緊張の夕食とその後の事
「ええ? どうしてマークとキムがここにいるの?」
真っ白ないつもの竜騎士の制服に着替えたレイがラスティの案内で別室に入ると、何故かそこは誰もいない広い応接室だった。
しかし、そこに置かれた大きなソファーには笑顔のマークとキムが座っていて、思わずそう叫ぶ。
「おかえり」
「おかえり〜〜」
「は〜い、ただいま戻りました!」
笑顔の二人に手を振りながらそう言われて、レイも笑顔でそう答えてそのまま駆け寄りマークに隣に座る。
ここはそれほど改まった部屋ではないが応接室になっていて、部屋の中央には低いテーブルを挟んで座り心地の良さそうな大きなソファーが並んでいる。
三人掛けのソファーにマークとキムが並んで座っていて、その横に大柄なレイが座っても、ソファーは全く狭く感じないし、確かになかなかの座り心地だ。
笑顔で頷き合った三人は、交代で、頭上で手を叩き合った。
「だって、この三日間は、陛下を含む竜騎士隊の皆様が全員参加の、精霊魔法の合成に関する研究の為のお籠もり期間なんだからさ。その専任研究者である俺達がいないと始まらないだろう?」
にんまりと笑ったキムの言葉に、レイは満面の笑みで何度も頷く。
「ちなみに、俺達は、レイルズが出発した初日の夕方頃に一度参加させていただいて、その夜はここに泊まって遅くまで書斎の本を満喫させていただいたんだ」
「二日目は、精霊魔法訓練所で、教授達を相手にした講義の実習があったから早朝に一旦兵舎へ戻らせてもらって、今日は朝から、二人して昨日の講義実習の復習と教授達から指摘を受けた部分の資料のやり直しなんかをやっていて、さっき、それがようやく終わってこっちへ来たんだ」
「もう来られないかと思ってちょっと焦ったよな。でもせっかくだから、こっそり来てレイルズを驚かせてやろうと思ってさ」
「そうそう。こっそり入るのが案外楽しかったよな」
「そうそう。持ってきた資料は一旦ラプトルごと預けて、来てくれた執事さん達と一緒に中へ入ったんだよ」
少し屈んで頭を両手で覆った二人の楽しそうな報告に、レイも思わず吹き出す。
「あはは、そうだったんだね。全然気が付かなかったよ。でも、会えて嬉しい!」
笑ったレイがそう言ってマークに横から抱きつき、顔を見合わせて揃って吹き出したのだった。
「えっと、でもこのあと夕食会だけど、それにはマークとキムも参加するんだよね?」
「まあ、確かにまだ夕食は食べていないけど……」
「そうだな。ここの夕食は美味しいから有り難いよ」
「……あれ?」
「ええ、ちょっと待って!」
苦笑いなレイの言葉に笑顔で頷いたマークとキムが、不意に我に返って慌てたようにそう言って顔を見合わせる。
「夕方、連絡をいただいた際に、ロベリオ様から夕食はこっちで食べるから食べて来ないように言われていたんだけど……」
「その夕食会って、もしかして……陛下もご一緒だったりする……?」
「って聞いてるよ」
困ったように笑ったレイがそう言いながら頷くのと、両手で顔を覆ったマークとキムが情けない悲鳴を上げるのはほぼ同時だった。
「ああ、来ていたんだね」
「ご苦労様〜〜」
その時、笑ったロベリオとユージンの声が聞こえて、顔を上げたマークとキムが慌てたように立ち上がる。
何しろその背後には、満面の笑みな陛下とアルス皇子をはじめ竜騎士達全員とティミーが笑顔でこっちを見ていたのだ。
「では、全員揃ったようなので移動しようか」
笑ったアルス皇子の言葉に陛下も笑顔で頷き、そのまま部屋を出て行く。
それを見て笑って立ち上がったレイが直立したまま固まっているマークとキムの背中を押して、その後に続いたのだった。
通された部屋には、カトラリーの並んだ角のあるテーブルが置かれた広い部屋で、もうそれを見た瞬間、マークとキムは声無き悲鳴を上げて、揃ってレイの腕に縋り付いたのだった。
「だから大丈夫だって。ちゃんと教えてあげるからね」
「そうそう。いつも言ってるだろうが。こういうのはもう慣れなんだから」
笑ったルークにまでそう言って背中を叩かれ、もう半泣きになっているマークとキムだった。
陛下とアルス皇子が同席する夕食会とはいってもそれ程改まった席ではなく、末席に座ったマークとキムは、時折レイが寄越してくれるシルフ達に助けられつつ、何とか失礼もなく食事を終える事が出来たのだった。
彼らの緊張具合を見た陛下やアルス皇子は、食事の間は特に話しかけるような事はせず、笑顔でワインを片手に竜騎士達と話をしていたのだった。
しかし、食事を終えて書斎へ移動したところで改めて陛下から今の研究の進捗度合いを聞かれ、ちょうど持ってきていた作り直した資料を片手に、ここから急遽、合成魔法に関する現状報告を兼ねた講義が開かれる事になったのだった。
さすがに合成魔法に関する話になった途端にあれ程緊張していたのはどこへやら、資料を手にした二人が嬉々として先を争うようにして話し始め、密かに陛下やアルス皇子を喜ばせていたのだった。




