荷運びとそれぞれの着替え?
「よし、では気をつけて下ろしてくれ」
「はい、大丈夫です。シルフ、この木箱を地面に下ろしてくれるか。慎重にな」
ルビーの背の上に立つ陛下の言葉にルークがそう言ってシルフ達に指示を出すと、頷いたシルフ達が一斉の木箱の周りに集まり、ゆっくりと持ち上げて地面に下ろしていく。
シルフ達が見えない執事達からすれば、勝手に木箱がふわりと浮き上がり、固定する紐もないままに降ろされていくのだから、なんとも不思議な光景だっただろう。
下にいたヴィゴが、降ろされた木箱を確認してから背後を振り返る。
待ち構えていた執事達が、用意していた台車に手早く木箱を積み上げて慎重に坂道を下っていく。
順番に、ルークの竜であるパティとヴィゴの竜であるシリルの荷物も下ろし、最後はレイがブルーの背中に上がって、ベルトに固定されていた荷物を順番に下ろしていった。
「えっと、ブルーや他の竜達は、夜はどうするの? ここで休むの? それとも森の泉へ行くのかな?」
荷下ろしが全て終わり、鞍を固定していたベルトや手綱を取り外しながらレイがブルーにそう尋ねる。
「ああ、今夜は、皆を連れて森の泉へ戻るよ。ルビーとガーネットは火の属性なので、泉の中ではなく手前の草原で休んでもらう事になるがな。オパールは水の属性なので、我と共に泉の中で休んでもらうつもりだ。あの泉とその周辺の空間はとても清浄なので、湧き水を飲み、そこで休むだけでも竜達の体内の浄化が相当進むだろう。明日の朝には、皆を連れてここに戻ってくるよ。墓参りへ行くのであろう?」
笑うかのように目を細めたブルーの言葉に、ルビーをはじめとする他の竜達も嬉しそうに目を細めて喉を鳴らした。
「そうなんだね。うん、じゃあまた明日ね」
笑ってそう言ったレイは、頬擦りしてくれたブルーの大きな鼻先をそっと撫でてからその大きな顔に両手を広げて抱きつき額にキスを贈ったのだった。
ブルーと共に森へと飛んでいく竜達を見送ったレイ達は、全員揃って坂道を下って石の家へと向かった。
「おお、これが噂に聞くドワーフが作ったという石の家か。これは見事だ」
扉を開けて中に入ったところで、陛下が感激したように天井を見上げてそう呟く。
「ふむ、天井が丸い……ああ、そうか。切った木や削った石を使って組み立てる家ならば、当然、出来上がる部屋は四角くなるが、石や岩を削って作るのならば、無理に四角く削るのではなく、丸く削るのが理にかなっておるのか。これは面白い」
「おお、説明しようとしておった事を、全て言われてしまいましたな。その通りにございます。固い岩を削る際には、丸い形が力も均等にかかり安全ゆえ、特に四角くせねばならぬ理由がない限りはそう致します」
控えていたギードが、苦笑いしつつそう言って一礼する。
「これは失礼した。いや、良きものを見せてもらった」
振り返った陛下は、照れたように笑ってもう一度丸い天井を見上げてから廊下の天井も見た。
もちろん、足元こそ平らになっているが、廊下の天井は全て筒状になっていて丸い。
「という事は、部屋も丸いのか?」
「はい、もちろんでございます」
笑顔で頷くギードの言葉に、陛下が満面の笑みになる。
「では、次は部屋を見せてもらうとしよう。私が泊まる部屋は何処なのだ?」
「ご案内いたします」
「ああ、其方達はもうよいぞ。部屋に戻りなさい」
苦笑いしたシヴァ将軍の言葉に頷き、陛下が嬉々としてその後に続く。当然、その後に続こうとしていたルーク達やレイ達を見た陛下は、足を止めて振り返るとそう言って手を振った。
「しかし……」
困ったようなヴィゴの言葉に、陛下は笑って首を振った。
「夕食はどうなっておるのだ?」
「もちろん準備は出来ております。しばしお部屋でお休みいただいた後に、ご用意させていただく予定となっております」
「なら、それまで解散だ。行こう」
平然とそう言った陛下は、本当にそのままシヴァ将軍だけ連れて行ってしまった。
「えっと……」
その二人の後ろを、恐らく陛下の担当なのであろう何人もの執事達が足早に追いかけていくのを見送ったレイ達だったが、それを見ていたルークが苦笑いして首を振った。
「まあ、陛下も自由が欲しいんだろう。王宮内では間違いなく何処にいても人の目があるからなあ。でもここでなら、少なくとも人目を気にせず自由にしていただけるからな。まあいい。とりあえず俺達も着替えよう。ええと、俺達の部屋ってどうなっていますか?」
「ご、ご案内いたします」
慌てたようなシルカー伯爵の言葉に、控えていた数名の執事達がルークとヴィゴの元へに駆け寄る。
「じゃあ、僕らも一旦解散だね。えっと、でも持って帰ってきた荷物の整理もしないと駄目だね。じゃあ、着替えたら居間に集合かな」
「そうですね。とりあえず着替えてきましょう。あ! ねえ、私達は夕食の際には何を着れば良いのでしょうか? と言うか、そもそも陛下と一緒に私達も食事をするのでしょうか?」
「それは、もちろんご一緒に食事をする事になるかと……とりあえず、向こうで着ていた程度の服で良いかと思いますが」
振り返ったルークが、一瞬目を見開いたが少し考えてそう言ってくれた。
「それなら、持って帰って来た荷物をまずは開けないと私達は着る服すらありませんよ。元々部屋に置いてある服なんて、どれもここで着ていた普段着ですから」
真顔になったタキスの言葉に、ニコスとギードだけでなくレイまで揃って吹き出す。
「あ、僕の場合、そもそも部屋に着替えなんて無いよ」
笑ったレイの言葉に、タキス達がもう一度吹き出す。
確かにレイの場合、そもそも持って帰ってきた荷物を開けないと着替えなんて部屋には置いていない。
顔を見合わせたレイとタキス達は、急いで居間へ向かおうとした。
「あの、持って降りてきた荷物は、一旦別室にまとめてあります。必要であれば開けるのをお手伝いいたします」
残っていた執事達が慌てたようにそう言い、もう一度顔を見合わせたレイとタキス達は、執事の案内で荷物を開けるために別室へ向かった。
それを見て、苦笑いしたルークとヴィゴも顔を見合わせたところで吹き出す。
「ちょっと待て。今、何も持たずに陛下はシヴァ将軍と一緒に部屋へ向かわれたが、そもそも陛下の着替えも持ってきた荷物の中だぞ。それに俺達の荷物も」
その言葉を聞いたレイ達の足が止まり、顔を見合わせてもう一度全員揃って吹き出したのだった。
結局、まずは手分けして大急ぎで荷物の確認をして回り、まずは陛下の荷物を取り出して部屋に持って行ったルーク達が見たのは、着替えもせずにソファーに座った陛下とシヴァ将軍が、部屋に用意されていた陣取り盤を挟んで楽しそうに話をしている姿だった。




