↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドグマ・ルーアッハ  作者: 三科享史
第二章 それぞれの教条
21/57

第20話 無謀な攻略

 追跡者(パーサー)は〈マグニスの絶光領域(ニクトレルム)〉にかなり頻繁に出入りしているようだ。完全攻略が難しいとはいえ、野放しにしておくわけにはいかないからだろう。その中にはイェスタの姿もあった。

 追跡者(パーサー)が不在になるのはやはり夜の時間帯だ。夜になると、出口を見つけること、そして日光という天然の——言葉を借りるなら“光の世界”に逃げ込むことが難しくなる。

 罹患者(フォトラビック)と同じ“闇の世界”の方がヴェイルにとって都合がいいということは想像に難くない。二つの理由に支持されて、ヴェイルとノーマの〈マグニスの絶光領域(ニクトレルム)〉入りは夜に決まった。


「——説明してなかったけど、僕は色々あってどうやら闇(ニクス)の力を使えるんだ。絶光領域(ニクトレルム)攻略のために、おまえにも光(フォス)と闇(ニクス)どちらかの力に目覚めて欲しい」


 日暮れを見送りながらそう告げると、ノーマはこくりと頷いた。


「確か、人間は元々光(フォス)の力を持ってるんだよね?」

「ああ。多分、悪魔に憑かれることでそれが闇(ニクス)に変化していくんだ」

「ヴェイルさんも罹患者(フォトラビック)なの……?」

「“悪魔憑き”ではある。恐光症(フォトラビア)っていう名前とは合致しないけど」


 ノーマは心配そうにヴェイルを見るが、ヴェイルにとってこの悪魔は手放せても手放したくない、自分の命より大事なものだ。


「自分がやりたいことは何か、強く思い浮かべるんだ。行くぞ。ランタンに火を」

「……うん!」


 周辺から追跡者(パーサー)がいなくなったことを確認し、枯れ葉を踏む足音をなるべく消して入口に近づく。むわっと植物と土の匂いのする森林の深くにある〈マグニスの絶光領域(ニクトレルム)〉の入り口は、それは見事な洞穴だった。

 体感気温がぐっと下がり、虫たちの声が聞こえなくなる。ランタンを掲げたノーマは、ぴたりとヴェイルについて懸命に足を動かした。ヴェイルはランタンを取り上げて、ノーマに苦言を呈する。


「……離れて、今のうちに光(フォス)を試してみてくれ。僕は悪魔憑きだから光(フォス)で火傷するんだ」

「えっ。ご、ごめんなさい。やってみるね」


 ノーマがぱっとヴェイルから距離をとって、腕を伸ばしてぐぐぐと力を入れてみたり、わたわた手を動かしてみたり、片足を引いて剣を構えるポーズをしてみたりした。しかしあの白い光の気配はない。

