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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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前日祭の終了

 巫女達が下がった後、また神官達が出て来て定刻の祈りが捧げられる。

 祈りの言葉と共に、神官達が持つミスリルの鈴が一定のリズムで鳴らされるのを聞いて大喜びをしているシルフ達を見ながら、レイは竪琴を抱えてうっとりとその美しい鈴の音色を聞いていたのだった。



「ほら、準備しろよ」

 耳元で小さく聞こえたルークの言葉に、まだ、さっきの感動醒めやらぬ状態でぼんやりと蝋燭の炎を見ていたレイは飛び上がった。

「あ、はい!」

 咄嗟にちょっと大きな声が出てしまい、近くの席に座っていた年配の女性が驚いたようにこっちを見る。

 我に返って、慌てて何事もなかったかのように背筋を伸ばして竪琴を構える。

 婦人会の夜会で何度かお見かけした事があるその夫人は、小さく笑って隣に座る夫に何か耳打ちした後二人揃って笑い合い、笑顔でレイを見つめてもう一度笑った。

 しかし、その笑いは馬鹿にするようなそれでは無く、まるで晴れ舞台でちょっとした失敗をした孫を見ているかのような、おやおや仕方がないなあ、と笑っているかのような優しい眼差しだった。



 鳴り続けていたミスリルの鈴の音が止み、また宮廷楽士の指揮者が立ち上がる。

 それを見て、レイも背筋を伸ばして竪琴を抱え直した。



 次の曲は、愛しき竜よ。



 これも歌は無く演奏のみの曲なので、演奏に集中出来る。

 この曲でも竪琴はずっとほぼ切れ目なく演奏が続く。

 今回は、レイの弾く竪琴が高音部分を、ルークの弾くハンマーダルシマーが低音部分を担当する。

 竜が飛ぶ際の流れる風の音をこの二人が担当し、ヴィオラをはじめとする弦楽器と陛下の弾くハープシコードが空を舞う竜達を表現する。そして笛担当の二人が竜達と共にある人を示し、まるで会話するかのように弦楽器達とフルートが交互に演奏する場面が何度も繰り返される。

 笛の二人が使うのは基本はそれぞれの使うフルートなのだが、時折高い音が入る部分がありこれをティンホイッスルを使って演奏する。

 流れるように繰り返される竪琴とハンマーダルシマーの音の合間に、まるで竜の鳴らす喉の音のようなヴィオラをはじめとする弦楽器の音が響く。

 竜騎士達にとっては、文字通り竜達を示す曲だとわかるのだが、竜と間近に接することのない人々にとっては、よく分からないらしく単に綺麗な曲だという印象のようだ。

 特にこの曲はあまり知られておらず、こういった決まった特別な場でしか演奏される事は無い。

 前回この曲が演奏されたのは現皇王様のご成婚の際の前日祭の時なので、それ以来の公式の場での演奏となる。

 無事に演奏が終了して、拍手が起こる。

 また神官達により、繰り返し祈りが捧げられ一定間隔でミスリルの鈴が鳴らされる。

 参拝客達も、順番に進み出て祭壇に蝋燭を捧げた。




 この後、ハーモニーの輪とエントの会により十二神に捧げる歌が続けて披露された。

 どれも伴奏はなく歌のみで、まるでヴィゴの演奏するコントラバスのようなエントの会の人達の低く響く歌声に、ハーモニーの輪の女性特有の高く優しい歌声が重なる。

 美しい混声合唱による歌声は、静まりかえった礼拝堂に響き渡った。

 あちこちから堪えきれないようなため息がもれ、レイも竪琴を抱えたままでうっとりとその美しい歌声に酔いしれたのだった。



 その後、古典演舞を専門に研究している男性のみで構成された銀狼の会の倶楽部の人達が進み出て、先ほどクラウディア達が舞を舞った場所で、月の光と、エントの大老、という古い舞を二曲続けて披露した。

 柔らかな布でゆったりと作られた独特な衣装に身を包んだ男性達が、ゆっくりとゆっくりと静かに舞う姿は何とも不思議な美しさがあった。

 伴奏は竜騎士達が担当したが、どちらの曲もほぼリズムを取るだけのごくゆっくりした音だけで、決まった旋律は無い。

 最後に舞い手達が揃って足を踏み鳴らして全ての演舞が終わると、堂内は大きな拍手に包まれた。



 その後にまた、神官達が出て来て祈りを捧げて前日祭は終了した。

 とはいえ、前日祭が終わったとは言わず、今よりご成婚の儀式が始まります。と大僧正が最後に宣言して終了したのだった。



 最後にもう一度精霊王の祭壇に蝋燭を捧げてから、退場する陛下をはじめとする皇族の方々を見送ってから、竜騎士達も揃って神殿を後にした。

 そのまま城にある竜騎士隊の為の部屋に向かう。



「はあ、疲れました」

 到着した見慣れた城の控え室で、レイはそう言ってクッションを抱えてソファーに転がった。

「こら、起きてまずは剣帯を外せ。それから上着も脱いでおけよ。シワになるぞ」

 ルークに背中を突っつかれて、呻くような返事をしたレイは周りを見てからゆっくりと起き上がった。

 それから自分の剣帯を外して部屋の入り口横の壁にある金具にひっかけておく。上着も脱いで、同じく横に置かれているハンガーに引っ掛けた。

 それから改めてソファーに転がる。

「お疲れさん」

 そう言ってカウリが隣に座り、同じく反対側に転がった。

「巫女達の舞い、綺麗だったな」

「うん、そうだね。初めてあんな間近でゆっくり見られたよ」

 嬉しそうなその言葉に、ルークが上から覗き込む。

「その後感動のあまり放心していて、もうちょっとで大声を出しそうになった人は誰だ?」

「うう、言わないでください」

 からかうように赤毛を突っつきながらそう言われて、情けなさそうに眉を寄せてそう言ったレイの様子に、あちこちから吹き出す音が聞こえた。

「まあ、これも経験だよ。さて、それじゃあ今日はこれで終わり、と言いたいところだが、このまま夜会に突入だぞ。今早めの夕食を用意してくれているから、何でも良いからしっかり食っておけよ」

 隣に座ったルークの言葉に、見習い二人は情けない悲鳴を上げるのだった。

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