予定の調整?
「はい! これも全部参加希望です!」
ずらりと並ぶ各倶楽部からの招待状を見て満面の笑みになったレイの言葉に、ルークとラスティが揃って吹き出す。
「予想通りの答えだな。じゃあ、これは全部参加っと。あと、こっちの夜会や昼食会、それから午後のお茶会の招待状はどうだ?」
ルークがそう言って、山積みになった封書をこっちへ寄越す。
「えっと……」
一番上の封書をとりあえず開けてみたが、差出人の名前に全く心当たりが無く、そもそもこれが誰からの招待状なのかすら分からない。
「この辺りは、まあ無理に参加する必要はないよ。逆に、この中で参加したいものはあるかい?」
「ええ、そんな事言われても……」
とりあえず、今開いた招待状を置いて別のものを開けてみる。
名前は知っているが、夜会でもほぼ挨拶程度したしていないご婦人からの午後のお茶会の招待状。
全く名前に心当たりの無い方からの、昼食会の招待状、等々。
しばし無言で招待状を開け続けていたが、半分ほど終わったところで大きなため息と共にテーブルに突っ伏した。
「そもそも、誰からの招待状なのかすら分かりません!」
泣きそうな声で叫んだレイを見て、またルークが吹き出す。
「まあそうなるだろうな。言ったようにこの辺りは無理に参加する必要はないものだよ。じゃあラスティ、こっちは不参加って事で断りの手紙をよろしく」
「かしこまりました。レイルズ様、お疲れなのは分かりますが、一応一通り確認をお願いします」
「はあい、確認します」
もう一度ため息と共にそう言って顔を上げたレイは、まだまだ積み上がっている招待状を無言で開き始めた。
「あれ? これって……」
積み上がっていた招待状がほぼ無くなった頃、レイが驚いたように手を止めて一通の招待状を覗き込んだ。
「ん? どうかしたか?」
「えっと、これだけちょっと違いますね」
やや小さめの封筒をルークに見せてから渡す。
「一通り見たはずだけど、何かあったかな?」
もちろん、ルークはここに持ってきている招待状の数々を先に一通りラスティと一緒に確認している。
その小さな封筒は見覚えが無かったので密かに首を傾げつつ封筒を受け取り開く。
「ああ、こっちに入っていたのか。確かにこれは違うな」
どこからの招待状なのかが分かってそう言ったルークは、苦笑いして招待状をラスティに渡す。
「ああ、こっちに入っていましたか。これは失礼しました。いかがなさいますか? これは参加を希望なさるのではないかと思ったので別にしてあったのです」
苦笑いするラスティの言葉に、レイは笑顔で大きく頷く。
これは、ルークが竜騎士になった時に設立した技術支援学校の校長先生からのもので、レイルズに是非とも臨時の講師として来てほしいと言う内容だ。
バルテン子爵の作った人形は相変わらず貴族の少女達に大人気で、人形用の様々な道具の需要も高まっている。
以前、レイが作った大小のトランクを見た技術支援学校の先生達がそれはもう大感激して、是非とも一度生徒達に作り方の講義をしてほしいと希望したとの事で、今回の依頼となったのだ。
「ええ、あれはそれほど難しくはないと思うけどなあ」
自分でも出来たのだから、そう思いながらルークを見ると、ルークは笑って招待状をそっと撫でた。
「どちらかと言うと、彼らが作った鞄や小物を見て意見を聞きたいってところらしいよ。実際にあの大きさの物を作れる人は、さすがに限られるからね」
「ああ、そういう事だったら喜んで行かせていただきます」
嬉しそうなレイの言葉に、笑ったルークが先ほどの封書をラスティに渡した。
「じゃあ、これも参加でよろしく」
「かしこまりました、日程の調整を致します」
笑顔で受け取ったラスティは、別のところに置いてあった大きな紙を持ってきてレイの前に広げた。
「あ、日程表だね」
その大きな紙には枠線が書かれていて、今月と来月の日付とマス目が並んでいて予定を書き込めるようになっている。
「まずはこれに、参加を希望なさるものを一通り書いていきます。ああ、こっちに書いてあるのは参加が必須のものですから、これとは被らないようにお願いしますね」
笑ったラスティの言葉にマス目を見てみると、あちこちに赤字で夜会や昼食会、それから会議などの予定が書き込まれている。
「そっか。これは竜騎士として参加しなければいけない予定なんだね」
「はい、ではまずは倶楽部の予定を入れていきましょう」
先程の招待状を取り出したラスティの言葉に、レイも笑顔で頷く。
一通りの予定を書き込み、次に渡されたのは何かの資料らしき紙の束だ。
受け取って広げたレイが笑顔になる。
そこには、精霊魔法訓練所の授業の予定が各科目ごとに書き込まれていた。
もちろん、レイの場合はこれら全てに参加するのではなく、個別指導なのでここから授業の予定を擦り合わせて行くのだ。
嬉々として、空いている日に授業の予定を入れようとしたレイを見て、苦笑いしたルークが止める。
「ちょっと待った」
「え? どうしたんですか?」
驚くレイに、予定表を見たルークは一つため息を吐いて首を振った。
「レイルズ、予定を入れすぎだよ。もっと余裕を持って入れておかないと、何かあった時に身動きが取れないぞ」
「ええ、駄目ですか?」
レイルズとしては、これでも余裕を持って入れているつもりだが、ルークは駄目だと言う。
「たとえばここ。今、授業の予定を入れたけど、この日は竜騎士として参加しなければならない夜会の予定が入っているけど、これの開始時間を見てみろよ」
「あ……確かに」
この夜会では、始まる前に交流会があると書かれているので、夕方にはお城へ行っておかなければならない。
通常ならば、夕方頃には本部に帰れるので大丈夫だと思って授業の予定を入れたが、確かに少しでも帰りが遅くなればお城へ行く時間に間に合わない。最悪、交流会には不参加となる上に、空きっ腹を抱えてそのまま夜会に参加する事になるだろう。
「同じ日に、二つ以上の予定を入れる時には、時間をしっかり確認するように」
「分かりました。じゃあこの日の授業は無しっと」
言われた通りに、ここからはルークやラスティに相談しつつまずは授業の予定を、それが終わったところでルークに見てもらって幾つかの夜会や昼食会、お茶会の予定を組んで行ったのだった。




