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第27話 儚い夢

今日で18歳。そろそろ受験勉強しないと……(白目)

 ふわり、ふわり。水の中を漂う感覚は続く。

 心地良い冷たさと、感覚。それらが俺を深い眠りへと誘おうとする。

 もう、手足の先の感覚は無い。ただ、そこにあると認識しているだけ。もしかしたら、もう無くなっているのかも知れない。

 目を開けている感覚は無い。どうせ開けていても、閉じていても変わらない。

 口を動かしている感覚は無い。此処には話す相手が居ないから。

 息をしている感覚は無い。心臓が鼓動している感覚が無い。無い、無い、無い。何も無い。

 空っぽなナニかが其処に有るだけ。

 これが夢ならばどれだけ良かっただろうか。目を覚ませば、また、何時もの様な日常が送れるのだろうか。

 テストの結果に苦笑いし、一喜一憂する事は出来るだろうか。

 クラスの皆とイベントに楽しく参加できるだろうか。

 彼奴らと馬鹿話をして笑いあえるだろうか。

 そんな思いを胸に秘めながら俺は意識を沈める。

 全ての事から逃れるために――


 *


 パシン、と頭を何かで叩かれる。覚醒しきっていない頭を無理やり覚醒させる。

 長い間眼球を圧迫していた所為か、視界が霞む。手の甲で目を擦りながら状況を確認する。


「――ったく、また夜更かししていたんだろう」


 横からの声に一瞬ビックリする。

 恐る恐る声のする方を向くと、そこには出席簿を持った担任の大久保がいた。

 慌てて姿勢を正す。我ながらよくここまで機敏に動けたものだ。

 大久保は溜息を吐くと教卓の方へと戻っていく。

 改めて周りの状況を確認すると、どうやらHR前だったようだ。


「えー、悪い話と地獄の様な話と良い話どれが聞きたい?」


「そりゃ良い話だけだろ」


「よし、良い話は後回しだ」


「ひでぇなおい!」


 クラス中が笑う。何時も通りの日常だ。

 ――ただ、少し違和感を感じる。


「まず悪い話だが、今日は大名行列があるぞ」


「はぁ!?彼奴ホント何やってんだよ!」


 大名行列――この学校の理事長が学生の姿を見に来る事を指す。それでは何故大名行列と呼ばれているか。それは何時も校長や教頭、学年主任などをまるで大名行列の様にして見回るからだ。正直言ってウザったい。ワイワイ楽しくやっている授業が一瞬にして白けるし、変な難癖つけて切れる事も良くある。ハッキリ言って邪魔だ。

 確かに悪い話ではある。だがそれ以上に酷い話があるのだろうか?


「地獄のような話はだな……」


 そこで区切ると、クラス中をゆっくり見渡す。

 ゴクリ、と誰かが唾を呑む音が聞こえる。


「――来週、期末テストだ」


 その言葉が発せられた瞬間、クラス中で悲鳴が上がる。

 そんな彼らにさらに追い打ちをかける様に大久保は、


「更に今回から赤点の基準が50点になった」


 と言い放つ。その言葉に騒がしかったクラスはしーん、と静まる。

 大久保はそんな生徒の様子を気にする素振りを見せず更にどん底に落とす言葉を言う。


「それに伴い課題のボーダーは70点になった」


 その言葉によって生徒はまるでお通夜の様な雰囲気になる。


「まぁ、問題はその分簡単にしといてやるから元気出せ。――それと良い知らせはだな……転校生が来る。」


 転校生。その言葉に今まで沈んでいた生徒の一人が反応する。


「――それは、女の子ですか?」


「さぁな。ただし来るのは明日だ」


 その言葉に一部の生徒たちは転校生が男か女か、容姿はどうか等で盛り上がっていた。


 *


「――であるからして、ここの問いは――」


 先生が黒板に数字を書き説明する。それを真面目にノートに写す者、ノートの端に落書きをする者、全く関係の無い本を読む者、夢の世界へと旅立ってしまっている者、友達と話す者……様々な行為をしているこの教室で、倞は真面目な奴に板書をやらせ自身は今朝見た夢を思い出す。




