それぞれの仕事
「えっと、こんなもの……で、どうですか?」
ラスティやルークに相談しつつ、とりあえず来週から来月、六月末までの約ふた月分の予定を一通り書き込んだところで、レイはそう言って二人を振り返った。
会議机いっぱいに広げられた日程表には、まだ完全なものではない。
ここにはまだ記入していない職業訓練校での臨時講師の予定のように、日程の決まっていない予定も幾つかあるし、意識してお休みの日も入れてあるので、全体にかなりゆとりを持った予定が上手く組まれている。
まあまだレイの場合は、個人的な付き合いや利害関係などで嫌でも出なければならないお茶会やお食事会、夜会などがほぼ無いというのは大きい。
「うん、初めてにしてはなかなかだと思うぞ。いいんじゃあないかな。まあとりあえず今回の場合、招待状の確認なんかはあらかじめこっちがしておいたけど、これもいずれは自分で一からするんだぞ。一応、俺の手伝いは今回のみのつもりだけど、もちろん今後もラスティは手伝ってくれるから、まずはラスティと一緒にやってみるといい。もし何か分からなかったり困った事があれば遠慮なくいつでも聞いてくれていいからな」
「分かりました。でも、正直言って全然自信が無いので、出来ればもうしばらくは一緒にやってください。お願いします」
眉間に皺を寄せて口を尖らせたレイのあまりにも情けなそうなその言葉と共に、その顔を正面から見てしまったルークが思いっきり吹き出して咳き込む。
「ルーク?」
これまた更に口を尖らせてほぼ拗ねた口調のレイにそう言われて、もう一度吹き出したルークが横を向いて咳き込みつつ笑っている。
「ご、ごめん。ちょっと、待ってくれ……お前、その顔の、不意打ちは、やめて、くれって……俺の、腹筋が……もたないよ……」
笑いすぎて出た涙を拭いつつのルークの背後では、立ち上がって招待状の整理をしていたラスティが、同じくレイの顔を正面から見てしまった為に、必死になって笑いを堪えて俯いたまま口を片手で押さえてプルプルと震えていたのだった。
「ルークもラスティも、ひど〜〜い!」
若干わざとらしいレイの抗議の声にとうとうラスティも我慢出来なくなってしまい、俯いたまま思いっきり吹き出してそのまま膝から崩れ落ちる。
「やった〜〜〜ラスティを笑わせたぞ〜〜〜」
右手を上げたレイの完全に棒読みな勝利宣言に、もう一回二人揃って吹き出したところでレイも吹き出し、三人揃ってしばらくの間大爆笑になったのだった。
「はあ、笑いすぎて腹が痛いよ」
ようやく笑いが収まったところで、深呼吸をしたルークがそう言ってまた笑う。
「もう、二人とも笑いすぎです!」
「だからお前、その顔はやめろって言っているだろうが。ああそうだ! ラスティ、今すぐに洗面所から手鏡を持ってきてくれ。こいつに、自分がどんな顔をしているのか見せてやろう!」
目を輝かせたルークの指示に、もう一度吹き出しかけて咳き込んだラスティが無言で頷いて急足で部屋から駆け出していき、本当にすぐに戻ってきた。
当然、手にはやや大きめの手鏡がある。
「ほら見ろ!」
手鏡を受け取ったルークがレイの目の前に突き出すのと、レイが思いっきり吹き出すのはほぼ同時だった。
この後、ルークに急ぎで確認して欲しい書類を手にしたカウリが会議室の扉を開くまで、かなりの時間を三人揃って床に座り込んだまま、笑いすぎて出た涙を拭いながらずっと笑っていたのだった。
「ふう、これで何とかなったかな?」
「そうだな、急ぎで作ったにしてはなかなか上手くまとまっていたと思うぞ」
一方、西の離宮から戻ったマークとキムは、言っていたように午後からの資料制作担当者達との会議の為に、いくつかの資料を時間ギリギリまでかかってなんとか無事にまとめ終え、揃って安堵のため息を吐いていたのだった。
「まあ、お互い資料作りは慣れたよなあ」
「確かに。こういう資料のまとめはかなり上手くなったし早くもなった気がする」
「だな。俺もそう思うよ。じゃあとにかく飯にしよう」
顔を見合わせて苦笑いした二人は、そう言って揃って立ち上がる。
二人が使っていた大きな作業用の机の端には、西の離宮から持ってきた書類やメモの束が入った木箱が、まだ蓋も開けられずにそのまま置かれている。
無言で揃ってしばらくその木箱を見ていた二人だったが、もう一回顔を見合わせてから揃って首を振った。
「あの資料を今ここで開けたら、間違いなく俺達二人とも食いっぱぐれる」
「いやいや。それどころか、あの資料を今ここで開けたら打ち合わせ会議そのものをすっぽかしそうだから、今は触っちゃあ駄目だぞ」
「だな。あれを開けるのは明日にしよう」
「うん、それがいいと思う」
真顔で頷き合った二人は、言葉通りに木箱を見ないようにしてそのまま部屋を出て行ったのだった。




