倶楽部とお茶会
「では、今日の作業はここまでにしようか。どうだったね?」
「はい。ありがとうございました。とても勉強になりましたし、とても楽しかったです!」
作業が一段落したところで一息ついたゲルハルト公爵にそう言われて、満面の笑みでレイも頷く。
今日は自分の作業はせず、ほぼつきっきりで教えていたウーティス卿もそう言われて嬉しそうな笑顔になっている。
「レイルズ君は、我が倶楽部期待の新人だからね。我々で教えてあげられる事があれば、もちろんなんでも喜んで教えるよ」
にっこりと笑ったゲルハルト公爵の言葉に、部屋にいた会員の人達も笑顔で頷く。
「はい、改めましてよろしくお願いします!」
笑顔のレイがそう言って立ち上がり、会員の人達に向かって深々と一礼して、部屋は暖かな拍手に包まれたのだった。
改めて座り直して、作業台に散らかっていたおが屑をおいてあった小さな箒でかき集める。
それを見て、皆もそれぞれに作業台の上に散らかったおが屑や木片を集め始めた。
そんな人達を見て、レイは密かなため息を一つ吐いた。
確かに以前倶楽部への誘いを受けた時に聞いていた通りで、会員の人達の平均年齢はかなり高いらしく、ゲルハルト公爵やウーティス卿がお若く見えるくらいだ。十代は、間違いなくレイ一人だろう。
中には、確実にもう現役は引退しておられるだろうと思われるほどの高齢で白髪のお方も複数おられる。
だが、皆背筋も伸びていてとても姿勢が良いし、かなり細かい作業も平然と行なっているので、こういった繊細な作業を伴う趣味を持つのは、高齢の方には案外良い刺激になるのかもしれない。
「では、片付けたらもう一つの楽しみ、休憩としようか」
ゲルハルト公爵の言葉に会員の人達も笑って頷き、道具を片付け始めた。
「えっと、あの一つ質問なんですが、今日作ったものはどうすればいいですか?」
今回使った道具は全て借り物なのでそのまま返せばいいと聞いているが、今日、自分が作ったものはどうすればいいのだろう。
そもそも、壁面加工を施した壁の板や塗料を塗った板は、まだ乾いていないので勝手に持って帰るのも駄目だろうと思われた。
「ああ、この部屋はうちの倶楽部でずっと借りている部屋なので、作りかけのものはそのままで構わないよ。あっちの壁際に作りかけの物を置く場所があるから、そこに置いておくといい」
ゲルハルト公爵の言葉に、驚いて言われた部屋の奥を見る。
ルークから聞いたが、通常こういった個人の倶楽部で使っているお城の中にある部屋は、基本的にその時だけ借りるのが普通のはずだ。
竪琴の会が定期練習を行っている部屋も、確か、その都度倶楽部の名前で借りているのだと聞いた覚えがある。
だが、この部屋の壁面には造り付けの大きな棚があり、そこの下の段には作業に使った道具や作りかけのものを置く場所が複数あり、棚の上半分には作りかけのドールハウスがいくつも並べられているし、その横には作りかけの板を立てる為なのだろう縦長のマス目になった棚の部分が複数ある。
「ドールハウス作りは、今回のように、作業後に乾かす時間がかかるものが多いからね。倶楽部発足当初は、作ったものは各自でその都度持って帰っていたんだけれど、移動の際に汚れたり傷がついたりして、せっかく作った物が駄目になった事が何度かあったんだ。それで皆で相談して、倶楽部の名前でこの部屋を長期で借りる事にしたんだよ。ああ、その賃料の為に一応少しだが会費を集める事にしているので、来期からはレイルズも参加してくれたまえ」
「ええ、今日から払います!」
驚いたレイが慌ててそう言うと、笑って首を振られた。
「部屋の賃貸契約は一年単位なのでね。次の更新は年明けなので、その時からお願い出来るかな」
「そうなんですね。では、来年度からはきちんと参加させていただきます」
笑顔のレイの言葉に、若いのにしっかりしているねと、あちこちから感心する声が上がっていた。
「さて、では片付いたようだしお茶会の時間にしようか」
笑顔のゲルハルト公爵の言葉に、今まで控えていて出てこなかった執事達が出てきて音もなく動き、綺麗に片付いた作業台にテーブルクロスを掛けていく。
それから別の執事達がワゴンを押して出てきて、手早くお茶の準備を始めた。
「今日のお菓子は誰の番だったのかな?」
笑顔のウーティス卿の言葉に、三人の人が手を挙げる。
ここにいる会員の方は、レイとはほぼ半数が初対面で、残りは夜会などで挨拶をしたことがある程度だ。
手を挙げた方は三人とも初対面の方で、確かお城の文官のロット子爵と、ティルカー子爵。それからウーティス卿と同じ宮廷音楽家のシェルディン卿だったはずだ。
「えっと、今日のお菓子の担当って、どう言う意味ですか?」
隣に座ったウーティス卿に小さな声で質問する。
「ああ、うちの倶楽部では作業が終わった後に歓談の時間としてお茶会を開催しているんです。それで、その際のお茶菓子を順番に持ち寄って、皆でいただいているんですよ」
納得して、背後で作業している執事達を振り返る。
ワゴンの横に用意された即席の折りたたみ式テーブルの上には、お皿が並べられてお菓子が果物と共に盛り合わされている真っ最中だ。
「お菓子好きで有名なレイルズ様が来てくださると聞いて、三人で張り切って準備しました。よければ後ほど感想をお聞かせください」
「はい、ありがとうございます!」
笑顔のティルカー子爵の言葉に、これ以上ないくらいの笑顔でレイが答え、部屋は笑いに包まれたのだった。