 ノーマはそのうち、固まったまま顔を赤くして俯いてしまった。


「……まあいい、光(フォス)とも限らないし、元々一人のつもりだったんだ。ランタン持ちがいるだけでもありがたい」

「えっ……あっ」


 ヴェイルがランタンを返して進むと、ノーマは泣きそうな声を上げながら慌ててついてきた。


「とりあえず歩いてみないことには、〈マグニスの絶光領域(ニクトレルム)〉の特性が理解できないからな……」


 そう言っていると、早速先の道が三つに分岐しているのが見えた。ヴェイルは少し迷ってから、真ん中を選択する。そろそろ目が暗闇に慣れてきた。

 道ひとつとっても〈アネの絶光領域(ニクトレルム)〉より広い。相当な人数を取り込んでいるのだろう。今も、枝先を伸ばして。ヴェイルはふと呟く。


「僕も人間を取り込んで強くなれるのかな」

「えっ。……な、なれる……のかな? 冗談だよね?」

「方法が分からないからどうしようもない。……また分かれ道だ。ここまでは罠も何もないけど、そろそろ警戒しよう」


 今度は右か左かの二択だ。ヴェイルは右を選んだ。迷っていても仕方がない。


「ん? 行き止まり……」


 その時だった。ガン! と背後で岩がぶつかるような音がして、ヴェイルはばっと振り返って腕を前に出す。だが、誰かがいるわけではない。


「……——」


 帰り道が閉ざされ、行き止まりだったはずの壁が開いていた。〈マグニスの絶光領域(ニクトレルム)〉で最もポピュラー、そして避けようがない罠だった。


「ヴェイルさん……」

「……これからこういうことは何回もあるはずだ。気にせずに行こう」

「……か、帰れるのかな、あたしたち……」

「絶光領域《ニクトレルム》を攻略すれば確実だ」


 二人はしばらく、同じように形の変わり続ける迷路を進んだ。そして、罠の作動回数が十を超え、ヴェイルが数えるのをやめた頃、状況は動き始めた。

 壁だった場所には下り階段が現れている。それは無骨な入り口とは違って、まるでマックスウェル家の邸宅のように上品なデザインが施されていた。暗いから、まるで何かの遺跡のようにも見えた。


「ここからが本当のマグニスの城だな、明らかに手が込んでる。今までの柔軟に変わる部分は、多分、追跡者(パーサー)に毎回違うルートを辿らせて、そのうちに中を改造するための時間稼ぎのためにあるんだろう」

「な、なるほど……」

「僕が先に行くから、後ろは見てくれ。何かあったらすぐに声を上げろ」

「……うん」


 ヴェイルはそして、階段に足を下ろした——のだが、全身を浮遊感が襲い、反射的に腕を壁に振り下ろす。


「っ‼︎ ヴェイルさん!」

「ああ……危ないな」


 ヴェイルの体は、辛うじて壁にグリップを突き刺した闇(ニクス)の銃によって落ちずに保たれていた。足元に大穴が空いている。中がどうなっているかは、暗過ぎて見えない——いや。


「——っ来るぞ」

「えっ?」


 ヴェイルはぐっと腹に力を入れて階段の下へ跳躍し、翻って銃を構え直す。次の瞬間、「キャキャキャキャ!」という不快な鳴き声と共に、小さな闇蟲(ニクト)の塊が穴からザワザワと持ち上がった。

 その一粒一粒は手のひらを飲み込めるくらいのサイズで、全身がチクチクとした毛に覆われた丸い形をしていて、短い足と長い牙がついていた。


「ヒッ——」

「壁に寄れ、ノーマ!」


 ヴェイルは叫んで、その小さい的一つ一つにサイトを合わせて引き金を引いた。闇(ニクス)の銃はヴェイルの経験に基づいて形作られており、音はほとんどないがリアルな反動が腕にビリビリと伝わった。闇蟲(ニクト)が密集しているおかげで全て命中し、柔らかいために重なっている他の個体も撃ち抜くことができた。

 しかし七度目に引き金を引いた時、銃はカチカチと音を鳴らすだけで沈黙してしまった。


「っ弾切れ⁉︎ ——ノーマ、飛び越えろ、走るぞ!」

「えっ! まっ、待って! っうう——」


 ノーマは唸って、結局闇蟲(ニクト)の群れの穴をくぐって目を回しながらも大ジャンプで階段を飛び降りた。少しよろけるが、足は挫いていないようだ。


「っふう、」

「くそ、面倒なっ……」


 走りながら、ヴェイルはシリンダーを振り出した。指でなぞると弾が装填される。だが六発ずつの弾丸であの細かい個体の群れを処理しきるのは無理じゃないか?

 そう思ったが、振り返ると、幸いなことにあの小さい闇蟲(ニクト)がそこそこ足の遅いことが分かった。


「ノーマ! この速度なら奴らは追いつけない。このまま振り切って探索を続ける!」

「わ、分かったっ」

「僕も何かできないか考えてみる」


 ヴェイルは言いながら、指先で壁に触れてみた。しかし模様の凹凸がある硬い感触が伝わるだけで、それが闇(ニクス)だという実感すら湧かない。

 思えば、罹患者(フォトラビック)が直接追跡者(パーサー)と戦うという話は聞いたことがない——追跡者(パーサー)の武器によく似たヴェイルの銃と、罹患者(フォトラビック)の絶光領域(ニクトレルム)、この二つの能力は両立しないものなのだろうか。


「ヴェイルさん、広い場所に出るよ……」


 ノーマが怯えた声で告げる。ヴェイルは両手で銃を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。