第11話 巣立ちのとき
春。家の東には、家庭菜園のトンネルマルチが並んでいた。
Sは甲斐甲斐しい性格の猫で、Cコードの面倒をよくみていた。
お迎えしたばかりのCコードが、Sのカリカリエサをトイレ代わりにしても怒らず、普通に完食してCコードを可愛がった。
Cコードがはじめての外出に興奮して捕まらなかったときも、Sが捕まえてきてくれた。
その後、Cコードは子猫を産んだ。
黒、キジトラ、グレーの長毛種。
……グレーの長毛の子猫。
…………本当にSの子猫だろうか?
近所には、白の長毛で青い目の雄猫がいた。
冗談で私と父が浮気を疑うとSに咬まれた。
笑ったときに丸くなる頬肉を狙って咬む。
この猫はどこで日本語を習ったんだろう。
猫もホルモンなどの臭いで、人間の感情を読み取るのかもしれない。
とにかくSの子猫が育ち、里子に出されていった。
残った一匹がキジトラのEマイナーである。
話が逸れたので戻そう。
トンネルマルチは野菜の苗の保温と保湿に使われる長いビニール温室だ。
この中には虫や小鳥、カナヘビなどがよく迷い込み、出られなくなる。
SはEマイナーに、ここでの狩りのやり方を教えていた。
ほのぼのとした日が続いたが、ある日からSがEを攻撃するような行動をしだした。
狩りの腕を認め、独り立ちできると判断したのだろうか。
Sが可愛がっていたEマイナーを、成獣の雄として認めた瞬間だったのかもしれないし、違うかもしれない。
家族はSだけを叱った。
Sが散歩からなかなか戻らなくなったのは、それ以降だった。
テリトリーが被るのを嫌ったのか、新規開拓に行ったのかはわからない。
家の周りで見かけなくなり、夜中に帰ってくる日が続いた。
そしてその秋、ついにSは戻らなかった。
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