一休み?
一通りの農作業を見学した後、陛下の希望で、急遽ギードが作った麦刈りの為の道具を道具置き場にしている小屋から運び出してきて見せて触ってももらった。
その際に、上の草原からトリケラトプスのチョコを連れてきて、ギードとレイの二人がかりで装着もして見せて陛下を大いに喜ばせた。
「おお、成る程。こうなっておるのか」
実際に道具を装着したトリケラトプスのチョコが歩くのを見て感心する陛下の様子に、笑顔のレイとギードはちょっと得意げな顔になっていた。
上の草原で寛いでいたのに、突然連れてこられて重い道具をいきなり取り付けられたトリケラトプスのチョコは、どうして何もないこんなところでこれを付けるの? と言わんばかりに不思議そうにしつつも、ギードに撫でられて満更でも無い様子で喉を鳴らしていたのだった。
午前中に予定していた見学が全て終わったところで、石の家に戻って少し早めの昼食となった。
当然、昼食は朝食と同じ部屋にそれなりに改まった席が用意されていて、新しい服に着替えてきたタキス達はもう諦めの目になり、大人しく座って用意された料理を黙っていただいたのだった。
そんなタキス達の様子を見た陛下は、食事の間は緊張しているタキス達に無理に話しかける事はせず、素知らぬ顔でシヴァ将軍やシルカー伯爵、ルークやヴィゴ、時にはレイも交えて笑顔で話をしていたのだった。
「普段は、我らと同じように汚れるのも気にせず騎竜達や家畜達の世話をしてくださったり、畑での農作業までお手伝いくださっているので忘れそうになるが、陛下とああして笑顔でお話をされているのを見ると、やはりシヴァ将軍は大貴族のご当主なのだと思い知らされるな」
食事の後、少し休憩していただく為に部屋に戻られた陛下を見送った後、一旦居間に戻ってようやく一息ついたところでギードがしみじみとそう呟いて大きなため息を吐いた。
「確かにそうだな。知識の精霊達の話によると、竜の保養所があるロディナの地は、オルダムでも特別な、神聖な場所として扱われているらしいからな。なのでその地を拝領して代々統治して、実際に竜達のお世話をしているシヴァ将軍は、社交界への顔出しこそしていないが、当然大貴族扱いになるわけだ」
苦笑いしたニコスの説明に、タキスとギードが納得したように頷く。
「今更ですが、シヴァ将軍に子竜達の飼育に関して直接教えを請えたのは、本当に特別な事だったんですねえ」
何度も頷きつつしみじみとそう呟くタキスの言葉に、紅茶を用意していたニコスも苦笑いしつつ何度も頷いていたのだった。
自分達に世話は必要無いと言ってあるので、この部屋には基本的に執事達は入ってこない。
「ニコス、僕にも紅茶をくださ〜い」
その時、陛下と一緒に部屋に行っていたレイが居間に入ってきて、テーブルの上に置かれた紅茶を見て笑顔でそう言いながらいつもの席に座った。
「ああ、もちろん。だけど、レイはこっちにいていいのか? 陛下のお側にいなくてもいいのか?」
驚いたように顔を上げたニコスの言葉に、レイは苦笑いしつつ頷く。
「ルークが、陛下のお相手は自分達がするから、今はタキス達と一緒にいていいって言ってくれたの」
「そうか。俺達もレイと一緒がいいよ」
笑ってそう言ったニコスが、完璧な所作で紅茶を人数分用意してそれぞれの席に置いてくれる。
「いかんなあ。つい、空気に流されて以前のように振る舞ってしまう。ここの俺はただの自由人なのになあ」
自分の椅子に座ったところで、我に返ったニコスが困ったようにそう言って笑いながら自分の紅茶のカップをそっと撫でた。
「確かに、今の所作なんてオルダムにいる執事と変わらないくらいに完璧だったね。すごく格好良いと思うけど、やっぱりいつものニコスが良いな」
紅茶を一口飲んだレイが、困ったように笑いつつそう言ってニコスを見る。
「俺もこっちがいいよ。でも、幼い頃から徹底的に叩き込まれた所作や習慣ってのは、やっぱり忘れたつもりでも出るもんなんだよ。今回の帰宅で、俺はそれを思い知らされているよ」
「まあ、自由人になってからの時間の方が、まだまだ短いわけだからな」
「そうだな。とは言えこんなのは今だけだよ。陛下がお戻りになれば、ここもいつも通りに戻るさ」
「陛下がお戻りになったら、当分の間マナー講習会はお休みにしてくれ。しばらくそういうものは見たくも聞きたくも無いわい」
大きなため息と共にしみじみとそう訴えるギードの言葉にレイとニコスが堪えきれずに吹き出し、遅れてタキスも吹き出す。
それから顔を見合わせてもう一度揃って吹き出し、部屋は暖かな笑いに包まれたのだった。




