ドールハウス作り
「よろしくお願いします!」
目を輝かせて部屋に入ってきたレイを見て、部屋にいた人達が全員笑顔で立ち上がる。
「ようこそ。ドールハウス作り愛好会へ!」
満面の笑みのゲルハルト公爵の言葉に、こちらも満面の笑みになったレイが改めて挨拶をして、ここからまずは倶楽部の会員の方々を紹介してもらった。
ゲルハルト公爵の後ろには、笑顔にウーティス卿も控えている。
今回、新しくレイが入会する事はすでに倶楽部の全員に知らされているので、ほぼ全員が自作の作品を持参して来ていて、紹介されて挨拶をする度に自慢の作品を見せてもらい、レイはその度に驚いたり感心したりと大忙しになったのだった。
一通りの挨拶が済んだあとはゲルハルト公爵とウーティス卿に左右についてもらい、のんびりと話をしながら聞いていた凹凸のある壁の作り方や、ドールハウスを作る際のさまざまな技法を教えてもらって過ごした。
元々器用なレイは、説明を聞きつつ現物を見せてもらっただけでほぼやり方を理解してしまい、実際に作りながら教えた二人だけでなく、見ていた会員の人達からもたいそう驚かれたのだった。
『まあ、レイは元々手先が器用だからな。こういった細かい作業は得意なのだろうさ』
「おや。もしやラピス殿かい?」
レイの右肩に現れたかなり大きな伝言のシルフを見て、ゲルハルト公爵が驚いたようにそう言って顔を上げる。
反対側では、ウーティス卿が驚きのあまり小分けしていた接着剤をこぼしてしまい、無言で慌てていた。
『ああ、レイが今日の会合をとても楽しみにしていたのでな。せっかくだからこっそり見に来たのだよ。こういった専門的な技術は、我も知識としては知っているが、実際に作っているのを見るのは初めてなのだが、なかなかに面白そうだな』
「私でも古竜殿に教えられる事があるとは光栄だね。どうだい? 材料は提供するから、ラピス殿も何か作ってみるかい?」
冗談めかしてそう言ったゲルハルト公爵も聞いたブルーも、双方ともにこれは社交辞令だと分かっていたのだが、その言葉を言葉通りに受け取り目を輝かせたのはレイだった。
「良いね! ねえ、せっかくだからブルーも一緒にやろうよ。あ、なんならどっちが上手く作れるか競争する?」
今、お二人に教えてもらいつつレイが作っているのは、二階建てで中央部分に吹き抜けと階段があり、小さな部屋が全部で六室もあるなかなか本格的なドールハウスだ。
これは設計図のみが用意されたもので、その仕様書を見ながら壁用の木の板を切るところから始めていて、今、外壁の塗装が終わったところだ。
これはそのまま数日かけて乾かしておく必要があるので、外壁部分の作業はここまでで、次は、床用の薄い板を切り分ける作業が待っている。
『無茶を言うな。ものをちょっと動かすのとは訳が違う。さすがにそこまでの細かい作業は、シルフ達に命じても無理だよ』
実際にはやろうと思えばブルーなら出来るのだが、そこまでここにいる人達に見せるつもりはない。
ゲルハルト公爵も苦笑いしつつ首を振っているので、ここでようやくレイは今の言葉も社交辞令なのだと気付いた。
「そっか、残念。じゃあ、作るのは僕がするからブルーはそこで見ていてね。えっと、何か気がついた事やブルーが知っている事があれば、いつでも教えてね」
ブルーの使いのシルフの隣では、ここにいる人達に姿を見せてはいないがニコスのシルフ達も笑って座っている。
そのうちの一人は、その言葉に嬉しそうに笑うとふわりと飛んできてレイの右腕の手首の辺りに立った。
『懐かしいわ』
『以前の主人にドールハウスを趣味で作っているお方がいたの』
『もう二百年は前の話だけれどね』
『いつも作業をこうやって見ていたわ』
『接着部分を動かないように押さえたり』
『風を送って接着剤を乾かすのを手伝ったりもしたわね』
レイにだけ聞こえるその言葉に、接着剤の入った小皿をウーティス卿から受け取ったレイが驚いて目を見開く。
「へえ、そのお方の作っていたやり方と、今僕が教えてもらっている作り方は違うの?」
さりげなく板を動かしながら、小さな声でそう尋ねる。
『見る限りやり方自体はほとんど変わらないわね』
『使っている道具や接着剤は』
『以前のものよりも』
『どれもかなり良さそうだけれどね』
笑ったニコスのシルフは、そう言って先ほど板を切った小さなノコギリをそっと撫でた。
「そういえば、このノコギリはミスリルの入った合金製だと伺いましたが、普通の鉄製のノコギリとそんなに切れ味が違うものですか?」
それを見たレイが、さりげなくそう言ってノコギリを撫でつつゲルハルト公爵を見る。
「では使ってみるといい。どれくらい切れ味が違うかよく分かるよ」
笑ったゲルハルト公爵がそう言って、別の場所に置かれていたノコギリを渡してくれた。
これも小さくて刃も薄いが、それは鉄製のよくある小物用のノコギリだ。
笑顔で頷いたレイがそれを受け取り、周りの人達の密かな注目を集めつつ二つのノコギリの切れ味を順番に試し始めた。
「た、確かにこれはかなり違いますね。へえ、こんなに変わるんだ」
薄い床板部分を少し切ってみたレイが、驚いたようにそう言ってミスリル合金のノコギリを見る。
確かに、切れ味が全く違う。ミスリル合金製のものは、鉄製のものと違ってほとんど力を入れなくても簡単に切れたし、切り口もとても綺麗だ。
「かなり違うだろう? 道具にお金をかける意味はあると理解してもらえたかな?」
「はい。では僕も今後の為にも良い道具を揃えたいと思います!」
苦笑いしたゲルハルト公爵の言葉に、ミスリル合金製のノコギリを手に満面の笑みで頷くレイだった。




