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蒼竜と少年  作者: しまねこ


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お出掛けすると言う事

「ああ、出掛けるなら、一旦離宮へ行ってそこからにしろよな。予定外でいきなり中庭に降りると、普段城に来ていない人が大勢いるから、下手すると竜を見たくて飛び出して来るからさ」

 食堂から廊下へ出たところでルークにそう言われて、レイは目を瞬いた。

「あ、そうか。花祭りの期間中だから、普段よりもお城に人が多いんだね」

「そう言う事。まずは装備を持って離宮へ行けば良い。あ、それから外出申請を出しておけよな」

 外出申請とは、私用で外出する際などの届け出だ。

「一人だけなら出さなくても構わないけど、竜が一緒の場合は出しておくようにな」

「了解です」

 今までは、恐らくラスティが出してくれていたのだろう。

 ラスティを振り返ると、苦笑いして頷いてくれたので、そのまま一緒に事務所へ行って、詳しい書類の出し方を確認した。



「まあ、これはご自分で出される事は滅多にありません。普段は私が処理しておきますので、こう言った書類があると言う事だけは覚えていてください」

 そう言われて、真剣な顔でサインをしてから頷く。

「分かりました。お願いします」

 サインした書類を受け取ったラスティは、担当部署へ持っていく。

 その後ろ姿を見送って、レイは天井を振り仰いだ。

「本当に、まだまだ知らない事だらけだね。いつも、皆にどれだけ助けて貰っているんだろうね」

 現れて、一緒になって説明を聞いていたニコスのシルフにそう言って、レイは小さくため息を吐いた。

「ちょっとだけ、ブルーと一緒に空を飛びたいって思っただけなのにね」

 右肩に座ったブルーのシルフにもレイはそう言って、もう一度ため息を吐いた。

「如何なさいますか? もうお出掛けになられますか?」

 戻って来たラスティに聞かれてレイは大きく頷いた。

「はい、お願いします」

「では参りましょう」

 頷いてそう言ってくれたので、レイは立ち上がってラスティの後に続いた。




 厩舎へ向かうと、丁度第二部隊の兵士達がブルーの装備の入った箱を用意してくれているところだった。

「あの、急にわがまま言ってごめんなさい。えっと、手伝います」

 慌てて、箱をラプトルに載せるのを手伝った。

「お気になさらず。こんなの、わがままのうちに入りませんって」

 顔見知りの兵士にそう言われて、レイはもう一度お礼を言った。



 ラスティと護衛のキルート、それから他にも竜人の兵士が付いて離宮へ向かう。

「諦めてください。本部から外へ出たら常にこうですよ」

 苦笑いするラスティに、レイも小さく笑って頷いた。

「竜騎士になるって、本当に大変な事なんだね。ちょっと軽く見てました」

 レイにとっては、お城で偉い人の相手をするよりも、こんな風に、他に仕事を持っている兵士達が自分の為だけに動いてくれる事の方が、気分的には負担になるようだ。

「まだまだ前途多難ですね」

 真剣な顔で隣を走るレイを横目で見て、ラスティは小さく笑った。




 離宮の庭には、既にブルーが来て待っていてくれた。

 一緒について来てくれた第二部隊の竜人の兵士達が、手早くブルーに駆け寄る。レイも一緒に背中に上がって、鞍を取り付けるのを手伝った。

「こちらに、カナエ草のお茶が入っています。それから、一応こちらの遠征用の装備もお持ちください。中に、お湯を沸かす道具も入っておりますので、もしも足りなければ淹れてください」

