第2話 呪いの黒猫の豹変
前回までのあらすじ。
弟が美人妻に騙された。
死神の化身のような黒猫を二体飼い始めた私。
外見によらず一体は陽キャであった。
デスク作業をしていても主の都合も構わずニャーニャーと叫びながら膝にオンしてくるFメジャー。
Fメジャーはカーテンや網戸を駆け上がる。
DNA螺旋みたいな形の尻尾がコードに絡まって事故る。
鼻の穴に顔をねじ込む勢いの鼻スタンプ、急に来られると視界が揺れて顔がもげそう。
私は学生の頃から生粋の陰の側の人間。
急に距離を詰めてくる陽の者が苦手だ。
一方、いつもFメジャーに先を越され膝から締め出されるSはすぐにすねてしまい、後ろを向いたまま固まっている。
Sは挙動が慎ましい。
彼とは波長が合う気がする。
「俺、可哀想だろう?」
背中を向けたまま無言で圧をかけてくる不器用な使い魔。尻尾だけはパタパタして主を誘っている。
仕方ないから二体を膝に乗せる。
真夏でクーラーもない密室で、猫の湿った体温が貧弱な私の体力を奪っていく。
なぜ真夏に窓を開けないか?
外には犬がいて夏は犬臭い。
そして、私のバイオリンの音が外に漏れ出ると犬に迷惑がかかるからだ。
……重い。
そして理想のポジション探しで膝の上で延々と続く体重移動。子猫特有の鋭い爪が刺さる。
江戸時代の罪人が受ける「石抱き」という拷問を思い出した。
幸い実家は観光果樹園を経営していたため、お客さんにどうしてもとねだられ、Fメジャーはめでたく引き取られていった。
お客さんは町の電気屋の奥さんで、こちらもマシンガントークで人を圧倒する陽の者だ。
気の合う陽の者同士、きっと私より幸せにしてくれるだろう。
これで静かにすごせる。
Sが豹変したのはFメジャーがいなくなった直後だった。
彼には庭木を登り、弟の部屋の網戸を食い破って侵入するホーミング機能がついていた。
帰宅後の暗い廊下から花火のように大の字で飛び出すビックリ箱機能もだ。
バイトさんのお弁当を勝手に完食する。
段ボールに密封したのに、食い破ってナポリタンを完食。まさにイリュージョン。
食パン一斤を食べ進んであとはシチューを詰めるだけの状態にする。
焼きたてグラタンから海老だけ盗んでいく。
ラーメンに顔を突っ込んでガフガフ食べる。
猫舌という概念は、人間の「だったらいいな」というただの願望であろう。
しかも、この泥棒猫は美味しいものがあると家族を呼ばずにはいられない性格。
犯行を自白しながら食べるの地味に腹立つ。
愛情に飢えていた慎ましいSを家族で目一杯可愛がった結果、彼の自己肯定感が爆上がり、思いもよらぬ化け物が爆誕してしまった。
残念ながら彼が飢えていたのは、愛情だけではなかったのかもしれない。
譲渡当時はTの字みたいな顔だったが、食欲が落ち着く頃には丸々とした猫みたいな顔になっていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!ブックマーク★レビューで応援頂けると励みになります!