 ――鉄とナニかが焼ける匂いが鼻に衝く。



 ――真っ赤に燃える背景に男が嗤う。



 ――その傍に銀色の髪の女が胸から血を流し倒れている。



 そこで夢から覚める。予知夢か、己の願望なのか、それとも――。

 そこまで考えて倞は首を振る。どうせ意味の無い夢に決まっている。直ぐに忘れるさ、と。

 その後、直ぐに夢の世界へと旅立った。


 *


「ふぁ~……ねみぃ」


「お前は何時もそうじゃねーか」


「うっせぇ……眠いモノは眠いんだよ」


 次の日、倞が席に着くと隣の席の赤城直人が倞に話しかけてくる。寝不足気味の倞は若干イライラしながらも赤城の話し相手になる。


「ところで今日は何の日か覚えているか?」


「……新作ゲームの発売日?」


「違うだろうが!今日は転校生が来る日なんだよ!」


「……あぁ、そうだったな」


 倞は興味が無いと言う風に言うと腕を枕代わりに寝ようとする。

 だが、赤城はそんな倞を寝かせようとはせず、永遠と語りだす。

 初めは無視しようとしていた倞だが、次第に苛立ちが募っていく。そして、ついに――


「……なぁ、赤城」


「お、何だ?やっと話す気になったか?」


「取敢えず黙れ」


 ――実力行使に出た。

 右腕を引き絞るように後ろへ持って行く。限界まで引き絞った後、短く息を吐き右腕を前方に放つ。余りに大ぶりなその動作は、赤城によって簡単に止められる。

 しかし、止められたと同時に何も構えていない左腕をコンパクトに畳み赤城の腹部に叩きこむ。が、帰ってきたのは赤城の苦しむ声では無く、殴った倞の驚愕した声だった。


「硬っ!?」


「ふはははは!この日の為に雑誌を買い込んで腹部に詰め込んでおいたのだ!その所為で防御は上がっても財布の中身がスッカラカンだがな!」


 途中から若干涙目になりながら言う赤城の姿に倞は溜息を吐く。

 その時、教室のドアがガラガラと音を立てて開く。


「お前ら席に着けよー」


 大久保が教室に入ってくる。倞は未だに凹んでいる赤城を席に座らせる。大久保は辺りを見渡し出席簿を机に音を立てながら置く。


「昨日話した通り、今日転校生が来る。改めて席作るとどこに来るか分からないからこれを機に席替えだ。どうだ、うれしいだろ?」


 その言葉に教室が少し騒がしくなるが、大久保が出席簿で再度音を立てる事で直ぐに静かになる。


「そんでもって、時間掛かりそうだから勝手に決めておいたぞ」


 その言葉に教室内で落胆するような声が上がる。大久保はそれらを無視し、ドアの方へ向かい来い、と一言いう。

 すると、ドアが開かれそして――


 *


「お前は何時になったら目を覚ましてくれるんだ……」


 倞が寝ているベットの横でリリスは椅子に座りながら倞の手を握っていた。

 ハーイ・ハンドとの戦闘から既に1週間と少しが経過していた。カンニバル帝国とヘルメス皇国の両同盟による『アニメジア連邦奪還作戦』がもうすぐ開始されようとしている。リリスはその作戦に徴集されたのだ。当然倞の事があるので反対したが、今は戦力が少しでも欲しいとリリスの提案は却下された。その為、リリスは今日から『アニメジア連邦奪還作戦』の最前線基地へと行かなければならなくなったのだ。リリスはせめて最後にと、倞の元へ赴いたのだが、倞は相変わらず意識が戻らない状態だった。


「……私はもう行かなければならない。もしかしたらお前とはもう会えないかもしれない……」


 リリスは涙を流す。そして、倞の手を強く握る。


「だから、お前に最後に行っておきたい言葉がある――」


 ふと、席を立ち倞の頬に唇を当てる。


「――ありがとう」

今回、初めの400字で約2週間、日常会話で1ヶ月、リリスの部分は40分掛かりました。日常会話の部分が本当に辛かった……。


ちょっとした小話

・倞はハーイ・ハンド戦でこうなる筈じゃなかった。それに伴い本来出る筈だった魔族が出なくなった。

・日常会話の部分で第1話に出て来た赤城が出てきているけど加賀が出て来ていない理由は違うクラスだから。

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