第37話 まだ誰も見ぬ未来のために
「まだ扱えてはいないようだ」
「——大丈夫、私はただ最高のシチュエーションを待っているんだ」
「その男、既に闇の手に落ちているんだろう。それが『予言』でないのなら、そろそろ恐光症の初期症状が出る頃だろう。ボクが手を出せばまだ間に合うが」
「イシャナ、その結末を教えてあげよう。彼は『予言』が来てくれることを期待している——つまり君が来て救ったところで彼にとっては期待外れなんだ。かえって『予言』の不在を強く意識してしまう。自死するか、無気力な壊れた人形になるか……そのどちらかだ」
「救えないな」
「だろ? ははは」
「それで今日はどうした。直接話したいなんてらしくもない」
「二つある。一つ目は、追跡者の教条はより盤石であるべきだという話だ。俗界での優位はそのまま私達の優位——しかし、私がイェスタ・マックスウェルのもとに降臨したことで『予言』の居場所を掴む以前の世界で、奴らは治療可能性を餌に味方を作り、人々に期待を抱かせていき、君のもとへ辿り着いた。私と君は協力関係にあったが、そこにオラジンが介入して、私達は負けた。『予言』の力は私が奪ったが、オラジンがどうやって『予言』を発見したのか分からない以上、第二第三の想定をしておくべきだ、イシャナ。ああそうだ、追跡者が闇によって眠らされているのを同様に見做して処分するのはやめるんだ。付け入る隙になってしまっていたからな」
「なるほど」
「もう一つは、『予言』のことだ。『予言』は既に、その力を闇からしか供給できなくなっている。悪魔の吸収をさせたとして、私に扱えると思うか?」
「心配するな。『予言』と『逆行』は本来表裏一体、そして祝福は光や闇よりも上位の力だ。その繋がりはそんなことで妨げられるようなものではない」
「そうか、それは良かった。もう少し待っていてくれ、計画は順調なんだ」
「随分疲れているようだが」
「…………」
「——……」
「……そうかもな」
「————」
「イシャナ、私は……」
「…………」
「私は、この争いの展開を……既に何十と見てきた。いずれの世界でも最後まで見ることは叶わなかった。だが、未だ諦めてはいない」
「……——」
「ようやく辿り着いたんだ、この二年間に。英雄イェスタと『予言』契約者のヴェイル、一見何の関係もないような二人の運命が絡まるこの瞬間に」
「…………」
「……もう少しだ……もう少しで次の可能性を確かめられる。イェスタ・マックスウェルの英雄の素質を開花させ、『予言』を手中に収める、その未来へ」
「————」
「だから共にオラジンを討ち滅ぼそう、イシャナ。ああしまった、この世界じゃまだ私達は……」
イシャナが僅かに眉を顰める。そして、ウルドの頭を抱えた手をとった。
「——イシャナ?」
その指先から、何か温かいものが流れ込んでくる。それを受けると、イェスタの体の中にウルドの力がより行き渡ったような気がした。
「……これは驚いた、君がこんな施しをしてくれるとは」
「ボクは状況を甘く見ていたのかもしれない。この時点で知ることができたのは君の功績だ」
「……少し喋り過ぎた。もう隠す必要はないが、私は君をいずれ仲間となる者として信頼している……。だがまだ君はそうじゃない。君の信頼を得るためにも、計画を成功させないとな」
「期待しよう、ウルド」
イシャナはそう言う。
ウルドは濃い疲労の影を振り払うと、いつも通りのイェスタ・マックスウェルに完全に戻った。
シェインの瞳から模様が消え、彼女の意識が戻ってくる。彼女は一瞬状況を飲み込めていない様子でぱちくりと目を見開いたが、そこにはもうイェスタの姿はなく、彼女はまだ日の高い時間に居眠りしていたという状況以外を認識することはなかった。




