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訳アリ食堂店員、勇者になってしまう〜学園の嫌われ者がイケメン英雄になるまで〜  作者: はえたたき


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29.魔王幹部

「ただ」

「ただ?」

「無理はするな」

「え……」


 少しだけ声のトーンが落ちた。


「お前、すぐ自分後回しにするだろ」

「……」


 言い返せない。

 それが染みついているかのようにそうしてしまう。


「オレが前出る時は任せろ」


 さらっと言う。


「その代わり、お前がやるべき時はちゃんと前に出ろ」

「……うん」


 自然と頷いていた。


「それでいい」


 ふっと、少しだけ柔らかく笑う。

 ああ、この人はちゃんと見てくれてるんだ。


「ちょっと兄貴~?」


 ぬっとハヤミが割り込んでくる。


「なに二人でいい雰囲気出してんの?」

「別に」

「別にじゃないでしょ。ユラ、顔赤いし」

「えっ!?いやこれはその……!」

「なんかずるい」


 ぐいっと肩を引き寄せられる。


「ユラはあたしが先に目つけたんだからね?」


 にやっと笑いながらも目は笑っていない。


「兄貴にばっか取られるの、ちょっとムカつく」

「取ってねぇよ」

「どうだか……ユラ以外でそういう感情は動かんとか言ってたし」


 ちらっと睨む。ヤマトは知らん顔。

 でもその後、すぐにいつもの調子に戻る。


「ま、いいけどさ」


 ぽん、と背中を叩かれる。


「ユラはユラだし、なんであれどうであれずっと一緒にいるんだし」

「ハヤミ」

「ちゃんと見てるから」

「……うん」


 とりあえず、この辺で切り上げて森を抜けると、見慣れた顔が待っていた。


「……おう」


 腕を組んだ男、俺の親父だ。

 かばんにはたくさんのきのこやハーブが詰められている。

 戻ってくるまで待ってくれていたようだ。いい親父だな。


「うまくいったみたいだな」

「まあね。精霊もクセ強かったけど」

「そりゃ大変だったな」


 短く笑う。


「で、急いで戻るぞ」

「え」

「孤児院前に怪しい奴がうろついてるって情報を聞いた」

「……怪しい奴?」

「生気のなさそうな顔で、まるで魔族みたいだって」

「魔族……っ!?」


 嫌な予感が胸をかすめる。

 魔族という事は魔王の配下だろうか。

 先日襲ってきたサキという女の仲間かもしれない。


 全員で急いで王都に戻り、孤児院の扉を開けた瞬間。


「――――っ」


 空気が違った。

 重い。張り詰めてる。

 そして、目の前には二人。


「じいちゃん先生ッ!!」


 ダイゴローの叫び声。

 苦しそうな神父様の首を、片手で掴み上げている男がいた。

 その周囲には半泣きで棒切れをもって立ち向かおうとしている子供達。いじめっ子達もいる。


「……」


 男は静かにこちらを見る。

 知的な雰囲気で、整った顔、とがった耳。

 けれど、その目は人間味がない程冷たい。

 どう見ても魔族だ。


「噂を聞いて、勇者がどんな人物か見に来てみれば」


 口元だけで笑う。


「こんな……ぽっちゃりさんとは少々驚きました」

「……っ」


 空気が凍る。


「離せ」


 低い声でヤマトが唸る。


「おや」


 男が視線を向ける。


「君は……面白そうですね」


 神父を放り捨てる。

 どさりと床に落ちる音。


「自己紹介をしておきましょう」


 軽く一礼。


「魔王軍幹部五人衆の一人――レンヤ」

「……!」

「勇者が誕生したとの情報を聞いて、挨拶に参りました。以後、お見知りおきを」


 にこやかに言う。


「では」


 一歩、踏み出す。


「勇者様」


 まっすぐユラを見る。


「少し――試させていただいても?」


 その一歩で、空気が変わった。


「やらせないっ!」


 ハヤミが真っ先に飛び出す。

 地面を蹴る音すら置き去りにする速度。


「おりゃあああっ!!」


 ハンマーを叩き込む――――が、


 パシッ。


 止められた。

 いや――止められたんじゃない。

 最初から、そこに合わせていたみたいにあっさりだった。


「速い。ですが、軽い」


 そのまま弾かれる。


「っ!!」


 ハヤミの体が後方へ吹き飛ぶ。


「ハヤミ!」

「大丈夫……!」


 すぐに立ち上がるが、顔が強張っている。


「では、こちらも少し」


 レンヤが指を流れるように動かす。

 いつの間にか、ナイフが指の間に挟まれていた。


「サクラコ!」

「はい!」


 ハヤミの声にリリアンが走る。

 手足に絡みつき、拘束――――したはずだった。


「器用ですね」


 その声に、余裕が混じる。

 まるで、まだ遊んでいるみたいに。

 絡みついたはずの糸が、一瞬で最初からなかったかのように消えていた。


「なっ……!?」

「ですが、甘い」


 ひゅっ。

 サクラコさん向けてナイフが放たれる。


「――チッ」


 パァン。


 間一髪、乾いた音がした。

 ヤマトの銃声だった。

 空中でナイフが弾け飛ぶ。


「……ほう」


 レンヤの目が細まる。


「それは変わった武器ですね。弾丸を飛ばすだなんて便利だ。しかも反応速度が早い」


 この世界では銃という近代兵器は存在せず、この魔族は見たことがないんだろう。 


「そっちこそ」


 ヤマトが構えたまま言う。


「ナイフの軌道が読みづらい」

「お互い様ですね」


 次の瞬間、交錯する。

 ナイフと銃。

 投擲と射撃。

 読み合い。

 撃ち落とす音、空気を裂く音が連続する。

 誰も割って入れない。


「……すごい」


 ……入れない。

 俺じゃこの戦いに、入る余地がない。


 思わず呟く。

 完全に、別次元の戦いだった。

 低レベルのヤマトが食らいついている。


 しかし――――レンヤは、息一つ乱れていない。



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