リスと一緒に公開処刑された話
二十歳で東京に引っ越した。
中央線沿いのシェアハウスだった。
地名からして湿地だったんだろうな、というラーメンの有名な地区に住んだ。
北海道民はふだん自動車使用で、電車に慣れていない。
新卒採用の時期になると、毎年本社に辿り着けない北海道民が出てくるのだと大手メーカーの方が言っていた。
私の実家は秘境駅特集されるほどの田舎。
当然、無人駅だ。
東京では自動改札機を初めて通り、股下を突然、仕切り板で挟まれた。
北海道民が本州に来るときは、乗り換えできる大きい切符を使い、駅員さんがいる通路を通る。無人改札機を通ったことがなかった。
なんと恐ろしい、罠だらけの都会。
私の足があと1センチ短ければ、恥骨が粉砕されていたかもしれない。
そして池袋の駅から全く出られない。
出口はひとつしかない概念の持ち主なので、疑いもせずに知らない人の群についていった。
なんということだ。
駅の出口は60個以上あった。
道を覚えずに出口を出たから、もう自分がいる現在地も不明である。
家の窓には真っ赤な腹のサラマンダー(仮名)が何体も張りつく。怖くて窓も開けられない。
北海道にはいない、クワガタみたいな素早い虫が顔に向かって飛んでくる。
ここで暮らすのは無理だ。
ホームシックにかかった私は、お昼休みにペットショップでシマリスをお迎えした。
相棒がいれば、なんとかこの危機を乗り切れる気がしたのだ。
結果からいうと、紙の箱を開けた途端にリスは逃亡した。
冷蔵庫の裏に挟まったまま出てこない。
ひまわりの種やコーンを置いておくと減っているから、生きてはいる。
夜中に暗闇で、ゴソゴソと種を運ぶ音だけが聞こえる。
顔に向かって飛んでくる大きな虫なのか、リスなのか見分けがつかず恐怖が増す。
あの齧歯目が家電がコードを齧ったり、奥で人知れず死んだらどうしよう。
先輩が、
「人間の思考の95%は昨日と同じで、更にその80%がネガティブなもの。つまり人間は、生存にほとんど関係ないことばかり考える生き物」
とか言っていた。
まあいいか。誰にも迷惑掛からないからお互い好きに生きよう。
だが、そうもいかない日がやって来た。
お正月の帰省シーズンだ。
さすがに暖房もないところに、一匹で放置してはいけない。
先輩たちに手伝ってもらい、なんとか捕獲。
安心したのも束の間、帰省当日になって私の無知と無計画が発覚した。
リスを飛行機に乗せるには、『ペットシート』なるものを予約しなければならなかったのだ。
普通にポケットに入れて乗る予定だったが。
念のため片手でカパッと開けられる砂糖入れに入れた。空気穴も万全だと思っていたよ。
X線でリスが発見されるまでは。
グランドスタッフのお姉さんが困惑し、上司をたくさん呼んだ。
なぜこんな騒ぎになった。
黒いスーツの皆さんに囲まれる私。
息が結露し白くなった砂糖入れの中のリス。
搭乗客がどんどん集まってくる。
年末の帰省ラッシュでペットシートは満席。
三竦みの膠着状態が続いた結果、グランドスタッフのお姉さんが切り出した。
「もし宜しければ、こちらで処分させていただきますが?」
なんて??
ご迷惑をおかけして申し訳なかったけど、雑に扱っているように見えたかもしれないけど、
リスを愛してないわけではない。
わたしがリスに認識されていないだけだ。
当然お断りする。
田舎で雑に育った結果の認識のずれが、こんなにおおごとになるとは思わなかった。
「大丈夫です。キャンセルを待ちます」
結局、キャンセル待ちで搭乗するまで四時間かかってしまった。
もう、リスを連れ歩くのはやめよう。
幸い、我が家には動物好きの父がいる。
捨て動物を拾ってくるプロだ。
引き取ってもらった。
私には少しも懐かなかったのに、リスは数日で、父の掌で眠るほどよく懐いた。
リスが、実家の居間のあちこちにひまわりの種を蓄えたのは、やはり冷蔵庫の裏で過ごしたときの名残なのかもしれない。
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