18.周囲の反応
「あれが……勇者なんだろ」
「本当にあいつなのか?」
「いや、でも見たやつが言ってたぞ。デブからすげぇスタイル抜群イケメンになって――」
「魔物、一瞬で倒したって」
相変わらず、ざわつきは収まらない。
昨日までの軽蔑と違う。
怖がられているのか、期待されているのか。それとも、値踏みされているのか。
複雑にいびつにねじ曲がったような視線。
ただ、居心地が悪いのは同じだった。
この不躾な視線たちは、これからずっと続くのだろうか。いやだな。
「チッ」
ヤマトが小さく舌打ちした。
「うっぜえ……」
「ほんっとうるせえ」
ハヤミも腕を組む。
昼食時、いつもの場所で三人で休憩。
でも、周囲の視線は変わらない。
相変わらずヒソヒソとこちらを見る生徒ばかり。
「あー……落ち着かないなぁ……」
俺は面倒だとぼやく。
「そのうち慣れる」
ヤマトは平然としている。さすが王族。もう慣れたらしい。
「慣れたくないんだけど。監視されてるみたいで嫌だわ」
確かにその通りだ。
「あ、そういえば」
俺がふと思い出したように言う。
「王家のネックレスなんだけどさ」
首元に手をやる。
綺麗な鎖に中心の宝石に、勇者を象徴した剣の紋章が浮き出ている。
「なんか、いつの間にか自分のものになってて……外れなくなったんだ」
触れるたびに、外れないことを思い知らされる。
まるで「お前はもう普通には戻れない」と言われているみたいで。
ヤマトは一瞬だけそれを見る。
「別にいい」
あっさりとした返答。
「それは王家の証ではあるが――元々は勇者のものだ」
静かに言う。
「役目を終えるまでは、お前が持つべきだ」
「……役目、か」
どこか他人事に思える。自分の事なのに。
「なんかさ、実感わかないんだよ」
弁当をつつきながら。
「自分にそんな途方もない力があるなんて。責任重大だし」
世界が待ち望んだ存在だなんて。
「なんで選ばれちゃったのかなぁ……」
ヤマトは、少しだけ視線を向ける。
「オレはお前が選ばれて正解だと思うが」
「……え?」
ユラが顔を上げる。
「確かに、使命とか責任とか重いだろう。だが」
淡々としていた顔が、一瞬だけ柔らかくなる。
「お前は甘い」
一瞬だけ間を置く。
「だから、選ばれたんだろうな」
なんだか恥ずかしくなる。面と面でそう言われると。
「なにそれ」
ハヤミが口を挟む。
「急にいいこと言ってんじゃん。腹黒王子のくせに」
「事実だろ、脳筋お嬢様」
あまり褒められた事のない俺に、こうして遠回しに褒めてくれるヤマト。
さりげないイケメン行動が本当に……ずるい。
本人はわかってて言っているんだろうけど。
昼休憩を終えて廊下に戻ってくると、生徒達が掲示板の前に集まっていた。
月末のテストの結果が張り出されている。
悲鳴をあげる者もいれば歓喜する者もいて様々。
そんな俺は言うまでもなく悲鳴の方だ。
今回の学園総合成績順位
一位、ヤマト・カノウ
・
・
200位ザァコ・ヤーロウ
「さすが殿下だわ。抜かりない」
「ザァコ様は……あ」
「シッ、あの人の事は突っ込んじゃだめ」
そういえば第二王子のザァコ・ヤーロウは、婚約破棄問題で多方面から責任を取らされ、離宮に軟禁されたとかなんとか聞いた。ついでにアバズ・レンダも一緒に軟禁されているとか。リア充同士よかったね。
それでも学園には、テストを受けに来る事だけは許可されているのでまだ温情がある。
ザァコの元婚約者だったハヤミは、嬉々として「あんな野郎と婚約解消できてうれしい」とすごい笑顔で話していたので、今後はもうほとんど姿を見る事はないだろう。
「それにしてもヤマト様はやっぱりすごいですわ」
「やっぱり天才です!」
「顔もいい上に王子で天才だなんて非の打ち所がないわ」
「あーん素敵」
「「きゃあああんヤマト様ぁ♡」」
遠巻きに盛り上がる令嬢たち。
ヤマトは一言呟く。
「うるせぇ」
当の本人は、心底どうでもよさそうだった。
「あは、ははは……」
苦笑するしかない。モテるイケメンは辛いというのはそういう事か。
「でもヤマトはすごいなぁ。俺なんて……」
小さくため息。
「下から数えた方が早いし……とほほ」
日本にいた時も、低い偏差値の学校に通っていた。
部活の剣道ばかりして、勉強はまるっきりしてこなかったのだ。
「今度教える」
さらっとヤマトが言う。
「え?」
「勉強くらいどうとでもなる」
「ヤマト……」
スマートにそう言えるイケメン。
この人、マジなんでもできそう。
「……まあ、暇なときな」
少しだけ視線を逸らす。
「ん、ありがとう」
俺は少しだけ嬉しそうに笑った。
王太子自ら教えてくれるなんてすっごい贅沢だもんな。
「ふーん」
その様子を見ていたハヤミは、目を細めていた。
「……あたしの前で、あんまり距離詰めんなよ」
ぼそっと、小さく。




