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第5話 猫使い、国に認証される

 父が入院した。


 父は農薬や肥料を使わない農園を経営していた。いわゆる有機栽培というやつだ。


 有機JAS認証は毎年、国の認証機関の人がやって来て現場検証と書類チェックをしていく。


 有機認証は厳密な審査で、申請書類を書くのも作物の管理も資格者でなければならない。


 父が頼れない以上、父任せにしていた書類を家族で作るしかない。


 幸い家族経営なので皆が資格を持っていた。


 私は書式さえ見れば通年の記入を真似てなんとかやり過ごせると考え、「三年間保管義務」の書類を参考に作成をはじめた。


 甘かった、と思った。

 これは素人がどうこうできる内容ではない。


「畑の野性動物の対策」欄にはひとこと、父の字で「猫」と書かれていた。


 国の審査機関から、「猫の名前、取ったネズミの匹数を記入してください」と追記の指示が書かれている。


 猫。


 父は畑に出没するネズミを猫に指示して取らせていたのか。そして匹数。どうしろと……?


 国に提出する書類に嘘があってはならない。


 そして有機認証機関は北海道で最も厳格といわれる「H会」。理論派で容赦ない女性職員。


 ……やれるだけ、やるしかない。


 この頃、Sには嫁猫が嫁いで来ていた。

 Sはパトロールに出掛けたまま帰らなかったので、私は嫁猫のCコードを連れてハウスに向かった。


 農業ハウスは主に野菜苗を育てるのに使う。


 その種を目当てにネズミが潜り込んでしまうことが、たまにある。


 Cコードはハウスの周囲を嗅ぎ回る。

 ハウスの中の、外周ギリギリのところで集中して止まるところが何ヵ所かある。


 よく見ると、そこには外に通じる小さな穴がいくつかあった。


 Cコードが穴から離れなくなったので放置し、なんとなく違う穴を踏んでみたところ、Cコードのいる穴からネズミが飛び出した!


 下で繋がっていたのだ!

 Cコードは大喜びでそれを捕まえた。


 血統書付きのチンチラだというのに、狩りが上手な猫だった。


 Cコードの止まる穴の周囲からCコードの穴に向かって地面をバンバン叩きながら進むと、その日だけで三匹取れた。


 私の中で猫使いの血が覚醒した瞬間だ。 

 多分、父もこれをやっていたのだ。


 地面に突っ伏して横目で見ると、Cコードがサイレントニャーで「早く次を!!」と言っている。


 覚醒したせいか猫語が理解できている!

 おもしろいようにネズミが捕れる!

 溢れ出る自分の才能に身震いが止まらない!


 そしてふと気づいた。

 私はいま、何をさせられているのだ。

 そしてネズミ、こんないんの?

 いていいの?

 

 Cコードは私を助手認定してくれたのか、たびたび外出の際に誘ってくれた。だが私はタイパの悪さに耐えられず、別の対策を探すことにした。


 有機格付け書類には、Cコードの名前と七匹の数字を記載し無事に認証された。


 翌年からはネットで調べてハバネロ液を作って対策欄に記入した。


 生のレッドハバネロを五百mlの水で煮込んで冷まし、百倍に薄めて倉庫やハウスに撒くだけだ。効果はしばらく持続するので、猫使いの技術を持たない人にもお勧めである。


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