朝食での一幕
「ああ、朝からまたしても……」
着替えを終えたニコスとギードと共に執事の案内で通された部屋を見て、ため息を吐いたタキスが顔を覆って小さな声でそう呟く。
部屋には昨夜と同じ大きな四角いテーブルが置かれていて、綺麗に畳んだクロスとカトラリーだけがそれぞれの席に揃えて置かれていて、壁際には何人もの執事達が当然のように控えている。
しかし、それを見たニコスは小さく笑ってタキスの背中を叩いた。
「大丈夫だよ。これは休日の朝食の仕様だ。ほら、いいから座って」
平然とそう言い、執事の示した椅子に座るニコスを見てタキスとギードは戸惑うように周りを見回した。
この部屋に来たのは彼らが最初だったようで、まだ陛下を含めて誰も来ていない。
当然、陛下がお越しになるまで立って待つつもりだったタキスとギードは、平然と座ったニコスの両隣に戸惑いつつ座る。
「どういう事だニコス。陛下が起こしになっておらぬのに、我らが勝手に座ってもいいのか?」
小さな声で尋ねたギードを見たニコスは、特にそれには何も答えず、笑顔で背後の執事に目配せをした。
すぐに三人分の朝食が運ばれてきて、それぞれの目の前に置かれる。
三人の前には焼きたてのパンが盛り付けられたカゴも置かれ、即座に執事がお皿に一つずつ取り分けて先ほどのお皿の横に置いた。
食べやすいように工夫されて綺麗に盛り付けられたそれを見て思わず笑顔になった三人だったが、我に返ったタキスとギードが、また慌てたように周囲を見回す。
「おい、どうして我らのところにだけ先に用意されるのだ。陛下を待たなくて良いのか?」
「そうですよ。こんな勝手はいけません」
慌てる二人を見たニコスは、笑ってカトラリーを手にした。
「大丈夫だよ。これは休日の朝食形式なんだ。だから、起きてきた人から先に食べていいんだよ」
驚きに目を見開く二人を見て、ニコスが小さく吹き出す。
「確かにこれは教えた覚えがないな。要するに、休日だからいつ起きるかは個人の自由なわけで、朝食の時間も特に決まっていないんだ。まあ今朝の場合は、朝練に全員参加しておられたからもう起きているけれどな。それで、そろそろ着替えを終えてお越しになるだろうが、今のように先に来た者はあとの人達を待たずに食べていいんだよ。ほら、いいからお前らも食べるといい。ああ、ありがとうございます」
笑ったニコスがお茶を用意してくれた執事に笑顔で礼を言い、両手を握り食前の祈りを捧げる。
それを見て、タキス達もそれに倣ってまずは食前の祈りを捧げた。
祈りを終えたニコスはカトラリーを手にすると、一口で食べられるように小さく切り分けられた燻製肉を平然と食べはじめた。
無言でニコス越しに顔を見合わせたタキスとギードだったが、苦笑いして小さく頷きそれぞれ用意されたパンを千切ったのだった。
「ああ、朝食は休日仕様の席なんだね。良かった」
半分ほど食べ終えたところで、レイの声が聞こえてタキス達が食べる手を止めて顔を上げる。
「レイ、お先にいただいていますよ」
「はあい、これは休日の朝食の席だから、先に来た人はあとの人を待たなくていいんだよ。気にせず食べてね」
笑ってタキスの隣に座ったレイの言葉に、安堵のため息を吐いたタキスが頷く。
「やっぱりそうなんですね。ニコスから、先に食べてもいいと言われてはいたんですが、本当に大丈夫なのかちょっと心配だったんです」
「おいおい、俺の言う事が信用出来なかったのか?」
泣くふりをしながらのニコスの言葉に、レイが堪えきれずに吹き出す。
「僕も、確かにこれを初めて聞いた時にはちょっと驚いた覚えがあるよ。ああ、ありがとう」
レイの前に置かれたのは、彼らよりも少し大きなお皿で、盛り付けられた燻製肉の量が遥かに多い。
食前の祈りを捧げたレイも、分厚い燻製肉を器用に切り分けて食べはじめたのだった。
結局、レイのすぐ後にルークとヴィゴが来て、それから更にしばらくしてしてからシヴァ将軍とシルカー伯爵と共に陛下が部屋に来たのは、タキス達はもう食事を終えたレイと一緒に食後のお茶をいただいているところだった。
「ああ、構わんから座りなさい」
慌てて立ち上がったタキス達に、笑顔の陛下がそう言って手で座るように促す。
戸惑いつつも一礼してから座ったタキス達は、遠慮がちに用意されたお茶を手にしたのだった。
『おやおや、食事一つにしても、皇王が一緒となるとまあ色々と大変なのだな』
『まあそうだな。だがオルサムは、城にいる時よりも遥かに生き生きとしておるな。どうやらここでの休暇を満喫しておるようだぞ』
窓辺に座ったブルーの使いのシルフの面白がるような言葉に、こちらも面白がるようにルビーの使いのシルフがそう言い、他の竜達の使いのシルフ達やニコスのシルフ達も揃って苦笑いしつつ頷いていたのだった。




