女神の売店にて
「うわあ凄い。大きな花の鳥が歩いてるわ。見てください父上!」
クローディアの声に、アミディアを抱いたヴィゴも笑顔で大きく頷く。
彼らが立っている目の前では、初日にティミー達が大喜びした歩く花の鳥が、今日も見事に動き回っていた。
見上げる程の大きさの花の鳥が、足を左右に動かしながら踊っているかの様に動くそれは、会場中の注目を集めている。
他にも様々な動く花の鳥達があり、あちこちから歓声がひっきりなしに上がっている。
ヴィゴに抱かれたアミディアは、ぽかんと口を開けたまま瞬きするのも忘れて、目の前の巨大な花の鳥を見つめている。
「あ、良かったら沢山あるから使ってください」
レイがそう言って小物入れから投票券を取り出したが、二人とも笑って首を振り、肩から下げた小さなポシェットを開けてレイに見せてくれた。
細やかなレースで飾られたそのポシェットの中には、何冊もの投票券が入っている。
「もちろん私達も持っていますわ。毎年、使い切れないくらいにあるので大変なんです」
ポシェットを戻して、クローディアが照れたように笑う。
「だから、お兄様にも使って頂きなさいって母上が仰ってました」
アミディアも、得意気にそう言って笑っている。
「ええ、皆にも使ってもらおうと思って沢山持って来たのに」
思わずそう呟くと、アミディアを抱いていたヴィゴが笑って教えてくれた。
「我が家ではいつも、余った投票券は早めに女神の神殿の売店に寄付していくぞ。そうしたら、巫女達が見学する時に、好きに投票出来るからな。そう思ってあるだけ持って来ているのだよ」
「あ、そうなんですね。じゃあこれはディーディーにあげて、残ったら皆で使って貰えば良いね」
隣にいたタドラにそう言うと、一瞬遅れて、彼も笑って頷いてくれた。
「あ、ああそうだね。僕も沢山持って来ているから、それなら一緒に寄付するよ」
「寄付で貰ったものを、また寄付するわけだな」
面白がるようなルークの言葉に、皆で笑い合った。
「うわあ、凄い人だね。お店、大人気なんだ」
先に来てみた女神の神殿の売店では、周り中に人が押しかけて大変な事になっていた。
しかし、皆行儀良く列に並び、欲しい物を手早く買ってすぐに立ち去って行く。
呆気に取られて見ていると、次々に人は減っていき、しばらくするとようやく巫女達が見えるようになって来た。
皆、笑顔で忙しそうにしている。
「休憩で見学に出るのは、交代の人が来てからだから、だいたいいつも昼頃だぞ」
ルークの言葉に納得して一旦下がろうとした時、ニーカがこっちに気付いて笑顔で手を振ってくれた。
後ろを向いて作業をしていたクラウディアも、気付いてくれた他の巫女に手を引かれて前に出て来る。
「まあ、レイルズ。来てくださったんですね」
いつもと変わらない笑顔に、レイは何だか嬉しくなった。
「うん、忙しそうだね」
「そうですね。朝一番の人達がようやく終わったところです。午後の花撒きがおわってしばらくすると、終わる前に、もう一度どっと人が来られるんです。有難いんですけれど、同時に来られると大変なんですよ」
嬉しそうなクラウディアの言葉の中に花撒きと言う言葉が出て内心焦ったが、誤魔化すように笑って売店を見る。
ようやく人の波が途切れて、並んでいる品々を見る事が出来そうだ。
「あ、ディア達は何か買うんだって言ってたよね」
話を変えるように慌ててそう言うと、ニーカと話をしていたクローディアが顔を上げた。
「はい、せっかくだから今見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。何が欲しいの?」
ニーカが嬉しそうにそう言って手をバタバタさせる。
アミディアを抱いているヴィゴも一緒に燭台を選んだ後、少女達は揃ってペンダント選びに突入して、大喜びで楽しそうに笑い合い、手を叩き合っては楽しそうに顔を寄せて内緒話をしていた。
