第3話 目覚まし猫にスヌーズは不要
黒猫Sは毎朝、決まった時間に私を起こしにきた。
起きるまでドアの向こうで叫び続けるので、目覚まし時計のように止めることができない。
起きるには早い。
寝るにはうるさい。
猫にはいろんな機能が備わっている。
人間にとってあまり有益でない機能だ。
私はよく旅行に出かける。
ある日、温泉観光地から帰ってきたところ、Sの様子がおかしくなっていた。
呼んでも来ないし遠巻きに見ている。
二日たっても状況は改善しなかった。
猫にはリセット機能もあるのかもしれない。
とても悲しい気持ちになった。
ただ、Sが毎朝決まった時間に起こしに来るのだけはいつも通りだった。
「旅行中も毎日起こしに来てたよ」
妹が言った。
飼い主が誰だか忘れたけど、毎朝誰かを起こしてたというルーティンは忘れなかったのか。
複雑な気持ち。
「ニギャアアアアア!!!」
三日目の昼。それは突然だった。
私の顔を遠くからまじまじと見ていたSが急に叫びだし、抱きついてきた。頭をすりすりして離れない。
なんとこの猫は飼い主の顔を思い出すのに三日もかかった。
そう。三日間留守にしていたら、三日だ。
なるほど。
脳の容量が控えめ。シナプスの接続も良くないという個性を持っている。
旅行はそれからも普通に行ったが、Sは学習したのか以後は私を忘れることはなかった。
だが、途中で私から弟二号に乗り換えた。
Sが散歩中に狐がうろついていた時、弟二号が助けたのが原因らしかった。
猫は案外、義理堅い。
心の狭い私は嫉妬に駆られた。
だが、お礼にネズミの死体を贈られたのが自分でなくてよかったと心から思っている。
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