第16話 祭り
珍しく3000字近いです。
青く澄み渡った海、大地一杯に広がる草原、それらを超えた所にあるアニメジア連邦首都ピョング。そこでは二年に一回の祭りが行われていた。
「らっしゃい、らっしゃい!ピョング名物の小麦の薄焼きだよ!」
「特製の漬物はいかが?今なら安いよ!」
「取れたて新鮮の魚はどうだい!」
何処の出店も客を呼ぼうと大きな声を上げて勧誘してくる。倞は地球に居た頃の食事と似ている物が多数あり、どれもおいしそうで目移りしている。対するリリスは、このエリアに興味が無いのかズンズンと前に行ってしまう。
「ちょっ、待てよ。」
倞はリリスを呼び止めるがリリスは、
「飯より武器だ。」
と言い残し早足でどこかへ消えてしまう。なんとも言えない感じになった倞は、どうするか迷った結果、食べ物を選び手当たり次第に胃に収めていくのであった。
*
「ふぅ……食った、食った。」
数時間後、粗方食べつくした倞は一旦リリスの元へ向かう事にした。流石に小腹位は空いているだろうと焼き鳥を数本買って置く。倞自身も自分用に買った焼き鳥を摘みながらリリスが居るであろう武具エリアに向かう。
暫く歩いていると、一軒の武具屋の前で落ち込んでいるリリスを発見する。倞は、
「どうした?目の前で売り切れだったか?」
と、少し笑いながら問いかける。対するリリスは暗い表情のまま、
「お金が……。」
「うん?」
「お金が……足りない。」
「知らんがな。」
倞は思わず即答してしまう。リリスはそんな倞を暗い眼差しで見ながら、
「――今から稼ぎに行くぞ。」
と、有無を言わせない様に言う。当然倞は反発しようとするが、リリスの表情を見て、
「――はぁ、分かったよ。――だけど行くのは明日からだ。良いな?」
「あぁ、絶対だぞ!」
まるで子供だな、と倞は思わずにはいられなかった。
*
次の日、さっそく倞はリリスと共に冒険者ギルドへ向かう。ピョングの冒険者ギルドは洋風な作りで中の様子もエードの冒険者ギルドと違い、完全に酒場と一体となって居る。また、祭りの為に冒険者ギルドの中も人で溢れ返っている。
倞とリリスは依頼を確認しに掲示板へと向かおうとするが、途中で少し体格の良い男に行く手を遮られてしまう。
「――邪魔だ。退け。」
倞は若干不機嫌そうな声で言う。対する男は不敵な笑みを浮かべる。
「それならそこの女を置いて行け。」
「――あ?」
周りにいる人々の視線が倞と男に向く。
「聞こえなかったのか?女を置いてどっか行け。」
「断る。貴様如きの言葉を何故聞かなければならん。」
倞は段々とイライラして来ていた。今ここで切り捨てても大丈夫じゃね?とも考える位に。そんな倞の内心を知らず、男はさらに挑発するように畳み掛ける。
「お前の様なガキはBランクの俺、ボルジア様の言う事を聞いていれば良いんだよ。」
周りからは、
「またやってるよ、あいつ。格下にばかり大きく出やがって……。」
などの声が聞こえてくる。リリスはと言うと、
「早くしろ。」
一言。だがボルジアは何を勘違いしたのか機嫌を良くし嫌らしい笑みを浮かべ、
「さぁ、早く渡せ!」
「――Bランク如きがギャーギャー言ってんじゃねーよ。」
「あぁ?」
倞はポケットにある冒険者カードをボルジアに見せる。
「なっ!?Aランクだと!?――クッ!」
ボルジアはその場から逃げるように走り去る。倞はボルジアの後ろ姿を見て、
「一発かましとけば良かった……。」
*
その後、幾つかの依頼をどんどんこなして行き、遂に目標金額までたどり着いた。本来なら2日はかかる所を約9時間で終わらせた倞とリリスはピョングの冒険者ギルド内で有名になったのは言うまでもない。
そして、リリスは倞を待たせ身体強化をフルに使い武具屋へと向かう。倞は余ったお金で屋台を回る。一応リリスには少し多めのお金を持たせてあるが、武器に全て使うだろうと考えリリスの分も買う。
そしてギルドに戻ってくると、丁度買い終えたのか物凄く良い笑顔で此方へ走って来るのが見えた。
かなり速度を出していたのか、止まる時に地面を軽く抉りながら止まったリリスは倞に少し大きめのロングソードを見せる。
刀身に魔方陣が書かれている事から魔装具である事は分かるが今一見た事の無い形の魔方陣で書かれている。文字も漢字ではなく、英語の様な物が書いてあり解読には少し時間がかかりそうだな、と考えていると、リリスが、
「これは普通の魔装具では無い!『太古の魔装具』だ!」
『太古の魔装具』――その名の通り、遥か昔に作られた魔装具で、効果や規模は魔装具の比では無いが、使い手を選ぶなど様々な制約が有ったりする。そして『太古の魔装具』はかなり高価であり、かなり高位の貴族達でも碌に手が出せなかったりする。
そんな『太古の魔装具』が何故普通の魔装具程の値段で買えたのか、倞は不思議に思いリリスに聞く。
「何でそんな物が普通の魔装具の値段で――、待てよ。まさか盗んだんじゃ無いだろうな?」
「如何してそう言う風に考えるんだお前は……。」
呆れた声色でリリスは言う。
「その魔方陣を見てみろ。『太古の魔装具』は普通とは違う魔方陣が書き込まれていると言われている。そして、この魔方陣は普通の魔方陣では無い。」
「なんでそんな事が分かるんだ?お前は魔方陣が分からないんじゃ無いのか?」
「勘だ。」
「――は?」
「だから勘だと言っているだろ。」
「――おいおいおいおい!勘なんて言葉で済ませんじゃねーよ!?」
流石の倞もリリスの言葉には驚きを隠せない。
「それ以外言い様が無いんだ。それに一回素振りをしてみれば普通の魔装具とは少し違う感覚がした。――なんと言うか昔から使っている武器の様に手に馴染むと言うか……。」
「はぁ……。まぁ、気に入ったなら良いんだけどな。『太古の魔装具』が格安で買えたなんてラッキーな事だし。」
リリスの購入理由に今一納得が出来ないが、本人が気に入ったなら良しとするか。と、考える。
その時、ふと思い出し、
「そうだ、結局お前何も食べずに武器買いに行っただろ?どうせ金全部使っちまっただろうから。」
ほら、と倞は手に持っていた焼き鳥をリリスに渡す。
直後、リリスのお腹が盛大な音を立てて鳴る。流石のリリスも恥ずかしかったのか、顔を赤らめ、
「あ、ありがとう。」
と小さな声で言い、一口、また一口と口に含んでいく。
焼き鳥はすっかり冷めきってしまっていたが、リリスにはとても美味しく感じられた。
「――ありがとう。」
もう一度噛みしめるように呟く。倞はそんなリリスの言葉に気づく事無く、宿の方へ向かって歩いて行く。
リリスはそんな倞の後を追いかけるように着いて行く。
――こんな幸せが続いたら……。
リリスは思う。
しかし、その願いは空しくすぐに崩れ去る事となる。
これ書くのに4日費やしました。(1月30日現在)
『太古の魔装具』――魔方陣が通常の物とは違う文字で書かれており、それ一つで戦局を覆す事が出来る物も多い。使い手を選ぶことが多くもっぱら観賞用として所持されることが多い。




