落とし豚
小学生のときだ。
実家の近所で悲痛な叫び声が聞こえた。
うちは国道沿いにあり、外に出ると敷地から道路を走る車の様子が見えた。
人身事故かもしれない。
家族で見に行った。
到着すると、ピンクの豚が大量にいた。
養豚場のトラックがうちの前を通り、国道へ左折するときに豚を道路にばら蒔き、気づかず放置して行ったらしかった。
「ブキーッ!!」
落し豚による二次災害が勃発していた。
落ちて怪我をした豚、避けきれなかった車に跳ねられた豚。とにかく豚まみれだ。
人間に為す術などない。
豚を跳ねた人はご存知だろうが、あれは対物事故扱い。
警察や保険会社に車とぶつかった豚の絵を描かされる。保険ランクも下がり掛け金があがるので、はねない方がいい。
多分この光景が影響し、私の小説には恐怖の象徴として豚がたびたび登場するのだろう。
大人になった私は恐怖より食欲が勝ち、自分でも豚を飼って食べたいと考えていた。
「名前つけて愛着わいたら食べれなくなるよ」
と言われ、少し踏みとどまった。
後学の為に、
「豚とおっちゃん」の写真集を買ってみた。
おっちゃんの育てた豚は人間の子供みたいな満面の笑顔で、おっちゃんに甘えている。
ここの豚は可愛がられて育ち、農林水産大臣賞を何度もとるほど美味しいと言われていた。
……可愛がると豚は美味しくなるのか。
………………いや、絶対食べられないな。
出荷される食肉用の豚は生後半年で百五十キロ。雄の成獣、種豚は五百キロにもなる。
食べ時を逃せば魔物になってしまう。
五百キロの豚にリードをつけて歩くのは、とても骨が折れそうだ。
種豚は役目を終えるとカップ麺の謎の乾燥チャーシューなどに生まれ変わる、と防疫会社勤務の人が言っていた。
なぜ用途が限定されるのだろう?
……これはメーカーさんの技術で美味しい商品になってるけど一般の主婦が料理するのは難しい肉質になるのだろうか。
豚は時期を逃すと魔物になるうえ、肉質も疑わしい感じに?
……そんな危険な賭けはできない。
美味しい肉は食べたいけど、豚に関してはまだ保留だ。
私の食欲はこの先、天然のシカ肉に向かって進んでいくのだった。
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