陛下との激闘!
「ええ、本当に僕が陛下のお相手をしてもよろしいんですか? ヴィゴじゃなくて?」
振り返ったレイの戸惑うような言葉に、当の陛下がこれ以上ないくらいの笑顔で頷く。
確かにレイの言うとおりで、本来であれば陛下の訓練での相手は、王家の正式な剣術指南役でもあるヴィゴの役割だ。
「アルスから、叙任式直後の朝練での健闘ぶりを聞いてから、一度其方と手合わせしてみたいと思っていたのだよ。どうだ。受けてくれるか? もちろん、遠慮は無用だ。私を叩きのめすつもりで来い!」
笑顔でそう言った陛下が、レイに向き直って手にしていた木剣を構える。
「は、はい! では、未熟ながら全力でお相手を務めさせていただきます!」
目を輝かせたレイがそう言い、陛下の正面に立って木剣を正眼の位置で構える。
「よろしくお願いします!」
「よし、来い!」
レイの声と、嬉しそうな陛下の声が重なる。
笑顔で進み出たヴィゴが向き合う二人の横に立ち、ゆっくりと右手を上げる。
「はじめ!」
ヴィゴの大声の直後に、正面から交差した木剣が甲高い音を立てる。
「うわっ! 重い!」
咄嗟に踏ん張って後ろに下がるのを必死になって堪えたレイが、木剣を構えたまま思わずそう叫んだ。
交差した瞬間、腕に響いた衝撃はヴィゴと同等。もうそれだけで、陛下がとんでもなく強い事が分かる。
しかし咄嗟に必死になって踏ん張ったとはいえ、これだけの衝撃でも木剣を弾き飛ばされなかった自分に、レイは内心で驚いてもいた。
「どうした? もう終わりか?」
重なる木剣越しに、にんまりと笑った陛下が煽るかのようにそう言って目を細める。
「まさか! では遠慮なくいかせていただきます!」
しかし、内心での動揺と驚きを気合いでグッと飲み込んだレイは、自分を鼓舞する意味も込めて大きな声でそう言い、文字通り全身で重なる木剣を押し返した。
「それでいい!」
これまた嬉しそうな声でそう叫んだ陛下が半歩下がって、レイの押し込みを簡単に受け流して逆に剣を押し返してきた。勢いのある上からの押し込みに、レイが咄嗟に片膝をついて踏ん張る。
「負けない!」
こちらも大声でそう叫んだレイが、そのまま下から木剣を大きく振り上げる。
しかしこれも即座に受け流した陛下が、そのまま上段から大きく振りかぶって木剣を叩きつける。
「予想通り!」
満面の笑みでそう叫んだレイが叩きつけられた木剣を頭上で構えて受け、そのまま立ち上がる勢いで大きく弾き返す。
「おっと」
驚いた陛下が体勢を崩したが、即座に背後に飛んで下る。
しかし、間髪入れず飛び出したレイが、正面から突きに行く。
「やるな!」
満面の笑みになった陛下がそう言った直後、突きに来た木剣を見事に絡め取った。
これは以前カウリがやったのと同じ、剣の絡め取りだ。
「ええ!」
驚くレイの叫び声と、レイが手にしていた木剣が絡め取られて弾き飛ばされるのはほぼ同時だった。
「参りました!」
武器を失って即座に飛んで下がったレイが、両手を上げて降参の宣言をする。
見学者達から、大きなどよめきが上がった。
「なかなかに見事な戦いぶりだったぞ。まあ、私が勝てたのは経験値の差だな」
笑った陛下がそう言い、落ちてきたレイの木剣を拾ってレイに返す。
「どうだ? もう一手お相手願えるかな?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
必死に息を整えて目を輝かせて木剣を身構えるレイを見て、しかし陛下は構える事をせずに何故か考え込む。
「どうかなさいましたか?」
まさか、今の手合わせでどこか痛めたりしたのだろうか?
慌てたレイがそう尋ねると、陛下は何故かにんまりと笑って武器が並ぶ突き当たり奥の壁を見て、そちらへ向かってゆっくりと歩いていった。
「せっかくなので違う武器でやろう。何が良いかな? 棒かトンファー辺りが無難だが、今のは両手剣だったから、片手剣と盾もありだな。どれが良いと思う?」
振り返った陛下が、すぐ後ろをついて来ていたヴィゴに向かって笑顔でそう尋ねる。
「そうですな。レイルズが日常的に訓練で扱っておる武器ならば、棒か片手剣と盾辺りですな。ああ、トンファーも、なかなか上手く使いこなしますぞ」
こちらも笑顔になったヴィゴが即座にそう答える。
「ならばこれにしよう。良いかな?」
嬉しそうにそう言った陛下が、呆然と木剣を手にしているレイを振り返って笑顔でそう尋ねる。
その手にあるのは、ひと組みのトンファーだ。
「は、はい! ではトンファーで!」
慌てたレイがそう答えて、武器が並ぶ壁際まですごい勢いで走って行き、笑顔のヴィゴが選んでくれたトンファーを受け取った。
「よろしくお願いします!」
先ほどの位置まで走って戻ったレイが、大声でそう言ってからトンファーを構えた。
「うむ、よろしく頼む」
ゆっくりと歩いて元の位置に戻った陛下が、嬉しそうにそう言ってトンファーを構えた。
進み出たヴィゴが、二人の横に立ちゆっくりと右ってを上げる。
「はじめ!」
ヴィゴの大声を合図に、甲高い音を立てて交差するトンファー。
「うおお!」
大声を上げたレイが一気に前へ出て両手のトンファーを力一杯叩きつける。
「それでいい!」
嬉しそうな陛下の声の直後、激しい打ち合いになった。
互いに一歩も引かずに激しく打ち合う二人は、しかしとても良い笑顔だ。
「なかなかやるな」
「陛下も!」
嬉しそうにそう言われて、レイも笑顔でそう返す。
もう、最初の頃のような遠慮する気持ちは全くなく、ただただこうして対等に打ち合える事自体が楽しい。
陛下も同じ気持ちなのが手に取るように分かって、更に嬉しくなる。
「だが、まだまだ若いものにそう簡単に負けるわけにはいかんぞ!」
満面の笑みでそう言った陛下は、いきなり体を少し斜めにして思い切り体当たりしてきた。
そのまましたから力一杯打ち込んでくる。
咄嗟に半歩下がって打ち込みを受け流したレイも、逆に体を少しかがめて体当たりにいく。
ここから文字通り、全身を使った打ち合いと体当たりが続いた。
しかし、ここでも陛下の経験値がものを言った。
咄嗟に下がろうとしたレイの足に、トンファーを打ち込んだ陛下が死角となる反対側から足払いをかけたのだ。
「うええ!」
予想外の足払いに完全に引っかかったレイが、情けない悲鳴を上げて仰向けに倒れ、咄嗟に受け身をとって転がる。
しかし、起き上がった時には、目の前に陛下のトンファーが突き出されていた。
またしても、見学者達から大きなどよめきが上がる。
「参りました」
どこをとっても完敗だ。
トンファーを置いて両手を上げたレイだったが、見学者達はその健闘を讃えて、揃って大きな拍手と歓声を贈ったのだった。




