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訳アリ食堂店員、勇者になってしまう〜学園の嫌われ者がイケメン英雄になるまで〜  作者: はえたたき


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28.初戦闘

 とりあえず、その周辺のモンスターと戦ってみようという話になった。


「あ、数百メートル先にモンスターが10匹潜んでる」


 索敵の得意なハヤミが察知し、ヤマトもすぐに気配に気づく。


「……来るぞ」


 ―茂みが揺れる。

 姿を現したのは――――


「うわっ……!」


 オークだった。

 人型だが、明らかに人じゃない。筋肉の塊みたいな体に、獣みたいな顔。臭い。とにかく臭い。

 王都でユラが倒したオークキングとは比べ物にならないくらい最弱だが、低レベルな自分達には丁度いい相手。


「数、多いね」


 ハヤミがニヤリと笑う。


「でも――いける!」


 地面を蹴る。

 一瞬で距離を詰め、拳を叩き込む。


 ドゴッ。


 オークの一体が吹き飛ぶ。


「すごい……!」


 思わず声が漏れる。

 しかし――――


「……っ、ちょっと数が多いかも」


 囲まれた。

 左右から同時に迫るオーク軍団。


「では、ここは私が」


 サクラコさんが前に出て、銀色のリリアンを取り出す。

 流れるように投げると、一本の毛糸と共に飛んでいく。

 オークの足をそのまま拘束した。


「そのまま――編み込んじゃいますわ」


 リリアンをくるくると回すと、毛糸にオークが可愛く締め付けられて絞殺された。


「それ強っ!!」

「応用ですわ」


 にっこり。


「ぼくもやる!」


 ダイゴローが手を上げる。

 妖精たちが一斉に飛び回る。


『めつぶしだコラ』

『どくいれたった。くそが』

『だりーしねしねゴミ共』


 オーク達の動きが鈍る。


「今だな」


 ヤマトが静かに言う。

 黒いウィンドウが開いた。


「――これでいいか」


 現れたのは、大きなハンマー。


「ハヤミ」


 それを投げつける。


「お、これいいじゃん」


 がしっと受け取った瞬間。


「おりゃああっー!」


 ブンッ。


 勢いよく振り抜いた。


 ドガァァン。


 一体が完全に沈んだ。


「うっわ、なにこれ。軽っ!」

「まだ弱い武器だが、この程度なら申し分ないだろ」

「うん。これならイケそう」


 まだ残ってる。

 オークがこちらを睨む。


「……っ」


 足が、動かない。

 さっきまでの勢いが嘘みたいに、怖さだけが残る。

 でも、ここで止まったら、また同じだ。


「ユラ」


 ヤマトの声。


「いけるだろ」

「っ、!」


 短い言葉だった。

 でもその一言で逃げる理由が消えた。


 みんなが繋いでくれたんだ。

 ハヤミが削って、サクラコさんが止めて、ダイゴローが乱して、ヤマトが道を作った。

 なら、ここは――――


「俺がやる!」


 ――逃げたくない。

 初めて、自分でそう思った。


 踏み出すその瞬間、視界が変わる。

 世界の輪郭がやけに鮮明に見える。

 空気の流れ、敵の動き、全部が手に取るようにわかる。


「繋げ!」


 ヤマトの声が飛ぶ。

 そして、一瞬だけ黄金に輝いた。


「……え」


 誰かの小さな声。

 けれど、俺自身は気づいてない。後で話を聞くまでは。

 ただ、これならいけるという確信だけがあった。


『救済の光』


 光に触れたオークの顔から、狂気が消える。

 一瞬だけ安らいだように見えた。

 光が爆ぜる。

 眩い輝きがオークを包み込み、次の瞬間には跡形もなく消えていた。


 しばらく、誰も動かない。

 風だけが、ゆっくり通り過ぎる。


「……はあ……はあ……」


 元の視界に戻る。

 鼓動がやけに速い。


「やった……?」

「ああ」


 ヤマトが頷く。

 ほんの一瞬だけ、何かを確かめるように、ユラの目を見ていた。


「ちゃんと勇者してたな」

「っ……!」


 その一言で、力が抜けた。

 初めて――――自分の意思で戦えた気がした。


「ユラ、すごーい!!」


 ハヤミが駆け寄ってくる。


「最後のやつ、綺麗な光!瞳の色、一瞬だけ黄金になってたし!」

「え、いや……」


 ぶんぶんと首を振る。


「ハヤミの方が全然強かったじゃん。あんなの一発で吹っ飛ばしてたし」

「それはそれ、これはこれ」


 にやっと笑う。


「ちゃんと決めたのユラでしょ?勇者って感じだったよ」

「っ……」


 なんか、むずがゆい。照れちゃうな。


「本当にお見事でしたわ」


 サクラコさんも柔らかく微笑む。


「皆で繋いだとはいえ、最後に踏み出せるかどうかは別問題ですもの」

「いやでも……」

「謙遜なさらないでくださいな」


 ふわりと距離を詰めてくる。


「とても、格好良かったですわ」

「う……ありがとうございます……」


 近い。なんか近い。いい匂いするし。

 心臓に悪いなぁ。


「でしょでしょー!」


 ハヤミが横から割り込んでくる。


「ほら見てよ兄貴、ユラめっちゃ良い顔してたじゃん!」

「……まあな」


 ヤマトが肩をすくめる。


「初戦闘にしては上出来だろ。怖がって足止めるタイプかと思ってたが、ちゃんと前に出た」

「……」


 その言葉が、妙に残る。


「勇者としては、合格点だ」

「……そっか」


 小さく息を吐く。

 少しだけ、胸の奥が軽くなった気がした。

 ここにいてもいいのかもしれない、なんて。


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