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ドグマ・ルーアッハ  作者: 三科享史
第四章 見たい夢を見る方法
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第48話 そして新しい未来へ

「よく覚えておきなさい。それが道を間違えたあんたの結末よ。堕天使と組んだ時点で——どれだけ理想を掲げようとも、あんたはそうなるしかないの」

「っ」


 呆然としたまま固まっていたヴェイルがハッと意識を取り戻し、表情を隠すように俯いた。戻ってくる——のは今現在のこの瞬間にか、彼の「本来の世界線」の自我が(・)か? 恐らくそのどちらでもあった。


「……ヴィー」


 落ち着いて、顔を上げたヴェイルの目は、今までに見たことがないものだった。ルアハと離別しイェスタにも拒絶された悲しみ、孤独と自責に塗れた「今回」のヴェイルにはない、危うさと敵愾心。だがそれは一瞬燃えただけでふっと静かになって、彼は冷めた目でイェスタを見た。いや……じっと目を合わせていると、動かないその視線はイェスタの何かを見透かすようで、少し恐ろしくも感じた。


「ヴェイル……? 何か見たの?」

「ち……、『予言』には、見せられなかったみたいね。まあいいわ、……あんたの方が、ちゃんと、身の程を弁えてるから……」

「おい、ウルド?」


 気付けばイェスタの中でウルドの気配が希薄になっていて、体の中に柔らかな風が吹いたような感覚を得た。

 ……コン、と何か重たいものが落ちて、少し傾いて倒れる音がした。

 それは、菱形の白い結晶だった。ただの白というわけではなく、光の加減によって虹色に光っている。

 ちょうど……太陽が隣の建物の上に顔を出し、教会の中に日光が差し込んだ。


「……彼女は力を使い果たしたのね。——ヴェイル、大丈夫?」


 ルアハに訊ねられて、ヴェイルはちらと彼女を見た後、「……ああ、大丈夫だ」とやや遅れて答えた。彼はまだ、二つの現実の間にいるのかもしれなかった。



「——ここか! いたぞ!」


 開けっぱなしの扉をくぐって、白い制服の追跡者(パーサー)が三人姿を現す。

 ルアハは堕天使だといい、闇(ニクス)の力を使える。追跡者(パーサー)に見つかれば、ヴェイルは執行の対象になってしまうだろう。

 逃げろ、と言う前に、イェスタはどうしても気になったことをルアハに訊いていた。


「……なあ、君たちの他の罹患者(フォトラビック)も悪魔の仕業なのか? 悪魔だけを倒せば恐光症(フォトラビア)は治るのか?」

「ええ、治るわ。悪魔と同次元の、つまり天使の力を借りれば。だけど……今の天使にその気はないみたい」

「どうして……」

「私には分からないわ。何か深い理由があるのかも」


 ルアハは皮肉っぽく言って、結晶を見下ろした。イェスタはずっしりと重たく、しかし美しいそれを拾ってみた。

 追跡者(パーサー)が攻撃を繰り出すが、ウルドとバティンの戦いと比べればお遊びのようなものだった。バティンの力を呑んだルアハは簡単に闇(ニクス)でそれを弾いて、ヴェイルに微笑みかける。


「ヴェイル、一緒に逃げましょう」

「……ああ、逃げる……か、それがいいな」

「ヴィー」


 イェスタは慌てて、追跡者(パーサー)には聞こえないくらいの声量で、彼を最後に呼び止めた。


「俺たち、親友だからなっ!」


 ヴェイルはルアハと共に走り出しながら、イェスタを振り返る。


「…………」


 その複雑な笑顔は、「救えない」と切り捨てるにはあまりにも惜しい、繊細な光を宿していた。



 バティンの絶光領域(ニクトレルム)によって崩落した壁を抜けて、ヴェイルは去っていった。

 追跡者(パーサー)はイェスタに駆け寄りながら、「何だあの罹患者(フォトラビック)は⁉︎」と驚愕の声を上げる。


「……聞いたことがある。特に強力な力を持つ罹患者(フォトラビック)は、夜は外に出て、絶光領域《ニクトレルム》を日中に籠る拠点としてだけ使うんだと。本当に滅多にない話だけどな」

「ですけど、あいつは発症したばかりなんでしょ?」

「ああ、だからこの昼を越すための絶光領域(ニクトレルム)を作るまで、絶対に見失っちゃあならねえぞ。クローチェ、追跡はしてるだろうな?」

「もちろん。そうだ、……あいつと最初に戦ってた『イェスタ様』って君のことかい? よく無事だったねえ」

「さっき遠くから、光輪が出てたのが見えた。彼はかなりの力を持つ……覚醒者、いやあるいは、それ以上の存在かもしれない」

「……ええ⁉︎」


 覚醒者……。それは、天使の契約者ということだろうか?

 それなら生憎、イェスタはもう覚醒者ではない。ルアハによってウルドはイェスタから剥がされて、この結晶の姿になった。

 しかし、……恐光症(フォトラビア)を治すには天使の力が必要だ。


「それは協会に来てもらわないとね……」

「ああ、覚醒者には追跡者(パーサー)になってもらいたい。二年経てばスフェーンに戻ってくることもできる、マックスウェル家且つ覚醒者なら、政治家との両立にも誰も文句は言わないだろう。前向きに考えて頂きたい」

「…………」


 イェスタは言葉を出す前に少し逡巡したが、自分では分かっていた。もう己の心が決まっていることを。



「——追跡者(パーサー)になるのは構いません。が……少し、条件があります」

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