「女の子の笑い声って良いなあ……」
大人しく横で待っているルークの言葉に、タドラも笑顔で頷いている。
しかし、その視線が先ほどからずっとクローディアに注がれているのに、ルークは目敏く気付いていた。
「なあ、ちょっと聞いても良いか?」
「駄目」
即座にそう言われて目を見開く。
「ええ、そこは普通、何だよ?って言ってくれるんじゃねえのかよ!」
「だって、ルークの質問は分かってるもの」
「いやだってさ……」
「だから駄目。聞かれても答えないからね」
にんまり笑って振り返ったタドラに真正面から見詰められて、ルークは一瞬何か言いかけて小さく笑って両手を上げて降参のポーズを取る。
「了解。じゃあ何も聞かないよ。だけど、何か手がいる時には出来る限りの協力するからさ。そこは遠慮なく頼ってくれよな」
「ありがとう。だけど今日は……とりあえず自分で運試しだと思って頑張ってみるよ」
「おう、頑張れ、応援してるからな。あ、一応聞いておくけど、俺も花束集めに協力した方が良いか?」
目を瞬いて笑ったタドラは小さく頷いた。
「じゃあ、お願いしようかな。でも、もしも僕達が二人共取れなくてルークが確保してくれたら、花束の権利を巡って僕とレイルズで争いになりそうだね」
「あはは、確かにそうだな。じゃあ花撒きが始まる前に、どっちが先かの順番を決めておいてくれよな」
「まず、その話し合いで一日潰れそうだね」
二人は顔を見合わせて小さく笑い合った。
『そんなお前達には、去年、クロサイトの主がここで行った、女神の代理人の話をしてやろうか』
ルークの肩に座ったブルーのシルフの言葉に、二人が驚いたようにブルーのシルフを見る。
「何だよそれ?」
「僕も知らない。何なんですか?」
そこで、ブルーのシルフは、去年のこの場での花束争奪戦と、何とかガンディとの共同戦線でもうひと束ニーカが確保した事。そして、花束を取れなかった兵士との交流と、その後の若者達との話を聞かせた。
「へえ、それは凄いや。見ず知らずの人に、自分が取った花束を譲るニーカも凄いけど、その中から一本だけ貰って行って、求婚しに行ったその兵士も凄いな」
感心したようなルークの言葉に、ブルーのシルフも頷く。
『その兵隊さんなら年明けに結婚式を街の神殿で行ったんだよ』
『ニーカがお城の分所勤めになったって聞いて会えなくて残念がっていたんだ』
『それで後日花束が分所に届いてたし』
『二人揃ってわざわざニーカに会いに来てくれたりもしたんだよ』
ルークの肩に現れたクロサイトの使いのシルフが、得意気に後日談を聞かせてくれる。
「へえ、そりゃあ素敵な話だな」
「でもニーカらしいね」
ルークの言葉に、タドラも笑顔で笑っている。
「僕に、出来るかな……でもその前に、花束を取れなければ、何にもならないもんね」
自分に言い聞かせるように小さくそう呟くと、大きく深呼吸をして、ようやく買い物の終わった彼女達を振り返った。
そこには、少し早めに交代に来てくれた巫女達に押し出されるようにして売店から追い出されるクラウディアとニーカの姿があった。
「こっちは良いから、いってらっしゃい!」
「戻って来るのは何処かの屋台でお昼を食べて、花撒きが終わってからで良いからね」
「それでは皆様。二人をどうぞよろしくお願いします!」
満面の笑みの巫女達と僧侶達にそう言われて、耳まで真っ赤になったクラウディアは、必死になって首を振り続けていたのだった。
そしてその横では、髪の毛と変わらないくらいにこちらも真っ赤になったレイルズが、悲鳴を上げて顔を覆って隣にいたヴィゴの背中に縋り付いていた。
そんな彼らの周りでは、何人ものシルフ達が呼びもしないのに集まって来て、大喜びで二人の髪の毛を引っ張ったり首筋を擽ったりして大はしゃぎしているのだった。




