上の草原と元気な子竜達
「では、どうぞこちらへ」
最後に来た陛下も朝食を食べ終え、少しゆっくりしたところでタキス達の先導で陛下をまずは石の家にある厩舎へご案内した。もちろん、ルークやヴィゴ、シヴァ将軍やシルカー伯爵も一緒だ。
「それで、噂の金花竜はどこにいるのだ?」
興味津々な陛下の言葉に、苦笑いしたシヴァ将軍が首を振る。
「かなり大きくはなりましたが、子竜達はまだまだ小さく暴れん坊な為に、体の大きなトリケラトプスと常時一緒に居させるのはかなりの危険を伴います。トリケラトプスに悪気はなくとも、この大きな体で子竜に怪我を負わせる可能性がありますので。その為、今も母親達と共に、この奥にある専用の産室を使っております」
「おお、確かにトリケラトプスと子竜では大きさが違いすぎるな。それで、その産室とやらは見学出来るのか?」
うんうんと頷く陛下の言葉に、見ていたレイも笑ってしまった。
「それは後ほど。まず、ここにいる騎竜達と向こうにある第二厩舎にいる騎竜達、それから横の厩舎にいる家畜達を上の草原へ連れて行き放してやります。この上にある草原は、日当たりが良いので牧草が大変よく育ちます。また、昨夜は暗くて全体をご覧いただけなかったと思いますが、上の草原はかなり広いので騎竜達を走らせるにも良い場所となっております」
笑ったシヴァ将軍の説明を、陛下も笑顔で聞いている。
第二厩舎とは、ギードの家の側の林の一部を切り開いて作った大きな厩舎だ。
ここには、ロディナから子竜達の人慣れ訓練の為に来てくれた人達が乗ってきた、騎竜であるラプトルやトリケラトプスに入ってもらっている。
もちろん、ここも冬の間は柱を残してそれ以外は全て解体出来るように作られていて、ギードの説明を陛下は目を輝かせて聞いていたのだった。
「では、子竜達を陛下に見ていただかなくてはな」
笑ったギードの言葉にシヴァ将軍が進み出て、石の家の奥に隠された廊下や、出入り口となっている移動式の棚を実際に動かしながら説明していく。
そして今は使っていない家畜達の為の大きな広場と、その奥に用意された産室を見た陛下は関心しきりだった。
一礼したシヴァ将軍がそっと産室の扉を開くと、待ってましたとばかりに二匹の子竜達が飛び出してくる。
しかし、先頭にいた初めて見る陛下に気づいてその足がぴたりと止まる。
シヴァ将軍から子竜と会った際の詳しい説明を聞いていた陛下は、一切動く事なくじっとしたまま目を輝かせて自分を見つめる二匹の子竜を見つめている。
少し体の大きな子竜は、ラプトルにはよくいる薄緑色の綺麗な鱗をしている。
そして、その隣にいるやや小柄なもう一匹は、すでに小さいながらも見事な金色の鱗を煌めかせている。
「ピキュウ! クルクルウキュウ!」
「ウキャウ! キキキキキャウ!」
奇妙な鳴き声をあげてその場でピョンピョンと飛び跳ねた二匹は、そのまま陛下の後ろにいたルークとヴィゴのところへも駆け寄り、同じようにその前で止まって奇妙な声で鳴きながらピョンピョンと飛び跳ねた。
初対面の人達を確認しているかのようなその様子に、話には聞いていたものの陛下もルーク達も驚きを隠せないでいた。
それが終わったところで二匹は走ってベラとポリーのところへ駆け戻り、まるで報告をしているかのようにこれまた奇妙な声で鳴きながら飛び跳ねていた。
一通りの報告が終わったところで、また産室から駆け出してくる。
「シャーリー! ヘミングも久し振りだね」
初対面の人達の確認が済むまで待っていたレイが、ここで笑顔になってそう言いながら進み出ると、当然のように二匹が駆け寄ってきてレイの足や、差し出された腕に擦り寄ってきて甘噛みを始めた。
「凄いや、もうちゃんと力加減が出来るんだね。はいはい、じゃあ上へ行こうか」
笑ったレイが、嬉しそうに小さな子竜達を交互に撫でてやっているのを、まだ子竜達に触れていない陛下が羨ましそうに眺めていたのだった。
広場から上の草原へと上がる螺旋階段の説明も陛下にしてから、子竜達とベラとポリーを連れて上の草原へ上がる。
この間に、ギードの家から出てきたアンフィーやロディナの人達が、家畜や騎竜達を上の草原へ連れて上がってくれていたので、シャーリーとヘミングは嬉しそうな鳴き声を上げると父親であるヤンとオットーのところへ駆けて行った。
「体はかなり小さいが、元気だなあ」
ヤンとオットーと一緒に草原を走り回る子竜達を見て、陛下は感心するどころか呆れ気味だ。
「あれでも、かなり大人しくなったのですよ。生まれて一年目の頃はそれはもう、つむじ風のようでしたからね」
「毎日、大はしゃぎで走り回る子竜達と追いかけっこをして、全員疲れ切って倒れておったな」
ため息を吐いたシヴァ将軍の説明に、うんうんと頷いたギードもそう言って大笑いしている。
「どこの世界でも、子供は元気が一番だな。ん? それは何だ?」
満面の笑みのレイが取り出したのは、お手製の、布を裂いて紐と一緒にくくっただけのラプトルじゃらしのおもちゃだ。
レイが頭上で軽くそれを振ると、すぐに気がついた子竜達が目を輝かせて駆け戻ってくる。
「陛下、これを思いっきり放り投げてあげてください。後はシルフ達がやってくれます」
笑ったレイが、そう言ってお手製のおもちゃを陛下に手渡す。
奥殿の猫達が似たようなおもちゃで遊んでいるのを思い出した陛下が、満面の笑みになってそれを受け取る。
「ではいくぞ。そ〜れ!」
右手に持ったおもちゃを、まずは子竜達の目の前で数度振ってから、わざとゆっくり振りかぶって力一杯遠くへ放り投げる。
即座にそれを追いかけて走り出す子竜達。
しかし、まさに目の前に落ちてきたそれを咥えようと首を伸ばした瞬間、紐と布の束は弾かれたように跳ねて目の前から消えた。シルフ達の仕業だ。
「グッキュウ!」
怒りの声を上げたシャーリーの目の前に、放物線を描いて上に上がっていたおもちゃがもう一度落ちてくる。
今度こそとばかりに口を開けて噛みつきにいったが、直前で今度は走り込んできた金花竜のヘミングに横から取られてしまった。
「ギッギイ!」
悔しそうな鳴き声をあげたシャーリーが、おもちゃを咥えたヘミングを追いかける。
そこへ、笑ったレイが駆け込んできて、ヘミングの口からおもちゃを受け取る。
「ほら!」
そのまま走りながら頭上に放り投げると、心得ていたシルフ達がおもちゃをポーンと高くさらに跳ね上げる。
甲高い鳴き声をあげた子竜達が落ちてきたおもちゃに飛びつき、左右から同時に咥えて引っ張る。
布の裂ける大きな音がして、噛みついていたシャーリーが勢い余って転ぶ。
しかし、即座にノーム達がそれを受け止めて押し返してくれたので、怪我する事もなく体勢を立て直して千切れた布を放り出したシャーリーは、おもちゃを咥えたまま走って逃げていったヘミングを追いかけ始める。
苦笑いしたレイが下がって、その後はもう、一同は大喜びで草原中を走り回る子竜達を笑顔で眺めていたのだった。