 大きな水筒と一緒に、いつも野外へ出る時の遠征用の装備の入った袋を貰う。

 普通なら水の入った水筒もあるのだが、レイは自分で水を調達出来るので今回は要らない。

「分かりました。じゃあ持っていきます」

 受け取って、自分で鞍の後ろの部分にある金具に取り付けた。

「では、お気をつけて」

 見上げるラスティや兵士達に手を振り、レイはブルーの首を叩いた。

「それじゃあ行こうか。ブルー」

 大きく喉を鳴らしたブルーは、大きく翼を広げてゆっくりと上昇した。

 離宮の上空で旋回してから、ゆっくりと北に向かって飛び去って行った。






「まあ、すごく大きな竜よ!」

 丁度、窓の外を見た巫女のエルザの言葉に、部屋にいた全員が振り返る。

「ディア、ほら見て。レイルズ様と竜が何処かへお出掛けよ」

 その言葉に、クラウディアは持っていた花を置いて急いで窓辺に駆け寄った。

 大きく翼を広げた竜が、北へ向かって飛び去っていく姿が見えて、思わず両手を握って祈りを捧げた。

 何処へ行くのかは分からないが、どうか無事で戻って来てくれるようにと祈った。

「あの大きさは、レイルズ様の竜に間違い無いわ。本当に大きいのね」

 同じく、花の鳥を作っていた一位の巫女のリモーネの言葉に、クラウディアは笑顔で頷いた。

「レイルズ様は、いつも自分の竜はとても大きいんだって仰っておられます」

「あら、いつも竜舎へ一緒に行ってるんでしょう?」

 まるで会った事が無いかのようなその言い方に、リモーネとエルザが驚いてニーカを振り返る。

 彼女達が毎週、竜騎士隊の本部へ祭壇の掃除に行っているのは、全員が知っている。そしてそれは表向きの口実で、実際には、ニーカを彼女の竜に会わせてあげるのが目的だと言う事もだ。

 そしてもう一つ、竜騎士見習いであるレイルズ様と恋仲であるクラウディアを竜騎士隊の皆様も応援してくれていて、彼女も一緒に竜騎士隊の本部へ行けるように手配してくださっているのだと言う事もだ。



 正直言って羨ましい。

 ものすごく羨ましいが、誰も彼女達の邪魔をしようとはしない。

 そんな事をしても、誰も得しない事を皆よく分かっているからだ。


 夢のようなこの恋が本当に実るのかどうか、巫女達だけでなく、神殿にいる全ての人が、期待していると同時に、心配もしているのだ。

 そんな周りの期待と心配など知らず、あっという間に見えなくなってしまった竜の姿を探すかのように、クラウディアはいつまでも空を見上げていたのだった。




 一方、クラウディアが見送ってくれていた事など知らず、のんびりとレイは遊覧飛行を楽しんでいた。

「へえ、これくらいの高さから見ると、オルダムから伸びている街道がよく分かるね」

 ブルーが相当な高度に上がってくれたので、レイは下を見下ろして歓声を上げた。

 オルダムの街から各地へ伸びている街道は全部で七本。

 オルダムと西のブレンウッドを通って国境まで続くまっすぐに東西に繋ぐ街道は、主街道とも呼ばれ、一番人や物の行き来の激しい街道だ。このまま西のオルベラートへと続いている。

 反対に東のタガルノ側へ繋がる街道は国境のピケの街まで繋がり、その後国境沿いに南下してエピの街へつながっている。この道は、ほとんどが軍関係の人が利用している。

 逆に、オルダムから北側に伸びている街道は短く、竜の鱗山の東西を迂回して伸び、東側の街テンベックと、西側の街ロジアンを通じてミストレイの街までしか無い。その先には、人の踏み入る事の出来ない竜の背山脈があるからだ。

 ロジアンからは、枝分かれした道がロディナの竜の保養所へと続いている。

 上空から、覚えた地図を頭に思い浮かべてレイは感心したように大はしゃぎしていたのだった。



「地理の勉強は済んだな。では行くとしよう」

 ブルーがそう言い、一気にスピードを上げる。

「ヒャッホーウ! 速い速い!」

 一気に勢いを増して頬を流れる風に、レイは嬉しそうに右腕を振り上げて、大声を上げて声を立てて笑った。



 今はブルーと二人きりだ。

 誰に遠慮する事も無く、声を立てて笑える。

 すっかり一人になれた自由を満喫して、レイは大喜びでもう一度大声を出して叫ぶのだった。

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