第4話 立ち向かえない恐怖は解くことができない
当然、ヴェイルと同時に追跡者になって、今度は二人で追跡者としての実力を競るものだと思っていた。
「マックスウェル卿、あなたの凄まじい光の力、見せていただきました。入隊後のあなたの活躍を心より期待しています」
トストは最後に、イェスタに近寄ってきてそう言って帰っていった。イェスタはそれを見送ってすぐに、居ても立ってもいられない気持ちで走り出した。光が強烈に瞬くのを目撃した他の生徒たちが集まってきていたが、「悪いっ」とだけ言って掻き分ける。
来た道を辿るがヴェイルの姿は見当たらない。彼は大勢の人が苦手だから、一刻も早く学校を出ようとするはずだ。
しかしそのまま待たせている馬車まで着いても、彼の姿はなかった。御者のテオバルトが、一人で焦っているイェスタを見て困惑する。
「テオバルト、ヴェイルは?」
「え? 戻って来ていませんが……。あの馬鹿、また坊ちゃんを一人にしたんですか?」
「そうじゃない。……選定の儀が不公平で、ヴェイルは才能がないってことになったんだ!」
イェスタが叫ぶと、テオバルトは目を丸くした。テオバルトは使用人としてのヴェイルの教育係の一人だったから、ヴェイルの将来の夢のこともよく知っている。
「そんな。ヴェイルの奴、追跡者になりたがってるのは本気だったのに」
「強い意志があれば、全く発現しないなんてことはまずない。なのにあいつ、諦めたみたいに帰って……」
テオバルトは真剣な顔になって、「協会に訴えておきましょう」と頷いた。
「ヴェイルは先に帰るって言ってた。もう少し探して見つからなかったら、俺たちも帰ろう」
「分かりました」
「俺は中庭のあたりを探してくる。テオバルトは門の方を頼む。まだそんなに時間は経ってないんだ、外に出たとしても遠くには行ってないと思う」
頷き合って、イェスタは再びヴェイルを探し始めた。ヴェイルは隠れるのが上手いから、もしかすると見落としているだけかもしれない。そして彼は、特に自然の多い手入れされた場所が好きだ。
「…………」
しかししばらく探しても、ヴェイルの姿は見当たらなかった。生徒であるイェスタでも初めて来た中庭の端でため息を吐く。
ヴェイルは追跡者になるべきだ、と思う。彼の気持ちの強さもあるが——イェスタはヴェイルと互角だと自分で言ったが、あの成長速度には天性の何かを感じる。今は互角でも、その先は……。たまに本気で命のやり取りをしているように感じるその隻眼を思い出して、イェスタは少し背筋を震わせた。
「——やあ、マックスウェル卿」
「っ?」
そこに突然声をかけられて、イェスタはばっと振り返った。気配を感じなかった。しかし、その人物を見て半ば納得した。
「貴方は……選定の儀におられた、追跡者の方ですね」
派手な髪とオーラ、そして何よりヴェイルに対して不公平ではなかったと断じたことで覚えていた。思わず、少しじとりとした目で見てしまう。彼女はそんな視線をものともせず続ける。
「そんな顔をするな。ところで少し話がある。あの眼帯の奴は、学生じゃないな。お前の身内か?」
「……。弟、のようなものです。彼が何か?」
「弟? ……。まあいい、それなら、奴の何か怪しいところを見てはないか?」
「怪しいところ……? ——何のつもりですか? 私と育ちは違いますが、彼は絶対に良い奴です。そして追跡者に相応しい」
「ふん、どうだか。——私は警告しに来たんだ、イェスタ・マックスウェル」
眉を顰める。彼女は真摯な様子で、イェスタを真っ直ぐ見つめた。ヴェイルを疑われるのは不愉快だが、大人にそうされると、真面目な学生のイェスタは真っ直ぐ受け止めないわけにはいかなかった。
「お前は恐光症の原因と経過を知っているか?」
「……? いいえ。色々言われてはいますが、はっきりとは解明されていないのでは?」
「いいや、情報が統制されているが大まかには判明している。恐光症とは——精神の不調に重なる精神汚染による異常なんだ」
「精神汚染……?」
彼女は少し声を潜める。
「そうだ。もちろん全ての精神の不調が恐光症に繋がるわけではないが、罹患者の場合、そいつが持つ光が闇へと変化していくことになる。私が何を言いたいか分かるか?」
「——いえ……」
胸の奥がざわつく。
「これは滅多にないことだが。発症前の罹患者が、光の塊である極光結晶に触れた場合」
「…………」
「罹患者の光は限りなく少なくなっているか、既に闇に置き換わり始めている。そして、後者であるならば……」
「——そんなわけないッ‼︎」
イェスタは思わず声を荒らげた。
否定したものの、ドッドッと鼓動が速くなっていた。彼女の説明には筋が通っている。
——ヴェイルが罹患者? 精神汚染によって、光を失っている?
「そ……そんなわけない。たとえ貴方の話が本当だったとしても、ヴェイルは……」
「私は忠告しに来た」
彼女は繰り返す。イェスタは狼狽えるしかなかった。
「極光結晶が割れるレベルだ、発症はもうすぐだろう。追跡者の期待の星、彼の『兄』、イェスタ・マックスウェル、君がしっかりしておけ。何かあればすぐ、追跡協会のナシュタ・モットラムを呼べ。私のことだ」
そう言って、彼女は踵を返した。
「……っヴィー、どこにいるんだ」
早く会って話さないと。イェスタは動揺を隠せないまま、弱々しくひとりごちた。




