに、後半は床ばかり見てらしたものね」

 後ろから聞こえた一位の巫女のリモーネの言葉に、巫女達は揃って楽しそうに笑った。

「誰かさんに見惚れて間違ったら大変だものね」

 もう一人の一位の巫女であるヴェルマが笑いながらそう言うと、また巫女達は揃って嬉しそうな悲鳴を上げて手を取り合って笑い合っていた。

 このあと、少し休憩してまた舞を披露しなければならない。それまでは待機するように言われたので、彼女達は大人しく控室で待っていたのだった。



「お疲れ様でした。冷たいお茶をどうぞ。飴もありますよ」

 衣装を汚さないように、吸口の継いた蓋付のカップに入れられた飲み物を世話係の執事に渡され、六人の巫女達はお礼を言ってそれぞれに飲んだ。

 すぐに溶ける柔らかな飴玉も貰い、嬉しそうに笑いながら口の中で転がして溶かしてから残りのお茶を飲み干した。

「ご準備が整いましたら、廊下に出て来てください。ご案内します」

 もう少し休めると聞いていたが、もしかしたら何か不都合があって順番に変更があったのかもしれない。

 そう考えた巫女達は、大急ぎで身支度を整え、お互いの背中や髪を見合ってから揃って控え室を後にした。


「では、こちらでどうぞお座りになってお待ちください」

 しかし、執事が案内してくれたのはいつも演技の前に待つ控えの場所では無く、裏部屋の横に置かれた小さな椅子で、不思議に思いつつ座る。

 目の前に置かれた衝立の向こうから綺麗な音が聞こえてきて、巫女達は目を見開いて咄嗟に叫びそうになる口を押さえた。

 それは今まさに演奏が始まったばかりの、偉大なる翼に、だったのだ。






「さて、いよいよ本日の演奏の最大の山場だぞ」

 ルークの小さな呟きに、レイも小さく頷いて小さく唾を飲み込んだ。

 巫女達が退場した後に定刻の祈りが終わり、一定間隔で鳴らされるミスリルの鈴の音に合わせて祈りを担当していた神官達が下がる。

 それを見てから、マティルダ様とカナシア様も立ち上がってハーモニーの輪の最前列に移動してその場に立った。

 唐突に、ずっと鳴らし続けていたミスリルの鈴の音が止む。

 宮廷楽士の一人が立ち上がり、手にした杖をゆっくりと振ると、それを合図に次の演奏が始まった。



 曲は、偉大なる翼に。



 本来、偉大なる翼には竜騎士隊が全員いる時にしか演奏されない曲だが、今回はアルス皇子の代わりに陛下が直々に演奏するという、なんとも贅沢な演奏となっている。

 歌い出しは女性が担当する。

 ハーモニーの輪の女性達と、マティルダ様とカナシア様の声が堂内に響く。




「遥かに果てなき山並みを超え、彼方(かなた)より来たりし偉大なる竜よ」

「その大いなる翼の下にて、幼き我らを守りし偉大なる竜よ」

「そは憧れ、麗しのオルダムの空を舞う偉大なる竜よ」

「精霊達は(たわむ)れ、小鳥は歌う麗しの花の街オルダム」




 陛下の演奏するハープシコードに合わせて、それぞれがゆっくりと演奏を始める。

 レイも目の前の譜面を見て確認しながら、必死になって竪琴が表す流れるような風の音を演奏した。




「そは憧れ、麗しのオルダムの空を舞う偉大なる竜よ」

「願わくば我も共に()かん」

「その翼の示す先の世界へ」



 途中から、レイルズも演奏しながら男性担当の部分を皆と一緒に歌い始める。長い間奏のあとは、歌はまた男性担当の部分だ。




「巡る季節、風のささやき」

「花の香り、祭りの騒めき」

「憧れの空を舞う偉大なる竜に想いを馳せ、繰り返す日々の生業(なりわい)




 ここから一気に演奏が変わり、歌詞も少しわかりやすい言葉遣いになる。街の人々の生活を現したやや軽い感じの歌詞と演奏が、転がるように続く。

 その後、また演奏が一変し、レイの竪琴とマイリー達の演奏するヴィオラが中心となって、ゆっくりとした間奏が続く。今度は貴族の人々が過ごす日々が歌われるのだ。



 レイはもう、必死になって目の前で執事が絶妙のタイミングでめくってくれる、大きな譜面を睨むように見つめ続けていた。

 ニコスのシルフ達は、竪琴の弦の横で、音が飛ぶ場面などで次に演奏する場所を指差してくれる子と、譜面の上で今演奏している部分を指差して教えてくれる子に分かれて、まだ慣れないレイの演奏を助けてくれていた。

 しかし、レイにはそんな彼女達にお礼を言う余裕も無く、もし演奏を間違ったらどうしよう。歌詞を間違えたらどうしよう。そんな事ばかりを考えて必死になって演奏していたのだ。

 その為、眉間にしわが寄り目も上目遣いになっていて、やや問題のある表情になっている事に本人は全く気付いていなかった。

 その時、見兼ねたブルーのシルフが目の前に現れてレイの鼻先をそっと叩いた。

『レイ、顔が怖いぞ。皆が見ているのだから笑顔を忘れてはならん。それから、少し猫背になっておるぞ。背筋を伸ばしなさい』

 ブルーのシルフに優しく話しかけられて目を瞬いたレイは小さく頷き、歌が途切れた時に合わせて深呼吸をしてから背筋を伸ばした。




「麗しの花園に佇む君に、せめて一目と願わくも」

「あえかな女神のため息に、我泣き濡れて(まどい)し夜も」

「遥かなる空を変わらずに舞う、偉大なる竜よ」


泡沫(うたかた)の夢」

「消えゆく先に忘れた何か」

「いざ探しに行かん」

「消えゆく先に忘れた何か」

「君と見上げし果てなき空に」

「変わらずに舞う偉大なる竜よ」


「そは憧れ、麗しのオルダムを守りし竜よ」

「いざ共に行かん」

「その翼が示す先の世界へ」




 永遠に続くかと思われた演奏がようやく終わり、最後の部分を全員が揃って歌い上げた時、レイは思いっきり竪琴をかき鳴らしながら、一番大変な山場をやり終えた充実感に身を震わせていたのだった。

 後半は笑顔で演奏する事が出来て、ブルーのシルフも安堵したように笑ってレイの頬にキスを贈ったのだった。

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